週刊金曜日 編集後記

1181号

▼オリンピックが「嫌い」──。
 久米宏さんとピーコさんの対談では、何度もその表現が出てきた。多勢に無勢のこの状況で「反対」を人に訴えたいときに、どんな言葉が、より届くか。「嫌い」というごく平たい言葉を使って話すお二人はやはり流石だなと唸った。まずは「東京五輪? 大っ嫌い!」と心の底からカンジョーをぶちまけたい。開催返上への道は険しいが、「大嫌い」が広く共有されることから、すべては始まるかと。
 思えば日本は五輪を返上した経験がある。1940年東京五輪。皇紀二千六百年行事であること、関東大震災からの復興を謳っていたこと、競技場がなかなか決まらずIOCに怒られたことなど、今回と似た部分が多かった。36年に招致決定、翌年に盧溝橋事件、日中戦争に突入。38年7月に返上を閣議決定している。つまり今で言えばこの7月に返上決定、のペース。ま、戦争が原因なのでそこまで同じ道を辿るのは困るが、云々くんとか未曽有くんとかの退場とセットで五輪返上へ、ならとてもシアワセだと思う。(小長光哲郎)

▼今月の介護保険報酬改定で、介護老人保健施設に長期入所している人が出てほしいと言われるケースが出ています。医療と介護両面の支援のある老健は、現在在宅復帰のための施設となり、3カ月でリハビリをしてその後は在宅となるのが基本です。3カ月を越えると高額な有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅に一旦滞在して、また戻るというプランも提示されます。今年から、決められた在宅復帰率50%、30%等を満たさないと助成金がでないとのこと。
 追い出される方も行く当てがなく、地域包括ケア強化と言われても、誰が介護するのか不明です。訪問介護も減らされていく予定です。介護を担うのは多くは女性です。子育てを担うのも多くは女性です。無償労働を前提にした、育児、介護という労働力、社会の再生産が当たり前になっています。
 少子化、労働力不足、女性の活躍などと言われても、実際には介護の負担、保育所の欠如、矛盾だらけです。誰のための国家なのか。国家を介在させない経済や助けあいの仕組みを本気で考えた方がいいのかもしれません。(樋口惠)

▼前々号の本誌(1179号、4月6日)で糞土師・伊沢正名さんのインタビュー記事を書いた。誌面の担当デザイナー氏も「タモリ倶楽部」(テレビ番組)を観て伊沢さんを知っていて、インパクトのあるページに仕上がった。
 とはいえ「うんこ」の話である。「アベ政権が崩壊か、というこの時に悠長な」「うんこなんて汚い」などと読者からお叱りをいただくのではないか......と、実のところは戦々恐々としていた。けれども、この原稿を書いている時点で、記事への批判は寄せられていない。
 一方で、記事を読んだという読者から編集部にメールが届いた。7歳になるお孫さんは今「うんこブーム」で、うんこ関連本を読み漁っているという。そのお孫さんが図書館で伊沢さん執筆の『うんこはごちそう』(山口マオ画、農文協刊)を借りてきて、読者は記事を見ながらお孫さんと「この人がうんこの本を書いた人だって」と盛り上がったそうである。
 まさか本誌の、しかもうんこの記事をきっかけに家族の団らんが弾むとは。ほのぼのとした反響に感謝です。(斉藤円華)

▼トランプのことを学ぼうと本誌3月9日号の書評にも載った『炎と怒り』(早川書房)を読んだ。「導き出される結論はひとつ、『これ、自分でも大統領できんじゃないか』」(書評)とあるけれど、思いがけず大統領に当選した直感男が世界中をひっかき回している。
 大戦争の危険を冒してミサイル攻撃をしたり、貿易戦争を始めたり。だが、米朝会談のようにあるいは融和に向かうかと思わせる直感もないではない。次々と浮上する疑惑の責任をすべて官僚に押し付け、トランプを追認して居座るアベの姿は醜悪と言うほかない。期待できる政策もまったくない。『朝日新聞』の世論調査でも不支持が過半数となり、最近の発言や振る舞いを「信用できない」が66%だ。
 トランプに解任された政権関係者の中には反撃して辞める人もいるけれど、こちらは誇りを捨てて保身に走る人ばかりというのも悲しい。同じ言葉しかしゃべらない"ロボット"を盾に、いつまで粘れると思っているのだろうか。長く居座るほど、歴史に汚名を刻むだけだと思いますが。(神原由美)