週刊金曜日 編集後記

1148号

▼今週号で乗松聡子さん(30ページ)と佐高信さん(14ページ)が取り上げている映画『ハクソー・リッジ』。主演はアンドリュー・ガーフィールドなのだが、今年初めに公開された『沈黙』での彼の演技に惹かれて私も同映画を観た。『ハクソー・リッジ』の主人公・デズモンドは、宗教的良心から「銃を持ちたくない」と衛生兵となるが、人を殺す戦争に参加していることに違いはない。
 一方、この映画が「反日」などとレッテル貼りをされることには疑問を持っている。作品を観ようともしない姿勢は、事実から目を背けることにもつながる。
 8月9日、NHKが行なった18歳、19歳を対象にした世論調査で、敗戦の日を「知らない」と答えた人が14%にもなった。戦争の風化どころではなく、大前提となる事実すら知られないことに愕然としてしまう。
 ちなみに、我が家は「お盆」の風習がなかったので、小さい頃の私は「戦争で亡くなった大勢の人たちを追悼するためにお盆がある」と本気で信じていた。それはそれで問題か。(赤岩友香)

▼弊社の単行本『軟骨的抵抗者──演歌の祖・添田唖蝉坊を語る』(1200円+税)ができました。紹介文を引用します。
〈明治から昭和初期にかけて活躍した近代流行歌の祖、添田唖蝉坊(1872~1944年)がいま見直されている。風刺やユーモアに満ちた唖蝉坊の歌は、貧困が拡大する現代の世相に響き合い、いまも人々の心にしみいる。「ストライキ節」「ラッパ節」など、多くの人が一度は聴いたことがあるメロディーは数知れない。1%の富裕層や政治家のために「戦争ができる国」づくりを目指す現政権への痛烈な批判にもなっている。「正調」唖蝉坊を歌い継ぐ土取利行さんと、明治の社会運動に詳しい鎌田慧さんが語り合う〉
 対談では、演歌が生まれた背景や唖蝉坊が生きた時代の紹介にとどまらず、江戸の庶民文化から一揆、日本の音楽教育の問題点、ビートルズ流行による文化の変化、いま現在との関連などが縦横無尽に語られています。歌詞の引用・紹介も豊富で資料的な価値も高いお勧めの1冊は8月23日ごろに書店に並ぶ予定です。(伊田浩之)

▼「あなたはどこの国の総理ですか」。8月9日午後、長崎の被爆者代表からそう言われ、安倍晋三首相は何も返答できなかったという。7月に国連で初めて成立した、核兵器を違法とする禁止条約に米国に配慮し日本が不参加としたことへの抗議に口をつぐんだのだ。
 都合が悪いと逃げ回るのは森友学園、加計学園と続く国政私物化疑惑でも同様だ。大阪地検特捜部は7月末に森友学園の籠池夫妻を国の補助金約5600万円をだまし取ったなどとして逮捕したが、一桁違う8億円超を値引きし国民の財産を売り飛ばしたのが事件の本筋だ。被害者は国民、加害者は国である。愛国教育を支援する首相夫妻の言動が、タダ同然での国有地売却をもたらした。特捜部が捜査すべきはその売却の実態だ。
 また、「腹心の友」が理事長を務める加計学園の獣医学部新設を「1月20日まで知らなかった」という国会答弁の虚偽性が暴かれるのも時間の問題だろう。自衛隊日報(稲田)問題の隠蔽と欺きを含めて、一体この男は「誰のための総理」なのだろう。(片岡伸行)

▼東京五輪の時に通っていた大阪の小学校で、競技の感想を書く宿題が出た。「オリンピック・ファシズム」論を唱える哲学者の鵜飼哲さんも似た経験をされたようなので、あるいは文部省の指示だったのか。何の関心もないフェンシングを割り当てられ、どうまとめてよいか思い悩んだ記憶がある。
「あと3年」とマスコミが騒ぐ今度の五輪が、あの時の暗い気持ちを蘇らせる。「フクシマは統御されている」、「共謀罪がないと五輪が開けない」という安倍首相の大ウソに始まり、1兆3900億円もの費用が掛かり、うち6000億円を都民が負担しなくてはならないとか、「復興五輪」の名目とは逆に復興を妨げているとか、おかしなことばかり目に付く。
 昨年9月9日号の本誌書評欄に載った『反東京オリンピック宣言』(航思社)を今になって読み、招致は誤りだったと再確認した。共謀罪の予習か、抗議行動を警察が監視したり、非国民の声が飛んだり。改憲阻止も安倍弾劾も「復興」も、五輪に呑み込まれてしまいそうなのが一番怖い。(神原由美)