週刊金曜日 編集後記

1139号

▼男性のジェンダー認識を問う今回の特集企画を編集会議で提出時やその後、同僚の女性数人からは「面白そう」と声がかかったが、男性からはHアートディレクターを除き皆無。「自分には無関係」と、思われているのかもしれないが、まさに平山亮さんや澁谷知美さんの言われる"沈黙"の反応。男性がほぼ7割前後を占める小誌読者からは、さてどんな反響があるのか、楽しみでもあり怖くもある。
 平山さんや安冨歩さんは、「男性より女性との方が話しやすい」と仰っていたが、母子家庭で妹と3人、身近に成人男性が不在の環境で育ったせいか私にも似たところがある。とは言え今回、杉田俊介さんや平山さんのエレガントな口調や物腰に、対照的な自分のがさつさや、頭に血が上るとつい声を荒げる"暴力性"を強く自覚させられもした。杉田さん、平山さん、安冨さん――"男"からの「降り方」「呪いの解き方」は当然それぞれ違っている。杉田さんの「取り残されているのはマジョリティ側の男性」という指摘がとても腑に落ちた私もまた、そこは自分自身で見つけるしかない。(山村清二)

▼性犯罪は二次被害を受ける率が高く、告訴をためらう人が多い。特に知人が相手の場合は訴えにくいのに、実名でレイプ被害を訴えた詩織さんの勇気に心から敬意を表する。「被害者らしく弱い存在でなければならないという状況に疑問を感じる」という会見での発言にも強く首肯。被害者が「腹が立った」と言っているのに、検事に「恥ずかしかった」と書き直されたという司法修習生の話を思い出した。「恥じらう被害者」を求める構造こそ間違いだ。恥ずべきは加害者であり被害者ではない。
 この事件は官邸に近い人物に逮捕状が出たのに逮捕されなかったことで権力介入疑惑から注目されている。それも大問題だが、もし容疑者がこの人物でなかったらこれほど注目されただろうか。前川喜平前文科事務次官のケースも、「権力に逆らってリークされたから問題なし」とするのはおかしいが、逆に官邸側が「問題あり」とするなら、なぜもっと早く指摘しなかったのかと思う。性犯罪は重大な人権侵害である。人権の問題を政治利用するな。(宮本有紀)

▼村上春樹の新刊が出ると、少し経ってから書店で買って(アマゾンではあらない)、自分の本棚に置いておく。そこでしばし「熟成」期間をおいて、「今がその時」と思ったら読み始める。バカなコトをしていると思うだろうが、本人はいたって真面目。
『騎士団長殺し』もひと月くらい本棚にあっただろうか。そのすぐあとにでた(新潮社もやるね)川上未映子と村上さんの対話『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読んでいたら、小説の執筆でも「今がその時」というタイミングがあるらしく、とても面白かった(川上さん色々聞いてくれてありがとう)。丁寧に作られている対話本で、時と場所を違えて4回行なわれた。村上さんちでやった最終回では、かなり具体的に、村上さんが「ほい」っと新作が入ったUSBメモリを編集者に渡すまでが語られており興味深い。
『騎士団長殺し』の中にジャガーのウインカー音の話が出てくる。僕も大好きな響き。中古車屋に行って実際乗ったらしい。想像力で書いただけでは、あらない。(土井伸一郎)

▼6月になって、7月に入れ替える書籍常備の進行も佳境に入ってきた。常備寄託とは、取次を通して本を1年間書店に預かってもらい、販売してもらう制度のこと。7月の搬入を目指して、各取次担当者とは1年ぶりに接するわけで、さながら織姫と彦星のようでもある。常備セットは既刊本が中心だが、年間の回転率が良いもの、つまり売れ行きの良いものを残し、悪いものは新刊と入れ替える。ちなみに、2016年の売れ行き上位は『新版のんではいけない薬』、『はじめてのマルクス』、『新・買ってはいけない(10)』、『「戦後」の墓碑銘』、『セブン-イレブン 鈴木敏文帝国崩壊の深層』、『私の1960年代』といったところか。2017年は『日本会議と神社本庁』(ロングセラーとして定着)、『香害』(爆発力はないが、じわじわ浸透)、『お笑い自民党改憲案』(爆発の予感あり)を加える予定。常備の利点は書店の棚で着実に売れること。なお、弊社常備取り扱い書店については、業務部までお問い合わせください。アマゾンばかりが書店じゃない。(原口広矢)