週刊金曜日 編集後記

1382号

▼6月のかなり頭にきたニュース2件。

 日銀の黒田東彦総裁が、「家計は値上げを受け入れている」旨の発言をした。その後発言を撤回したが、各種報道によると、この方の生涯年収は10億円超(推定)とか。貯金もたっぷりあるだろうし、そもそも77歳で日銀総裁なんて地位についているのだから、生活レベルはダンチだろう。しかも「買い物は家内がやっている」とのことで、これには本当にビックリしました。買い物に行ったこともないヤツが、「家計は値上げを受け入れている」なんて言うなー。値上げを受け入れている人なんていません、必要だから仕方なく買っているだけです。

 もうひとつのニュースは、駅のコインロッカーに赤ん坊の遺体を遺棄したとして、22歳の女性が逮捕された事件の報道。こうした事件が起きるたび、いつもいつも女性の名前や顔がさらされ、女性のみが罪を負わされる。妊娠って1人じゃできないのに、なぜいつも女性ばかりが犯罪者扱いされるのか。男のほうは(おそらくは)逃げ、何の罪にも問われない。あまりにも理不尽じゃないですか。(渡辺妙子)

▼3月に57歳で逝去した青山真治監督の作品を、追悼特集で改めてまとめて観る機会があった。

 長編1作目の『Helpless』(1996年)や大傑作『EUREKA(ユリイカ)』(2000年)など、日常と隣り合わせの「暴力」や「死」、そして「再生」を描く作品群は、中上健次文学を思わせるひりひりした緊張感に満ちていたが、遺作となった『空に住む』(2020年)には、どこか突き抜けたような明るさもあって印象的だった。

 青山監督には、撮影の合間を縫って、本誌特集「絶望の潜勢力を回復せよ」(2013年2月22日号)に寄稿いただいたことがある。

 その原稿、「廣瀬純が絶望について書けと言う。」で青山さんは、映画監督というものは、「絶望」からはほど遠い、「根っからの楽天家でなければ務まらない仕事だ」と言い、「『自分のものした作品は百年後でも(つまり永遠に)残る』とさえのほほんと信じている」と述べていた。むろん、特集責任編集者で、大の友人でもある廣瀬さんに対する、半分はユーモアに違いないが、私もまた、青山作品は、「永遠に残る」と、こちらは真面目に信じている。(山村清二)

▼この4月以降、毎晩のように録画でNHKの朝ドラ「ちむどんどん」を観ている。はじめは、コロナでなかなか行くことができない沖縄の海や料理がうれしくて。今は、ドラマの舞台が神奈川県の鶴見に移り、料理人となった主人公・暢子たちの成長がたのしみだ。

 沖縄と言えば、遅ればせながら映画『夜明け前のうた~消された沖縄の障害者』をやっと観た。精神障害者の私宅監置を取り上げたドキュメンタリーで、唯一残る元監置小屋の映像は衝撃だ。監督の原義和さんがある市民団体のニュースレターにこう書いている。

「武器を持とうにも持てない、争いようがない、むしろ支えを必要とする障害者の身体は、人間が争う存在ではなく支え合う存在であることを証している。もし障害者が社会の真ん中にいて存在感があれば、戦争は起きにくいはずだ」

 監督も登壇する映画の上映会とシンポジウムが6月25日(土)13時40分から、神奈川県・ウィリング横浜で行なわれる。一般1500円。申し込みは神奈川精神医療人権センター(mail@kp-jinken.org)まで。23日は沖縄「慰霊の日」。(吉田亮子)

▼6月12日、神戸市で新しい読者会「昼下がりの読者会・こうべ」が誕生した。発起人の片岡さんは、元高校教師で、「言葉の広場」の常連投稿者。私は昨年秋まで「言葉の広場」の担当者だった。片岡さんとは手紙やショートメールや電話で何度もやりとりをした。

 読者会のスタートにあたって、「できれば佐藤さんに来てほしい」という片岡さんのリクエストが会社に届き、その朝、新幹線に乗って西に向かうことになった。

 片岡さんは読者会での挨拶でこう述べた。「私は、オードリー・ヘップバーンのファン。読者会の名前は映画『昼下りの情事』からパクりました。ユニセフ親善大使を務めた彼女は、生きていればウクライナへ行き、『戦争を止めろ』と呼びかけるでしょう」

 片岡さんらしい挨拶だな、と思いながら聞いていた。年配の読者に交じって少し若い世代の男性が数人参加していた。片岡さんの高校の教え子たちだ。

「先生、花束贈呈があるんだ」

 教え子たちは、お祝いのために大きな花束を用意してきて、片岡さんに渡した。読者会の進行も教え子の一人。温かな空気に包まれた昼下がりだった。(佐藤和雄)