週刊金曜日 編集後記

1259号

▼多摩川河川敷に遺棄された猫と路上生活のおぃちゃんを30年間にわたりサポートしている写真家の小西修さんから「多摩川河川敷 猫とおぃちゃんの日々の暮らし」の文と写真をいただきましたが、その後、台風19号の影響で多摩川の状況が一変し、掲載の可否が問われました。
 小西さんに尋ねたところ、「今回の台風に関する私どもの作業などは、日頃の活動となんら変わりはありませんので、『週刊金曜日』の記事そのものにも、なんらかの影響があるとは思っていません。いつもより余分に台風に関する作業をしているだけで、心配はご無用」との返信が。〈台風は、あなた方には非日常の出来事かもしれませんが、私どもには日々の延長でしかないから安心してください〉。そう諭された気がし、当号での掲載が実現しました。
「多摩猫」記事の最終ページに登場するチーチ(♀)は、台風19号で行き方知れずになりました。「(ダム決壊を防ぐ)緊急放流が夜になることが多く、明かりもない中で川面の増水状況もわからず濁流にのまれて犠牲になる」と小西さん。多摩川河川敷の猫やおぃちゃんたちは、そんな過酷な日常を生きています。(秋山晴康)

▼その昔入社したころ、配属された業務部の仕事があまりに多様で、それまで勤務していた出版社での経験を超えていることに戸惑った。その最たるものが電話対応だ。定期購読の申込みから各種手続き問い合わせ、書店からの注文等々、加えて誌面に対する意見と質問、最近は減った気がする一方的な言いがかり──これらが怖くてたまらなかったのが懐かしい。
 先日、読者の方から"更新手続き用紙"紛失の連絡を受けた。再送手続きを終えて私の名前を名乗ると電話口で「覚えていますか?」との声。PCの画面に表示された氏名に心当たりはあるが、まさかと思った。前職でお世話になった東北地区の書店の方だった。最後にお会いしたのはいつだったか、二十数年は経つだろう。本誌創刊時に定期購読をしていたが、「金曜日」の経営が厳しいのを聞いて昨年から再開したらしい。ご自身が書店員でありながら、直接購読をしてくれていることに驚き、感謝の言葉と、近いうちの再会を約束して電話を置いた。その日は嬉しくて、一日中ニヤついていたらしい。帰宅すると妻に「何か良いことあった?」と聞かれた。(町田明穂)

▼先日、奥多摩を歩いた。「三条の湯」から峠を越えて「のめこい湯」(山梨県丹波山村)に至る2日間のコースだ。雨に降られたのには閉口したが、水墨画のような景色を楽しめたのでよしとしよう。
 山では天気が悪いと動物に行きあうことが多い。今回も山道にシカがいたし、サルは人里まで群れで来ていた。野生のケモノである。襲われないかと少しびびったが、草木の実を漁るのにいそがしいようで、特に何事もなかった。
 都会にすむ私などは「いつかは田舎でスローライフ」などとつい夢想するが、移住すればしたで、きっと獣害の日々が待っているのだろうなあ......。
 いやいや、田舎イコール獣害、というわけでもないのに、行動する前から思考や妄想、気苦労が「暴走」してしまうのは、一歩引いて見るとマンガ的でおかしい。
 編集委員の想田和弘さんの連載「ヴィパッサナー瞑想体験記」に触発されて、私も毎朝、短い時間だが瞑想している。足を組みスー、スーと鼻で呼吸するだけだが、次から次へととめどなく雑念がわきあがり、なかなか集中できない。「いま、ここ」に集中するって意外と難しい。それがわかっただけでも収穫だ。(斉藤円華)

▼弊誌の臨時増刊号『まるごと山本太郎 れいわ新選組』が昨日(11月28日)発売となりました。臨時増刊号ですので、弊誌を定期購読していても届きません。お手数ですが、ぜひ書店でご購入いただければ幸いです。電子版(スマートフォンやタブレット向けのアプリ、キンドル版)もあります。 誌面の6割以上は新しく編集しました。過去記事の再録もありますが、東日本大震災が起こった2011年10月や参院選出馬直前の13年のインタビューなど、貴重な記録を盛り込んでいます。
「山本太郎現象」について考えることは、いまの政治状況を考えることと直結しています。貧富の差が広がり、生活にあえぐ人たちがこれほど増えているのに、その人たちの声に耳を傾ける政治がなぜ行なわれないのか。「山本太郎現象」がポピュリズムと言われることについて、ノンフィクションライターの石戸諭さんはこう喝破しています。〈「大衆ファースト主義」ということです。大衆第一で、誰かが独占している支配構造を打ち破れ、という反権威主義でもある〉(臨時増刊号47ページ)
 政治を私たちの手に取り戻すために必要なヒントが詰まっていると確信しています。(伊田浩之)