死刑のある国で
私たちは
何を失っているのか

死刑制度に関する国連事務総長の報告書によれば、2020年5月時点で死刑制度を存置している国家は日本のほか、中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、インド、イラン、米国など計30カ国。一方、死刑制度を廃止したか、「事実上の廃止国」とみられている国・地域は、168に上る。 先進38カ国で構成するOECD(経済協力開発機構)加盟国では、死刑制度を存置しているのは日本と米国だけ。韓国も20年以上執行しておらず、「事実上の死刑廃止国」に位置づけられている。 死刑制度を存続させることによって、私たちや私たちの社会は、何かを失っていないだろうか。たとえば、日本とオーストラリアの両首相が昨年1月に署名した「日豪円滑化協定」。日本に滞在する豪州軍人が容疑者となった場合、在日米軍とは異なり、起訴前でも身柄は日本側に引き渡される。 だが、例外がある。豪州側が日本側に引き渡して死刑になる「十分な可能性がある」と思え ば、身柄引き渡しの義務を負わないのだ。専門家は、日本の死刑制度が「主権の放棄」を招いたと指摘している。 そうした目に見えやすい「失われたもの」だけではなく、死刑制度の存置は、社会における自己責任論の強まりなどと、どこか関係していないだろうか。死刑執行によって問題を起こしたとされる当事者が不在となることで、その問題自体が忘れられ、解決への努力が置き去りにされていかないだろうか。 死刑制度とその運用に、新しい角度から、異なった光を当てることで、死刑の存廃をめぐる論議を深め、前進させたい。今号をキックオフとして、今後数回にわたって報告する(編集部・佐藤和雄)

  • 平野 啓一郎インタビュー
    「なぜ人を殺してはいけないのか」と向き合って
    聞き手/佐藤和雄

    現代日本を代表する小説家の一人、平野啓一郎さんは昨年6月、死刑制度についての自身の考えをまとめた『死刑について』(岩波書店)を刊行した。自分がなぜ死刑存置派から死刑廃止派に変わったのか。死刑を廃止すべき理由とは何か。さらに、日本で死刑制度が維持されている背景についても深い考察を示している。とりわけ目をひくのは本の帯に記された「死刑を存置することで、社会は何を失うのか。」という問題提起。現代の問題群に正面から向き合ってきた作家は、新しい視点を提示し、死刑存廃をめぐる議論を前進させようとしている。

  • 『死刑について』と参院法務委員会での質疑
    佐藤和雄
  • 『死刑について』を刊行しようとした理由
    田中宏幸 (岩波書店新書編集部)
  • ウクライナはいま
    厳冬の孤立した村 年越し現地ルポ

    取り残され地下で暮らす人々 写真・文/尾崎孝史
  • 原発大回帰
    環境省がフクシマ汚染土の首都圏埋設を画策

    放射性廃棄物拡散の呼び水か?
    安全キャンペーンの一環「私たちはモルモットか!」
    藤原寿和、本田雅和
  • 反戦反差別の彫刻家金城実さんが「水平社宣言」を琉球語に翻訳
    すべての被差別マイノリティの解放へ向けて発信 平野次郎
  • イスラエル史上もっとも右寄りの政権誕生
    オスロ合意から30年 遠のくパレスチナの独立 小田切拓
  • 下段倶楽部のジジ大往生す
  • はまぐりのねごと(127) 中山千夏
    なまくらのれん(214) 小室 等
    写日記(214) 矢崎泰久氏追悼 松元ヒロ
  • きんようアンテナ
    「Colabo」住民監査結果、請求人の主張大半退ける 小川たまか
    沖縄機動隊派遣違法訴訟、なおも各地で継続中 川名真理
    馬毛島軍事化問題、容認市長へのリコールは不成立 土岐直彦
    首相官邸前で「馬毛島基地着工許すな!」抗議行動 岩本太郎
    『キャロル』『地球交響曲』龍村仁さん死去 戸田桂太
  • メディアウオッチ
    女性支援団体「Colabo」に対する

    「公金不正利用」とのデマ拡散の本質とは 太田啓子
  • 性的指向と性自認のリアル さまざまなわたし(10)
    カテゴリーがわかって安心できた 北山公路
  • 青木理の温泉という悦楽(11)大都市の上質湯
    博多・天神から電車と徒歩で30分のこぢんまりした温泉街
  • 【提携連載企画】 誰が私を拡散したのか06
    子どもの性的動画をアプリの奥深くで売買 Tansa辻麻梨子
  • くらしの泉
    【食】
    今年も食品を中心に物価高騰は続く防衛費増額などしている時ではない
    垣田達哉
  • 新・買ってはいけない(352)
    寒い季節にうれしい「ホット飲料」も体にはうれしくない 渡辺雄二
  • きんようぶんか
    【本】
    『樋口一葉赤貧日記』
    高原 到
    『真理の語り手 アーレントとウクライナ戦争』 長瀬 海
    『オーウェルの薔薇』 鈴木沓子
    【映画】『エンドロールのつづき』 さこうますみ
    【音楽】『フィーチャリング』 後藤 誠
    【TVドキュメンタリー】 ワタナベ=アキラ
    【TV批評】 水島宏明
    【本箱】 本田政昭(編集部)選

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