戦後70年特集

戦争と平和

戦後70年が経ったのに、今年ほど日本の社会が「戦争」と「平和」という言葉を使う年もないだろう。ただやはり「戦争」と「平和」はどこか遠い言葉だ。こどものころ、家族の初詣は成田山だった。成田屋の市川團十郎で知られる千葉県の寺だ。親について参道の人混みを歩いていると道ばたに軍帽に軍靴、ゲートルを巻いた男性がアコーディオンを弾いて座っていた。傷痍軍人だった。近づくと彼の片足は膝から下がなくどきりとした。すでに戦後30年近く経っていたころだ。

「ウルトラマン」や「あしたのジョー」など当時の少年少女文化にもどこか戦争や貧困の重苦しい影がちらつき、なにか居心地が悪かった。「満州」という固有名詞も『少年チャンピオン』のギャグマンガ「マカロニほうれん荘」で小学生5年生に初めて知った。戦争がちょっと昔にあったということ、その反動や熱気が今も世間にあるということをこどもながらに肌に感じた。

しかし時代は粛々と居心地の悪さを掃除していった。いま戦後世代、1954年生まれの安倍晋三がリーダーになり、取り巻き集団とともに思いこみと屁理屈を材料に軍事立国への道を踏み固めている。今年の敗戦特集号は、日本から消えかけている「戦争」と「平和」の過去を直球ど真ん中でつかみなおす。(本誌編集長・平井康嗣)

  • 侵略を美化する虚構から記憶を取り戻すために
    はびこるヤスクニズム
    対談 永田浩三×洪成潭

    靖国神社にこだわり大作を描き続ける韓国の画家・洪成潭さんと、元NHKプロデューサーで社会学者の永田浩三さんが「靖国」を軸に、戦争法案を審議中の日本社会に重く澱む侵略と歴史、記憶について語る。

  • ヒトラーが羨ましがった国家神道
    ドイツと靖国神社の知られざる“友好関係”
    矢嶋 宰

    「ドイツは戦争の反省をしたのに、日本はしていない」。たびたびあがるこんな指摘の陰で、ドイツと靖国神社には知られざる過去と現在がある。ベルリン在住のフォトジャーナリスト矢嶋宰氏がリポートする。

  • 暗闇の中で逝った中国人被害女性たち
    歴史を逆戻りさせてはいけない
    班忠義

    在日中国人ドキュメンタリー作家の班忠義さんは、中国人元「慰安婦」の聞き取り調査をすると同時に、支援活動を行なってきた。その活動も今年で20年。戦後70年となった日本に対して何を思うのか。

  • 島民も「慰安婦」も見捨てた日本軍
    渡嘉敷島の「慰安婦」と集団自決
    川田文子

    沖縄・慶良間諸島にある渡嘉敷島は、敗戦間近の1945年3月、米軍上陸による攻撃と、それにともなう住民の集団自決で多くの犠牲者を出した島だ。三十数年ぶりに島を訪れた川田さんが、70年前にこの島で起きたことをたどる。

  • <編集部選>
    戦後70年の日本を読み解く15冊
  • 幻の本土決戦に向けて
    時代の目撃者 もの言わぬ戦争遺跡
    山田しん

    第二次世界大戦末期、沖縄を占領した米軍は、日本全域を戦略爆撃機「B−29」の射程距離におくべく、九州南部への上陸作戦を練っていた。極度の物資欠乏状態に陥った日本軍は、ベニヤ板で特攻兵器を、瀬戸物で小型武器を製造し、九州南部への軍備の増強を図った。だが、日本の全面降伏により、それらの一部は結局、使用されることがなかった。そして70年を過ぎたいまも、そこに遺っている??。

  • 朝鮮民主主義人民共和国で見た清算されていない日本の朝鮮支配(上)
    無念のまま消えゆく被害者たち
    伊藤孝司

    日本による朝鮮植民地支配が終焉して70年。だが日本は、いまだに朝鮮民主主義人民共和国への過去の清算を行なっていない。高齢化した被害者たちの声を聞き、今も残る日本の痕跡を訪ねる。

  • 広島・胎内被爆者の70年
    日本はほんとうに平和なのか
    豊田直巳

    広島、長崎の原爆投下から70年を迎えた。全国で約7300人、広島県内では約3000人と言われる胎内被爆者。彼ら彼女らは70年前の8月6日に原爆の強い熱線や放射線・爆風を浴びながら、母親のおなかのなかで守られた「赤ちゃん」であり、「一番若い被害者」である。

  • 「戦後」の墓碑銘
    進行中の反復を茶番としてとらえられるか
    白井聡
  • 『日本のいちばん長い日』原田眞人監督インタビュー
    安倍首相が都合の良い解釈をするようなら、諭します

    日本の降伏に至るまでの道のりと敗戦前夜に起きた事件を描いた『日本のいちばん長い日』。映画では「国民のため戦争終結を求める昭和天皇」が描かれている。しかし、そもそも戦争を始めたのは誰か。天皇に戦争責任はないのか。さまざまな疑問を原田眞人監督にぶつけた。

  • ◆対中国への戦争指導も問うべきでは
    成澤宗男
  • 『この国の空』二階堂ふみさん・長谷川博己さんインタビュー
    私たちが演じた二人は、戦争の被害者だと思います

    自分は男性と結ばれることなく死んでいくのだろうか??。戦時下の庶民の暮らしを描いた高井有一原作の『この国の空』が今夏、映画化される。主役の里子と、里子と許されぬ恋に突き進む市毛を演じたお二人が考える「戦争」とは。

本誌編集委員がみる「現在」

この世界の来し方と行く末を問う

  • 「戦後100年」という希望 雨宮処凛
  • 「進撃の狂人」 石坂啓 
  • 徹底して過去と向き合う 宇都宮健児
  • 8月の子ども 落合恵子 
  • 優等生的思考との決別を 佐高信
  • 「平和」ではなく「非戦」と 田中優子
  • 保守こそ反戦だった 中島岳志
  • 「人類の自滅」を妨げるか? 本多勝一

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