週刊金曜日 編集後記

1294号

▼菅義偉官房長官(71歳)が、安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選に立候補する意向を固めたと、8月30日に各新聞のサイトなどが報じました。
〈菅氏は29日、二階派を率いる二階氏と極秘で会談し、立候補の意向を伝達。二階氏は「頑張ってください」と伝えたという。二階氏は28日の党役員会で総裁選方式などの対応を一任されており、二階派は表向き総裁選対応を当面明らかにしない方針。だが、菅氏は二階氏に近く、同派は菅氏支援に回る可能性は高まった〉(『毎日新聞』ニュースサイト)
 9月1日の党総務会では、党大会を開かず、両院議員総会で新総裁を選ぶことになりました。地方で人気が高い石破茂元幹事長を押さえ込むためとみられており、菅首相誕生はほぼ確実でしょう。
 しかし、「密議に基づく総裁」に権力の正当性はありません。2000年4月、小渕恵三首相(当時)が脳梗塞で倒れて搬送された翌日、森喜朗氏を首相にすると決めた「五人組の密議」を思い出させます。安倍政権を支え続けた菅さんの政権では、社会の分断は拡大し続けるでしょう。弊誌は監視、批判を続けます。(伊田浩之)

▼たまには生のオーケストラを聴きたくなって、2月末に東京芸術劇場の演奏会のチケットを購入した。世の中がコロナでざわつき始めた頃で、行くべきかどうか迷っていたら、中止になった。その後のオーケストラの窮状を知り、憂慮していた。そんな想いを抱えながらNHK BS1の「オーケストラ・明日へのアンサンブル」をみた。緊急事態宣言中に一流奏者たちが自宅で1人演奏する姿を放送した「オーケストラ・孤独のアンサンブル」から続き、出演した13人が初めて一堂に会しての演奏。外出自粛で行けなかったミュージアムや映画、スポーツにまつわる選曲で「展覧会の絵」「ニュー・シネマ・パラダイス」「威風堂々」など。メンバーの1人がかつて1人で演奏した「くるみ割り人形」の「花のワルツ」は今回13人で演奏、熱いものがこみ上げた。演奏会に行きたい。生音を浴びたい。
 残念ながら、用心して演奏会も行かず外食も控えている身としては、せめて「吉田類の酒場放浪記」を通して飲んだ気になっている。ああ飲みたい。いつの日か、気軽に飲み歩けるようになることを心待ちにしている。(原口広矢)

▼ある日、モーリシャスでは髪の毛をオイルフェンス代わりにしているというニュースがテレビで流れました。髪の毛ってオイルフェンス代わりになるの? と思いそのまま見ていましたが、そのニュースは「住民が髪の毛をオイルフェンス代わりにしています」と、他人事感丸出しで終わりました。
 その数日後、美容室に行ったので、美容師さんに切った髪の毛どうにかしたいんだけど......と持ちかけてみましたが、「気持ちはわかるけど、どうやって送るの?」。私も調べていなかったので、その会話はそこで立ち消え。調べると、新型コロナでモーリシャスは国境封鎖中、人毛の輸入も認めていないそうです。支援したいと思ったら、寄付しかないようです。SNSでは、日本の高校生たちが寄付の呼びかけを始めています。
 グローバル化だ、世界はつながっている──と言われながら、日本は、日本が環境破壊の加害者になることは想定していなかったのでは? モーリシャスの海を汚したことが、日本には関係ないことのように伝えられていますよね。新しい首相は、ぜひ対策を講じるべきだと思います。(渡辺妙子)

▼安倍首相が辞任を表明した。これまで数々の不祥事を引き起こしても、隠蔽し、辞任しないことで首相の座は維持されてきた。
 2017年、森友問題の追及が強まる中、事実解明のキーパーソンの一人と考えられていた「安倍昭恵首相夫人付き職員」谷査恵子氏が突如、在イタリア大使館一等書記官に"栄転"。その谷氏がさらに先月には、経済産業省の産業技術環境局国際室に筆頭課長補佐で異動していたと報じられている。いま現在も谷氏を"栄転"させ、黙らせようという力が働いている。問題は何も終わっていない。
 当時の佐川宣寿財務省理財局長もやはり隠蔽し、辞任せず、17年に国税庁長官に"栄転"した。だが、このいびつな構造の維持を迫られた人たちにそのしわ寄せはいった。元近畿財務局職員は自死に追い込まれ、遺族が現在訴訟中だ。
 政治は何のためにあるのか。安倍政権を象徴する言葉として「私物化」という言葉がよく使われているが、安倍首相の辞任をもってこれまでの数々の問題がうやむやにされることは、この私物化を許すことになる。継続した厳しい追及が必要だ。(渡部睦美)