週刊金曜日 編集後記

1204号

▼海に囲まれ山も多く、地熱などの自然に恵まれているのに、なぜ日本で自然再生エネルギーが普及しないのか。原発をゼロにできないのか。7年前の福島第一原発事故の処理も健康被害も自然環境への汚染も今もって継続し、その後も各地で地震被害が相次いでいる。なのに、なぜ......。
 答えは簡単。安倍政権が原発とその背後にある大手電力会社10社の利権を優先しているからだ。いったん事故が起きれば取り返しのつかない事態を引き起こす原発の再稼働にこだわる理由がそれだ。核兵器へのこだわりもあるかもしれない。つまり、国民の生命と財産を守ることを優先していない。
 これまでも何度か、金子勝さんと組んだ企画や特集を担当してきたが、今回は「電力会社の解体」がテーマ。金子さんいわく「こんなえぐいテーマができるのは『金曜日』だけだ」。確かに、莫大な政治献金や広告料が自民党やメディアなどに流れ、利権サイクルを支える。「解体」はその元凶を突き崩す突破口になる。(片岡伸行)

▼『これからの本屋読本』(NHK出版)という本を内沼晋太郎さんが上梓した。東京・下北沢でB&Bという本屋さんを立ち上げ、神保町の「岩波ブックセンター」の跡にカフェも共存する「神保町ブックセンター」の開店にもかかわった。後者は「岩波書店」の本だけに特化した複合スペース。思い切った品揃えである。
 雑誌とコミックと児童書、それに文庫と単行本という20坪くらいの、いわゆる「町の本屋」さんが消えていく中、本屋の未来像を模索し、全国的な規模で実験的な書店を立ち上げているお一人だ。
 30年後、紙の本は私たちの生活とどのような関わり合いを持ち得るのか。本屋を通して人が出会いコミュニケーションが生まれる。そして何よりも「本」が大好きな人たち。
 10月26日号では、小特集で「本屋の可能性」をさぐってみたい。内村さんと赤坂「双子のライオン堂」の竹田信弥さん。取次店の鎌垣英人さんを迎えて、本屋さんを考えてみたい。(土井伸一郎)

▼「ニュータウン」に移り住んで5年。通勤は少し大変になったが、光と緑にあふれ、自然災害にも強い環境は気に入っている。前に暮らした団地のように車の排気ガスで換気口が真っ黒になることもない。健康年齢は都内で一番高いとか。しかし、中学校区ごとにある商店街の寂れようには驚いた。
 かつては半数近くあった食品や日用雑貨の店が今は1割以下に減り、高齢者を支援するための福祉・医療関係が増えている。閉まったままの店も多い。ここに移ると聞いて顔を曇らせた知人が何人かいて、その時はピンとこなかったが、足腰が不自由になった時のことを心配してくれていたらしい。
 ほかに行き場がないせいか、住み続けたいと答えた人が7~8割という調査もある。高齢化への備えを進めながら、若い世代をも呼び込むコミュニティ再生の取り組みも始まっている。よりよい住宅を求めて渡り歩いた時代から、同じ思いの人々が助け合って住み続ける時代への変化か。私もその一人になってみたい。(神原由美)

▼沖縄県知事選挙の結果は快挙ではあったが、「安倍一強」とやらの不快極まる情勢は続く。この頃、ナチスが権力を掌握して以降の、ドイツ社会における自覚した市民層の心理はいかほどであったのかを思う。彼らはどうやって日々の憤りに耐えていたのか。現在はそれほど極限状況ではないが、低能で虚言癖がひどく、幼児性丸出しの男が、かくも愉快そうに権力を弄んでいる様を見せつけられるほど気分が害される瞬間はない。結局その根源は、5回も国政選挙でこの男を喜ばせた「有権者」とされている人々の無恥と無責任さにある。ナチスに全権委任法を与える結果をもたらしたドイツ国民は国土の廃墟という報いを受けたが、この国の多数派を占める「臣民」はこれからも無自覚のまま「セイジ」を傍観していくのだろう。改憲が現実になったとしても、何の痛痒も感じまい。だが、歴史の評価に耐えうるのは悪政の抵抗者であって傍観者ではない。もう、意地でもレジスタントとして生き抜くしかないだろう。(成澤宗男)