週刊金曜日 編集後記

1117号

▼数年前の選挙取材で、ある経営者の型破りなインタビューが取れたことがあった。会社は自民党のネットワークにガッチリはまっているのに、本人は逆サイドの候補者を応援するというのだ。その理由も筋道立っていた。
 やや興奮気味に原稿を書きはじめた矢先、手元の携帯電話が鳴る。
「やっぱり名前は出さないでくれないか」
 何があったんですか?
「おれはいいと思っていたんだけど、他の役員が猛反対しているんだ。銀行との関係があるからって」 そんなの関係ないでしょう、本人がいいと思っているのなら、それでいいじゃないですか......と言いたいのを、ぐっとこらえた。
 100人以上いる従業員の生活を守らなければならない人に、無責任なことは言えない。その場は「そうでしたか、残念です」と言うにとどめたが、銀行とはどういう存在か、なぜ企業は銀行に頭が上がらないのか、いろんな疑問が浮上した瞬間でもあった。
 銀行特集を組んでみた。が、まだ片鱗しか見えない。(野中大樹)

▼『産経新聞』の半沢尚久記者は目線が高すぎるのではないか。10月28日、沖縄県石垣市は陸上自衛隊の配備をめぐる「公開討論会」を主催した。翌29日、『産経』は半沢記者の署名で〈「中国の脅威など難しくて分からない」「災害時にはまず自分が優先」石垣市で陸自配備めぐり公開討論会 反対派から飛び出す無責任発言〉との記事を配信したが、珍妙の一言に尽きる内容だった。記事冒頭には、〈反対派登壇者からは安全保障を顧みない無責任ともいえる発言が飛び出した。市外からの支援もある反対派は抵抗を強め配備問題は大詰めとなっている〉とある。島人が〈無責任〉? 中山義隆市長こそ安全保障を国の「専管事項」としている。主題には「災害時にはまず自分が優先」ともあるが島人は安全確保さえ許されないのか。本文には〈市外からの支援もある反対派〉とあるが、ならば地元紙の『八重山日報』と『産経』が近年いかに親密かも明かすべきだろう。この「公開討論会」で実施した市民アンケートでは配備「反対」が「賛成」を上回った。『産経』の精確な続報に期待したい。(内原英聡)

▼成宮寛貴さんの引退の真相については、「結局、コカインについてはシロかクロか」など、まだわからないことが多い。しかし、「わからない」にもかかわらず、ネット上でなぜか、『フライデー』を一方的にバッシングする方向へと例によって一気に流れていることに、違和感ありあり。もしクロなら、報道の意味はなくはないはずなのに。もう一つテーマになっている「アウティング」については、もちろん論外だけれども。
 SNSへの違和感と言えば、私はニュース情報番組などで画面下に出る視聴者からのツイートが、嫌で仕方ない。誰か有名人が結婚すれば「末永くお幸せに」とかどうでもいいことをいちいち呟く。語尾が「~だな。」のツイートが多いのも特徴。「双方向」と言えば聞こえはいい。しかし、それが可能になったことが、良い未来を招くのかどうか。どうしてもそうは思えない。理由はうまく言語化できないでいますが。
「インターネット依存社会」への諸々の違和感、近々、企画にしたいと思っています。(小長光哲郎)

▼熊本から出張してきた高校の同級生を囲む飲み会があった。飲み放題でブリしゃぶコースだ。赤坂でブリしゃぶ。久しブリの同窓会。当然熊本地震が話題になった。熊本在住の彼の住まいはマンションの7階だが、揺れが長く怖かった、停電はなかったが、断水がつらかったなど、被害を語ってくれた。彼は、東日本大震災の時は会津で被災し、さらに阪神・淡路大震災の時も兵庫にいたそうだ。何とも数奇な巡り合わせである。
 今年も地震、台風で大きな被害を受けた。いっそ東京五輪はやめにして、お金は被災者と防災対策に使おう。黒い頭のネズミがいるのかいないのかどうか、五輪にしろ豊洲にしろ、都庁はまだまだわからないことだらけだ。
 わからニャいといえば、金曜日刊『猫とビートルズ』だ。猫本でもなくビートルズ本でもなく、書店員泣かせかと察する。ただ、今一生さんの文は、なるほどとうなずけるし、雨樹一期さんの写真もいい。この際、年末年始はビートルズを聴きながら猫で癒されよう。良いお年をお迎えください。(原口広矢)