週刊金曜日 編集後記

1120号

▼日頃、私たちが目撃している「政治」とは、「政治」なのだろうか。北米先住民が発案し、西欧で確立した「議会制民主主義」とは、機能するか否かの決め手を「有権者」に依っている。「有権者」が「政治」の在り方を最終的に左右するが、この国は間違っても投票などしない層が3分の1前後で固定している。残りの層も、心許ない。「アベノミクス」とやらが登場したおかげで4年以上実質賃金が低下している現状で、「有権者」はいったい何が嬉しくて首相に「高支持率」を与えているのか。政治的無関心が主流の世相で、改憲だの戦争法だのカネには還元されぬ「政策」に惹かれている訳ではなさそうだが、「痛み」を「痛み」として感じる能力がないらしい不思議な集団が、選挙に行く「有権者」の多数を占めていると考えるしかない。だが「痛み」をあえて感じようとせずに黙々と生きるのは「奴隷」なら美徳だろうが、「痛み」を表明しない「有権者」とは何だろう。そうした「有権者」が結果を左右している「政治」とは、その名に値するのか。そう考えると後に残るのは、虚無感だけだ。(成澤宗男)

▼誰かは待っていてくれたかもしれない、恒例映画ベストファイブが今年もやってきました。邦画の観客動員すごいですね~、本屋さんの衰退とはエライ違いです。書を持って劇場へ行こう! 
 というわけで、今年はこの5本。『スポットライト』地味だけど深いです。なぜこんなに頑張れたんでしょうか。『海よりもまだ深く』やはりこの監督は好きかもしれない。前年に続くランク入り。「あの、あれだけどさ、そうあれなんだけど、どうなっている」どこまでアドリブなんだか。『FAKE』佐村河内さんの話し方、私嫌いじゃないみたいです。『ブルックリン』こういう静かで落ち着いたカメラがたまりません。近年では『冬の骨』と同じ感触がよみがえりました。『MERU』インド・ヒマラヤ、ガンゴトリ山群のメルー峰。山野井泰史さんが書いてます。「クライマー自身、雪と氷にピッケルを振るい続け、岩に指を突き立て、薄い酸素に喘ぎ、寒さに震えながら頂に何故向かうのか、もともと理解出来ていないのだ」と。(土井伸一郎)

▼韓国・釜山の日本総領事館前に平和の少女像(「慰安婦」像)が設置されたことへの"対抗措置"として日本政府は、駐韓日本大使らを一時帰国させた。2015年末に結ばれた「日韓合意」に反するからだという。ソウルにある「戦争と女性の人権博物館」を訪れた際、展示された少女像を見て、なんとも言えない気持ちになった覚えがある。椅子に座った女性の隣には、誰も座ってない椅子が一つ。「座ってみてください」と書かれていたが、どうも勇気(?)が出ず、座ることができなかった。
「日韓合意」で韓国政府はソウルの日本大使館前の少女像に対して「関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」とした。少女像が撤去されれば、適切な解決になるのか。たとえ、少女像が撤去されようとも元「慰安婦」被害女性たちの名誉と尊厳が回復されない限り、日韓両国間で問題は燻り続けるだろう。
 次にソウルを訪れた際には、日本大使館前の少女の隣に座り、今度こそ、そこから見える景色を眺めてみようと思う。(弓削田理絵)

▼頭のない赤ん坊を背負ってうつ伏せている女性の死体。頭と胴体だけで天をにらむおじいさん。鉄帽を射ぬかれ倒れている兵隊。その惨状に気を失う母親。
 昨年放送された瀬長亀次郎のドキュメンタリー番組を遅ればせながら見た。亀次郎が遺す沖縄戦の描写は生々しく壮絶だ。本土に捨て石にされた沖縄の苦しみ。その苦しみは終戦後も続く。夜な夜な女性を襲いに家にやってくる米兵。銃剣とブルドーザーでの土地の収奪。わずか6歳の女の子を拉致し強かん、そして惨殺。基地があるが故に繰り返される悲劇の数々。
 その米国の圧政に抗った亀次郎は不当に逮捕され長期投獄される。
「被告人瀬長の口を封ずることはできるかもしれないが、虐げられた幾万大衆の口を封ずることはできない」「弾圧は抵抗を呼び、抵抗は友を呼ぶ」
 いくら国家権力が基地反対運動のリーダーを不当逮捕しようとも、件の『ニュース女子』のような番組で印象操作をしようとも、抗う民衆を抑圧することはできないし、歴史を歪曲することもできない。不屈の精神は消えない。(尹史承)