週刊金曜日 編集後記

1233号

▼「国籍不明の軍事勢力による日本侵略」「戦後、日本最大の危機」。5月24日公開の映画『空母いぶき』が話題だ。映画版では「敵」や「島」は架空の設定だが、原作(かわぐちかいじ作、小学館)では20XX年、中国軍が尖閣を皮切りに沖縄の与那国島や宮古島の自衛隊施設を攻撃する場面から始まる。近年、防衛省が目論む「島嶼奪還作戦」と重なる部分もあり、自衛隊配備が強行されている南西諸島の住民からは、国際情勢を顧みず、本作品を娯楽として消費しようとしている"日本人"の軽薄さに、憤りの声もあがっている。
 5月17日には参院本会議で、ドローン(小型無人機)が自衛隊や米軍基地などの上空を飛行することを禁止する改正ドローン規制法が成立した。報道の抑圧になるのはもちろんだが、自衛隊や米軍基地などの現場では、これまで空撮を含めたさまざまな調査方法でその実態が明らかにされてきた。規制することで、ますます基地内でのやりたい放題が許容されてしまうのではないか。(渡部睦美)

▼4月5日号の「金曜アンテナ」で報じた「元号差し止め」訴訟の第1回口頭弁論が5月31日(金)午前11時から、東京地裁522号法廷で開かれる。この法廷は傍聴席数100、ここを「満席にしたい」と矢崎泰久さんは強く読者に訴える。私と山根二郎弁護士の元号、ひいては天皇に対する思いを聞きに来てほしいとの伝言。
『仏教解体』という大書もある山根弁護士は、金嬉老事件や東大闘争の弁護人を務めた。一方、裁判官からの退廷命令も数多い反骨の弁護士だ。日米安保などでは主張がかなり違う両先達だが「棺桶片足組」を結成し「国家」へ疑義を申し立てる。
 1995年2月、市ヶ谷のアルカディアで行なわれた「話の特集」社債権者集会では、「ここで矢崎君に死ねというのか!!」と債権者たちを一喝。その声に気おされ債権者は下を向いてしまったが、横で聞いていた私でさえ、怒鳴られる側が逆じゃないかと思ったものだ。この2人の「国」に対する異議申し立てを、ライブでお聞きください。(土井伸一郎)

▼前田敦子が過呼吸で苦しみ、大島優子が舞台裏で嗚咽する。そこに従来のアイドル像はない。
「AKB商法」とは、完成されたアイドルではなく、等身大の生身の"女の子"たちを商品化し、その「物語」をファンに追わせるシステムである。彼女たちが理不尽に苦しむ様子ですらも感動的なものと仕立て、消費させていく。
 アイドル評論家の中森明夫氏がNGT48の山口真帆の卒業公演を受けて「運営には明らかに問題がある。が、それが今夜の感動を生んだ」と呟き炎上した。一連のNGT騒動は、演出ありきの「AKB商法」とは性質が違う。被害者が死の恐怖すら感じた現実世界の暴行事件である。エンタメと同列に捉え、「物語」として美化するのは不適切だろう。そして中森氏は「戦争は絶対にダメだ。が、戦争のおかげで、ひめゆり部隊や少年特攻兵や...ありえないほど美しい感動的なものを生んだ。」とも呟いたが、これは論外だ。
「戦争は絶対にダメだ」に逆接はないし、戦争から美しく感動的なものなど生まれない。(尹史承)

▼5月1日、新幹線の車両ドアの上に流れるニューステロップで「遠藤ミチロウさんの逝去」を知った(亡くなられたのは4月25日)。享年68。
 知る人ぞ知る、1980年代から90年代に活動していたパンク・ロックバンド、ザ・スターリンの結成者でありヴォーカリストだ。スターリン解散以降はソロ、アコースティックバンドで活動し、還暦を越えても精力的にライブ活動を行なっていたという。
 その日の新幹線のニューステロップで「天皇即位の儀」「イチローさん、マリナーズの指導者に就任」といったメジャーなニュースが流れる中で、「遠藤ミチロウ」という昭和から平成の世を生涯現役で叫び続けたパンク・ロッカーの名前を新幹線の車中で目にして、正直、ビックリした。かなりマイナーな存在だと思っていたのだが、多くのミュージシャンに影響を与え、慕われていたようだ。
 橋本治さんも内田裕也さんも萩原健一さんも逝ってしまった。ひとつの時代が終わった気がする。(本田政昭)