週刊金曜日 編集後記

1385号

▼安倍晋三元首相が殺害された。いかなる理由があろうと、人をあやめる行為は正当化できない。犯行は卑劣であり、到底許されるものではない。そしてそれが、安倍氏の言論を封じることを目的としているのならば、民主主義の根幹を揺るがすテロ行為である。

 ところが犯人は「特定の宗教団体に恨みがあり、その宗教団体と関係がある安倍元総理を狙った」「政治信条に対する恨みではない」と供述している。統一教会に母親が入信し、家族が崩壊したという報道もある。それが事実なら「政治テロ」や「民主主義への挑戦」ではなく「個人的な怨恨による殺人事件」であろう。事件解明のためには早急に政治家とその宗教団体の関係性を質さなくてはならない。今回の事件が事実以上に意義付けされ、都合よく為政者に政治利用されてはならない。また、安倍氏が亡くなったからといって、彼の悪政が美化される必要はないし、国会での118回もの虚偽答弁、公文書の改竄や隠蔽、政治の私物化等、民主主義を破壊した事実が消えることはない。(尹史承)

▼5月にNHKでやっていたドラマ「17才の帝国」がおもしろかったです。主人公はAI(人工知能)によって選ばれた17歳の総理大臣。17歳の総理と若き閣僚たちは、市議会の廃止や市職員の削減などの改革に乗り出します。しがらみゼロ、既得権益ゼロ、住民の幸福度優先の彼らが打ち出す施策は、見ていて小気味よいのです。しかし守旧派の大人たちとは対立し、17歳の総理はこれをどう収めるか――がドラマのキモ。神尾楓珠演じる17歳の総理の活躍をもっと見たかったですが(神尾楓珠を見たかったという説も)、たった5回で終わってしまいました。残念です。

 余談ですが、ドラマの舞台・実験都市ウーアを象徴する3本の塔はCGだと思っていたら、長崎県佐世保市にある実在の塔だとのことです。一度見てみたいです。

 さて、現実の政治はどうでしょうか。与党・野党問わず、17歳の総理のように住民の幸福度を考える政治家は、ドラマの中だけなのだと思うことにします。こちらもまた、残念です。(渡辺妙子)

▼老人の顔のしわ一つひとつ、真夜中を照らす光の表現、そして恐怖におののく人々の顔......。これらは、1947年に日本で紹介された中国木版画だ。民族独立や帝国主義反対、農民が豊かな生活を送るための啓蒙などを、絵を通して広めようとしたのだという。

 その後、『花さき山』の滝平二郎や崔善愛編集委員の「歓喜へのフーガ」に作品を提供していただいている上野遒さんの父親、上野誠ら中国の影響を受けた版画家が、労働運動や農民運動、平和運動を木版画で伝えていくことになる。さらに、全国の小中学校の教員が「教育版画運動」として、90年代後半まで学校に版画を広めた。

 約400点の作品と資料でこれらの版画史を紹介する展覧会「彫刻刀が刻む戦後日本 2つの民衆版画運動」が3日まで、東京・町田市立国際版画美術館であった。丸木位里・俊の作品や、朝鮮学校や「朝鮮部落」の作品も興味深かった。ところで、この美術館の運営方針が変更になるとか。なぜ? ああ~、書ききれない......。

(吉田亮子)

▼私事で恐縮ですが、『週刊金曜日』を退職します。業務部で11年、編集部で15年の計26年、貴重な日々を過ごすことができました。

 とりわけ、編集部に異動して4年目に起きた3・11では、原発事故の事実が正しく伝えられていないと、『臨時増刊 原発震災』(2011年4月26日号)をKデスク(当時)と短時日で制作して読者に届けた経験は忘れられません(幸い好評で増刷もできました)。

 3・11ではまた、福島県富岡町に取材したときに(13年3月1日号)目にした生々しい傷跡と被災者の悲痛な声がいまも記憶に鮮明です。3・11以後を考えるべく企画した、「絶望の潜勢力を回復せよ」(13年2月22日号)や「2011年以降の『運動』を考える」(18年3月16日号)などの特集も読者からの反響に励まされましたが、それだけに国や東京電力の責任がいまだに認められていないことが悔しい限りです。

 この2年ほどは、コロナ禍の在宅勤務もあって特集に関われず残念でしたが、今後は一読者として応援していきます。長い間、ありがとうございました。(山村清二)