週刊金曜日 編集後記

1107号

▼配偶者控除の見直しやら短時間労働者への社会保険適用拡大、はたまた年金運用巨額損失などの話題が続く今日この頃。私自身は配偶者控除には反対の立場。でも控除廃止に賛成かというと、ちょっとビミョー。だって控除廃止で増税になった分を稼げるかといったら、そんなに簡単ではないですよ。今週号での浦野広明先生の試算では、年収300万円の家庭で8万5000円の増税。社会保険適用なども加わったら、実際にはもっと負担増かもしれませんね。
 年金に至っては、世代によっては絶望的な状況です。運用損失は大きな問題で、安定運用してほしいし、国はきちんと監督してほしい。しかしその一方で、少子高齢化も年金財政悪化の要因であることから目をそらしてはいけないんだと、稲毛由佳氏の話を聞いていて実感(出生率減少に一役買っているわが身としては、結構目をそらしていました)。少子高齢化を解決する=人口を増やすということですから、「産めよ増やせよ」につながることだけは気をつけなければ、と思います。(渡辺妙子)

▼先日、厚労省の相模原殺傷事件検討チーム委員の一人に取材する機会を得た。同チームの「中間とりまとめ」が9月14日に公表されたが、会議が非公開だったことも手伝って、措置入院問題に重点が置かれ過ぎているのではないか、などの批判が出ている。29日に開かれた、厚生労働省との交渉でもそうした声が障がい当事者から突き付けられた(8ページ参照)。
 容疑者が鑑定留置となり、犯行の直接原因が、思想的なものか、何らかの疾患によるものかさえ未解明な中で、再発防止策のとりまとめを急ぐ厚労省の方針は、確かに拙速であり、事件の幕引きを早期に図りたい理由があるのでは、との疑念すら抱かざるを得ない。
 前述の委員は、今回の事件の背景には、容疑者個人は勿論、さまざまな社会施設や制度の問題、さらには今の政治経済・社会までも含めた「重層的」な要因が潜んでいると指摘する。いずれ誌面化する予定であるが、事件を検証する私たち自身が、拙速に結論を出すことなく、複眼的、かつ、重層的な視点を持たなければならないと改めて自戒する。(山村清二)

▼9月30日号に匿名希望の自治体職員(56歳)による〈新潟県知事出馬撤回/真相への違和感〉と題した投書を掲載しました。匿名希望氏が〈『新潟日報』側の取材・調査を含め、批判的な検証がおろそかになっていないか〉と問題提起された点についてお答えします。
 この問題の担当デスクである私も『新潟日報』の主張をよく聞くことが重要だと考えました。そこで取材者と相談し、大項目五つ(約1300字)にわたる質問をお送りし回答を求めました。電話では失礼にあたるといけないので、直接お逢いしたいが、無理ならば文書による回答でもかまいませんとも伝えました。これに対し『新潟日報』の担当者は、「文書では答えない。口頭で伝える」とし、電話口で回答を読み上げました。それが掲載した「見解は紙面で発表しています」などです。回答を拒否した質問もありました。
 取材源の秘匿のため詳細は明らかにできませんが、もちろん、記事化にあたっては質問送付以外にも多面的な取材を積み重ねております。(伊田浩之)

▼さんまの不漁の原因を台湾や中国の乱獲によるものだとする言説がテレビなどで流布しているらしい。鯨にしても、鰻にしても世界の批判はどこ吹く風でやりたい放題獲りまくってきた国のメディアとは思えない態度で驚かされる。 最近のワイドショーではこうした中国への憎悪を煽る番組が目につく。河川敷で勝手に野菜をつくっている日本人に紛れて中国人がいた痕跡があった!だの河口で勝手に貝をもっている日本人のなかに中国人も混じっていた!など。中国に武器を持って押し入り「暴支膺懲」と被害者面をした国のメディアらしいとも言えるが、商業メディアがこうした憎悪をばらまいている現状は、85年前の満洲事変後の世相を彷彿とさせる。
 本誌で「昭和の愛国ビジネス」を連載中の早川タダノリさんと本誌一昨年11月7日号でも紹介された『東京満蒙開拓団』の共著者藤村妙子さんが『ディストピア 満洲国 ~日本人の心を捉えたプロパガンダ~』と題して10月27日(木)東京堂書店 神田神保町店で対談する。この世相はなにを招来するのか考えたい。(原田成人)