週刊金曜日 編集後記

741号

▼セブン-イレブンに公取委の調査が入ったと『朝日新聞』が一面で報じて以来、弊社刊『セブン-イレブンの正体』の売れ行きもじわじわ伸びている。ここで報じられた、いわゆる「コンビニ会計」の違法性については同書に詳しい。ぜひご一読をおすすめする。

 さて、コンビニの本は書店と同じく取次会社を通して配本される。従って、『セブン-イレブンの正体』を取次経由でセブン-イレブンの店頭に並べることは不可能だ。ならば、競合するコンビニに配本しようと、取次を通してセブン-イレブン以外のコンビニ各社に打診してもらった。回答は全て不採用であった。同業者の批判本を置くのは好ましくないと言うのが、表向きの理由だが、内容を知って業界批判と受け止めたからに違いない。どうやら業界のお墨付きを得たかもしれない。

 ローソンがam/pmを買収するそうだ。この不況の中、生き残りを賭けて業界再編が始まった。本部の舵取りが、加盟店を苦しめてはならない。看板が変わっても会計方式などのシステムが変わらなければ、いずれは疲弊してしまう。改善を望みたい。(原口広矢)

▼「働かざるもの食うべからず」の出典は新約聖書(「テサロニケの信徒への手紙二」)とされるが、日本に広まったのはレーニンの引用以降らしい。むろん、レーニンの「働かざるもの」とは、「働くもの」=労働者を搾取する資本家を指すが、日本的文脈で人口に膾炙するうちに、働いていないもの=怠けているもの、といった意味にすっかり変質させられてしまった。「障害者自立支援法」、「ホームレス自立支援法」など、この国の福祉はいまや、「働かざるもの、福祉を受けるべからず」の制度になっている。現実に働けるかどうかにまったく関係なく、だ。かくして、生活保護の「水際作戦」、失業者への自己責任論、受給者への偏見等が「働かざるもの食うべからず」の曲解の下で形成される。

 ベーシック・インカムについては、こうした日本的風土を背景に、実現可能性や経済合理性など異論も多いかもしれない。しかし、現在のこの国の社会保障制度が、福祉の受給者にもたらすスティグマが、万人に無条件に支給されることによって少しでも解消されるなら、その一点においてだけでも、私はこれを支持する。(山村清二)

▼二月一三日号の「逢いましょう」でもご紹介した金美穂さんの不定期連載が今週から始まります。現在、米国カリフォルニア州で活動する美穂さんの体験から、あらゆる差別と闘う市民の行動などについてつづっていただく予定です。

 ご自身が使用されているお名前の表記はmiho althea kim。altheaの意味は二つあって、一つは無窮花。支配されても同化を強いられても、朽ちず卑屈にもならず美しく自分を保つよう成長していくという意味が込められているそうです。もう一つはギリシャ神話に出てくる女性アルテイア。「勇敢でまっすぐで気持ちに正直。怒りも愛も本物であるこのキャラクターと自分が重なってほしいと願っています」という美穂さん。

 まさに勇敢でまっすぐなそのお人柄に惚れ込み、話をしたところ、お互いに辛淑玉さんを「姉」と慕うことが判明。「じゃあシスターだね」と意気投合してこの連載案が生まれました。「私が何か書くなら、一番この雑誌に書きたいと思ったこともあって、大変な光栄なのです」という美穂さんは、意欲に満ちています。文化の違いも国境も越えた市民のパワーに、私たちも勇気づけられるでしょう。ご期待ください。(宮本有紀)