週刊金曜日 編集後記

1290号

▼今号の広島原爆75年特集はいかがだったでしょうか。核廃絶以外に焦点を当てた記事構成に驚いた読者の方もおられると思いますが、広島で活動された沼田鈴子さん、今も広島に在住する東琢磨さん、広島にはこのような「声」が存在した/することを知っていただければと思います。
 心残りは長崎について取り上げることができなかったことです。たとえば原爆文学で唯一芥川賞を受賞した林京子さんについて。林さんは14歳のとき長崎の爆心地から1キロメートルの三菱兵器大橋工場で被爆し、その30年後に小説『祭りの場』で芥川賞を受賞しました。同作品と、その次に発表された作品『ギヤマン ビードロ』に通底するのは、8月9日を体験したさまざまな人の声が同時に聞こえてくるような多声性です。
 とりわけ12編の短編の連作『ギヤマン ビードロ』には、「私の(被爆/被爆後)体験と彼女の体験は同じではない」ということに徹底的にこだわり、自らの体験を脱中心化していく林さんの意思が強く感じられます。過酷な出来事を体験してなお、その経験を脱中心化していった林さんの意思と、沼田鈴子さんの意思はどこかで響き合っているように思います。お2人が遺したものから何を学ぶか、今年も自問自答を続けたいと思います。(植松青児)

▼徘徊団6回目は墓巡り。真夜中の墓地はくらいし、こわい。キャンプに使うヘッドライトを持って行ったが、これが思いのほか役に立ってくれた。
 このヘッドライトは以前から意外なところで活躍してくれる。前の会社では、家賃が払えないため大家さんに電気を止められた。このときは暗がりで伝票を書くのに役立ったが、1階だったので、通行人がぎょっとしながら通り過ぎる。いまだったらこそ泥と思われ、スマホで撮影され、即通報されたかもしれない。
 墓場巡りの2日後から首が回らなくなった。上腕部も痛くて重たい。もしや、高橋お伝の霊を連れてきてしまったのか! だが4日後、スーパーの抽選会で赤玉が出て、お姉さんが高らかに鐘を鳴らす(アホだ)。ユニクロの商品券(3000円)が当たった。取り憑いたのは銭の大御所、岩崎弥太郎かもしれない。
 深更の徘徊で困るのは、ちょうど鳥が鳴き始める午前4時過ぎあたりにやってくる「腹が減ったぞ」現象である。ほかの団員に比べ20キロほど身体が重い私は、消費エネルギーも大きい。夕食を食べてから10時間は経つ。軽やかな足取りの2人を横目で見ながら、すでに頭の中は、池袋駅前の立ち食いそば屋から上がる湯けむりでおおわれている。(土井伸一郎)

▼このところの東京などでのコロナウイルス感染者の激増を受け、またイベントが中止や延期になりはじめた。ある地方ではイベントを行なうならば東京からきた人物を報告するようにと、自治体から主催者側にお達しがあったとか。コロナを理由に集会の自由がないがしろにされそうで恐ろしい。
 一方、イベントができないことで財政がきびしくなっているのが朝鮮学校である。もともと公的支援がほとんどないなかで、保護者からの授業料や寄付などで自主運営されてきた。学校でバザーなどをしたり、地域の行事でキムチを販売したりすることは、資金を補う大事な機会であったからだ。
 そこで東京の立川と町田の朝鮮学校を支援する団体のネットワーク「ウリの会」では基金を立ち上げ、寄付を募ることに。まずは7月はじめまでに集まった150万円ほどを渡した。ウリの会基金共同代表の松野哲二さんは「本当は金ではなく、差別のない日本社会を子どもたちに渡したい」と話す。
 二次の締め切りは8月30日。ゆうちょ銀行振替口座は、口座名:ウリの会、口座番号:00130-9-293605。ゆうちょ銀行以外からは、店名:〇一九(ゼロイチキュウ)店、種目:当座、口座番号:0293605。問合せ(TEL・090・3085・7557)。(吉田亮子)