週刊金曜日 編集後記

1222号

▼ZOZOTOWNの前澤友作社長がSNS上で納税額(2018年度予定約70億円)を自慢げに発信。これに対して、藤田孝典氏が、前澤氏のような「富裕層」は、株などの資産収入、つまり「不労所得」が多いから、ここに「課税強化しなければ社会保障は回らないし、消費税増税の合意も形成されない」と、やはりSNS上で発信した。
 個人的には賛同する点が多いが、これをきっかけに始まった、ZOZOの田端信太郎氏と藤田氏との論争。詳細は省くが、今回の「ファミマこども食堂」をめぐる論争とも共通点がある。ZOZOやコンビニなど、非正規率の高い労働環境・低賃金の改善を求める藤田氏の当然すぎる主張に対し、事実に基づかない主観や論点のすり替えでこれを否定する動きの異常さだ。
 統計不正で実質賃金の下落を糊塗しようとする「アベノミクス偽装」の異常さも、これに重なってみえる。貧困が再び不可視化されようとしている。(山村清二)

▼平松洋子の連載「そばですよ」が好きなので『本の雑誌』(3月号)をめくっていたら、「出版業界消えたもの列伝」なる特集。フムフムと読んでみたら、ポジフィルム・レイアウト用紙・カーボン紙・二百字詰め原稿用紙(ペラ)・カセットテープ、灰皿にタクシー券、ポケベルとどしどし出てくる。まったくこの15年でいろいろなくなった。まあ、目の前の「集英社」ではタクシー券は不滅だろうけど。面白いところでは、(文壇バーでの)喧嘩、(喫茶店での)打ち合わせ、(あまり意味を感じない)作家取材旅行同行出張。
 でもなんかみんな「人間くさい」ものだ。だからこそ省略されていくのだろうか。執筆者と会わないままに原稿をもらい仕事してしまう昨今。相手の顔色も声音も目つきもわからない。
「消えてないもの」を考えて見たら朱、青のボールペン・エンピツ・消しゴム、セロテープ、鋏に付せんに定規・電卓。要するにみんなアナログだ。(土井伸一郎)

▼業務部長に就いて10年が経っていた。当時、おおよその見識も力量も持ち合わせていないなか、たまたまのタイミングによる重責だった。就任時、慣れないことの連続で周囲に迷惑をかけ、半ば冗談だろうが、口の悪い同僚から「過去最悪の業務部長」と囁かれたこともある。それでもこれだけの期間、同じ役職を務めていれば、いくら愚鈍な身であっても立場が人を作ってくれた。
 いまこの国は「戦後最悪」と言われる総理大臣が長きにわたり、その重責にある。実はこの安倍という人物、あくまで当初の印象でしかなかったが、小心者で大言壮語、口先だけの小物感が漂い、どうにも自分を見ているような気がして居心地が悪かった。しかし勘違いに気付くのに、時間はかからなかった。私はここまで多くの嘘をつけず、それを指摘されて開き直ることもできない。そこまでタフではないのだ。彼はリーダーとして、この先に拡がる風景を見越しているのだろうか。(町田明穂)

▼「ロボットが一家に一台ある生活」。昔、アニメや漫画で夢見たような"温かみのあるロボット"と一緒に暮らすことが普通となる時代がもうすぐそこまで来ているのかもしれない。
 17歳で起業し、次世代ロボット「HACO」というプロダクトを開発している東出風馬さん(19歳)を紹介している動画「Macの向こうから」をたまたま見た。〈大学生でロボットデザイナーの東出風馬さんが、どんな違いも認められる社会を築くために、Macで人に寄り添うロボットを作っている様子〉に「希望」を感じた。
 これからの時代を造っていく上でベースとなる理念が「優しい」ということであればいいな、と個人的に思う。最近、農業とか農村の価値の多様性について調べているのだが、自らの意志で帰農する若者や都市から地方に移住する人びとが増えているという。ささやかだけど自分の身体や、それを担保する小さな公共性のありかたを今、再認識している。(本田政昭)