週刊金曜日 編集後記

1248号

▼以前フランスを旅した時、友人に美味しいからぜひ行ってと推薦された店が見つからず困ったことがある。住所はそこだが店はない。当時はスマートフォンもなく、どう確認するか迷っていたら後ろから片言の日本語で「どうしましたか」と話しかけられた。振り返るとフランス人の若い女性で、探していた店は移転したことを調べてくれたうえに、代わりとなるお薦めの店を予約し案内してくれた。心からの礼を述べて別れたが、彼女がそれほど親切にしてくれたのは、柔道を習っていて来日経験もあり、親日感情を持っていたからだった。そして、顔がわからない背後からでも日本語で話しかけたのは、私が着物を着ていたからだ。
 夏も過ごしやすい気候の地だから日本より快適に羅を楽しめるだろうと着ていたのだが、いわゆる民族衣装は出身国のアイコンになる。いま、海外で着物を着る気にはなれない。加害の歴史を反省せず、それどころか被害を与えた国への憎悪をまき散らす国の民であると一目でわかる服装は恥ずかしいし、軽蔑を集めそうで恐ろしい。
 日本の自然や文化を好む外国人は多いが、政治が劣悪になれば親日感情も消えてしまう。負の歴史にも誠実に向き合い、「国際社会において、名誉ある地位を占め」る国であってほしい。(宮本有紀)

▼今はちょうど8日(日)から9日(月)に日付が変わろうという時刻。接近している台風15号の影響で、外は雨風がだんだんひどくなってきた。テレビは各地からの中継で、台風の様子を伝えている。暴風域に入った伊豆・下田からの中継では、さすがにホテルの窓から外の様子を伝えていた。
 先週、目黒女児虐待死事件の母親の公判がはじまると、マスコミは連日センセーショナルに取り上げた。直近に鹿児島でも虐待とみられる事件があり、世間の注目は集まるばかり。傍聴券を求めて、300、400の人々が列をつくった。裁判員裁判で選ばれた裁判員は、どう受け止めているか。
 夫からのDVによって支配され逃れることさえ考えられず、結局子どもを守ることができなかったとされる母親。公判できちんと自分の言葉で証言している様子が伝えられるたびに、一人でもいいから周囲に相談できる人がいたら救われたのでは、と悔やまれる。
「死んで償うのがいいのか、そうじゃない道があるのか、毎日考えても答えがでない」と母親は話しているが、もう一人の子どものためにも生きてほしいと思うし、この社会が変わるためにも発言を続けてもらいたいと願う。母親が投げかけている問いは大きい。(吉田亮子)

▼消費税10%への増税が迫っている。厚生労働省が先日発表した毎月勤労統計調査(速報)では、7月の実質賃金は前年同月比0・9%減少したとのことで、7カ月連続の減少となった。先月発表された年金の財政検証では、国民年金の受給額が大幅に減少していくことが明らかになった。生活への不安は増している。このまま消費税増税に前進すれば、税負担率が大きくなるのは、低所得者側だ(「消費税の逆進性」=高所得者より、消費支出の多い低所得者のほうが税負担率が高くなること)。この逆進性をカバーする目玉とされている「期間限定のキャッシュレス決済によるポイント還元」でさえ、「(消費税増税)開始当初の導入店舗が、対象とされる中小事業者約200万店の3割程度に当たる60万店前後にとどまる」(9月10日付『中日新聞』)という状況だ。
 連日の韓国バッシング報道に比べ、消費税増税への批判報道は非常に少ない。もう増税が既定路線化してしまっているが、「減税」の道にあらためて踏み出すこともできるという選択肢を今一度確認しておきたい。次の衆院選の時期はまだ不明だが、少なくともここまでに野党は減税をひとつの争点とし、有権者にその選択肢を提示していってほしい。(渡部睦美)