週刊金曜日 編集後記

1245号

▼石坂啓さんの新連載「この男イヤだ」が来週発売の8月30日号から始まります。毎週2ページ。たっぷりと練り上げられた新境地をお待ちください。30日号の表紙も石坂啓さんの描き下ろしイラストレーションです。
 お待たせしているといえば「『愛媛新聞』と忖度」も間もなく再開です。参院選後の政界が動いていますし、日韓関係など突発事項が多いと、社員原稿はついつい後回しにされがち。再開の問い合わせをいただくなど、高い期待に応えられるよう頑張ります。
 知人と新聞経営の話になった時、社主がいる新聞社が真っ当な経営をする傾向がある、との結論になりました。バブル期とは真逆です。社が潰れて困るのはオーナー家だから長期的な視野で公正公平な経営・人事をする。一方でサラリーパーソン経営者は「わが亡きあとに洪水はきたれ」になりがち。とはいえ、取材力や人材、蓄積など報道機関の主力は新聞です。叱咤激励のためにさまざまな新聞社を見てゆきたいと思います。(伊田浩之)

▼ぶっ壊れてほしいと思うこともしばしばあるが、良質な番組も制作するのがNHK。お盆に放送された「NHKスペシャル 全貌 二・二六事件~最高機密文書で迫る~」は秀逸で見応えがあった。
 日本は、この事件を契機に軍部の暴走に拍車がかかり、太平洋戦争へと邁進していく。今回、約80年ぶりに発見された極秘資料により、事件当時の政府らによる文書隠蔽の事実が明らかになった。
 海軍は事前に青年将校らのクーデター計画とその首謀者の名前の情報を得ていたが、握り潰した。
 ナレーターは語る。「そこに残されていたのは不都合な事実を隠し、自らを守ろうとした組織の姿」「事実とは何か。私達は事実を知らないまま再び誤った道へと歩んではいないか」。ここで当時と現在の国会議事堂の映像が対比される演出。「83年の時を超えて蘇った最高機密文書は、向き合うべき事実から目を背け、戦争への道を歩んでいった日本の姿を、今私達に伝えています」。このシーンにNHKの気概を見た。(尹史承)

▼東京の地下鉄で、日本語による駅名案内「次は○○です」のあとに、英語でも案内が放送されるようになりました。それも、録音されたものではなく、車掌さん(運転士さん)の生声。新幹線で生声英語アナウンスを聞いたときは「新幹線だからかな」と思っていました。さらに驚いたのが、わが地元の首都圏ローカル私鉄でも、同じように生声英語放送を始めたこと。最近はインバウンド観光に力を入れている路線なので、必要といえば必要ですが、とってつけたような感がしなくもない。
 多言語の国に行くと、このような車内放送は珍しくありませんが、録音されたもののほうが多いような気がします。生声アナウンスってレアなのでは? と思うのですが、世界の車内放送事情に詳しい方、いらっしゃいませんか。
 それにしても鉄道会社の職員のみなさんは、ビックリしているのではないでしょうか。まさかこんな時代がくるとは......ねえ。英語の研修とかしているんでしょうか。(渡辺妙子)

▼韓国の文在寅大統領が「(日本は)盗っ人たけだけしい」と発言したとの報道を巡り、翻訳が誤りではないか、過度に刺激する表現ではないかなどの懸念が出ている。
 韓国語話者の間でも、このことは大きな話題になった。原語は「賊反荷杖」で、韓国ではよく使われる言葉だ。「賊」が「泥棒・盗っ人」を意味するとの説明も確かに辞書には出ている。ただ、「盗っ人」という意味を込めてこの言葉を使う韓国人はいないと言えるだろう。実際、複数の韓国人にも確認した。
 結局、「徴用工」が強制労働をしいられた問題への責任は日本にあるにもかかわらず、その日本が韓国に経済報復的な措置を取ったことに対する批判が発言の本質なのだが、そこは見えづらくなってしまっている。いくつかの日本メディアは、記事の見出しに「盗っ人たけだけしい」との発言を入れたり、この発言を中心に取り上げて報道したりした。直訳のできない言葉である上、こうした敏感な問題であるのに、軽々しく煽るような報道は大きな問題だ。(渡部睦美)