週刊金曜日 編集後記

1044号

▼「あちょ〜っ!!」という有名なあの奇声を、このところついつい発してしまう。きっかけは、今年が生誕75年、7月20日で没後42年ということでNHK・BSで順次放映されている、ブルース・リーの主演映画。影響されやすい阿呆はいつの時代もいるもので、そういえば公開当時、リーの映画がテレビ放映された翌日は小学校の教室も廊下も、「あちょ〜っ!!」と暴れ回る悪童どもでlれていた。
 ただ大人になり、「ロサンゼルスで生まれ香港での下積み生活も長かったリーは人種差別で悔しい思いをしたことも多く」----という知識を得て映画を再び見ると、実際の全米空手チャンピオン(白人)を敵役に抜e、それをリーが叩きのめす、というシーンも違って見える。四方田犬彦さんの『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』には、「ぼくは東洋人だから、映画のなかでは白人を全員やっつけなければならないのです」という本人の言葉もある。「見返す」「溜飲を下げる」----どちらかというと負の感情かもしれない。でもリーは、それを正のエネルギーに変えたのだろう。 (小長光哲郎)

▼宮崎県宮崎市のマッサージ店経営者が強かん罪に問われた事件で、その弁護士が、告訴取り下げを条件に被告人が盗撮したビデオの処分を持ちかけた。これが被害者には「取り下げないと法廷で強かんビデオを公開するぞ」という脅迫に感じられたため、この交渉は弁護士倫理に反するとして懲戒請求の署名が集まり、宮崎県弁護士会に提出されたことは2月と3月の「ジェンダー情報」でも報じた。
 6月7日、この件について「刑事弁護フォーラム」が同県でシンポジウムを開き、パネリスト5人の意見が !不起訴を目指すのが弁護人の最大の目的で、ビデオを利用するのは当然@ と一致したそうだ。『毎日新聞』によれば坂根真也弁護士は「国家対被告というのが刑事事件の構図で、被害者が結果的にいやな思いをするのは内在する(組み込まれている)ものと捉えるべきだ」と述べたとか。つまりこの人たちはセカンドレイプの意識がなく被害者の人権など二の次ってこと。「構図」を盾に尊厳を蹂躙された被害者をさらに傷つける弁護士って弁護士として恥ずかしくないですか。 (宮本有紀)

▼米軍兵士と結婚した旧友と同窓会で話す機会があった。その席で彼女は、「10代の頃から筑紫哲也さんのファンなの」と呟いた。好きな曲に井上陽水の「最後のニュース」を挙げる。夫は実家の金銭的な事情を背負って入隊したが、「早くこの仕事を辞めたいと話している」とのことだった。
 近年の「戦争」作品に共通するのは、敵視する他者の人間性を極力排除していることだろう。2013年公開の『図書館戦争』(有川浩原作)は「巨悪な権力と戦う善良な市民」を描くが、敵の素性は暴かれない。百田尚樹の『永遠の0』も自分たちの正義を強調するが、敵との予期せぬ交流や、そのうちに生じる煩悶などは削がれている。とはいえ、この独善志向は「右派(または保守)」だけにあてはまるものでもない。自戒を込めて日々思うのは、「(相手と)ぶつかるどころか、出Cってすらいないのではないか」ということだ。
「打倒」を叫び「敵視」するだけで平然としていられる人々はおめでたい。どんな状況でも「背中で聴いている人」がいる。その人に届く言葉を模索したい。(内原英聡)

▼6月14日、国会包囲集会に参加しました。持参した本誌チラシを配布すると、「もうとってるよ」とのうれしい声も頂戴しました。参加者の強い平和への思いの表れか、あっという間に配り終えることができました。
 さて、今週発送の定期購読には、今年から「金曜日」も加わらせていただくことになった「平和の棚の会」のパンフレットを封入しています。本当の「積極的平和」を目指そうと、2008年に結成された会です。
 もちろん「積極的平和」は、安倍晋三首相の唱える「積極的平和主義」とはまったく違うものです。詳しくはパンフレットをご覧ください。それぞれ地道に活動されている他の会員社の驥尾に付して、「金曜日」の書籍も平和の発展に寄与できれば、と思います。 
「平和の棚の会」では全国各地の書店で「平和の棚の会フェア」を開催する予定です(現在はジュンク堂書店京都店・紀伊国屋書店新宿南店で開催中)。 (原田成人)