3.11から10年〈見えない化〉に抗う【第5回】

廃炉
虚構のロードマップ

政府と東京電力は2011年12月、「福島第一原発の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を策定し、「30年から40年後」の廃炉完了を目標に掲げてきた。ロードマップ、すなわち工程表は現在5回目の改訂版となるが、その目標は変わっていない。汚染処理水の海洋放出も「廃炉に不可欠なデブリの取り出し、廃棄物の一時保管などのためには、敷地内にこのままタンクを増やし続けることができません」「廃炉の時にはタンクをなくすことが必要です」と説明されている。だが、東電も政府も、どのような状態になれば「廃炉完了」と言えるのか、明確な像を示したことは一度もない。
最も難しい核燃料デブリの取り出しが完了できる見通しは、まったく立っていない。使用済み燃料プールからの核燃料の取り出しは、すでに当初の目標から10年遅れている。現実を直視すれば、「30年から40年で廃炉」というのは、政治的スローガンとしか響かない。まったくの虚構である。廃炉作業に伴い、膨大な放射性廃棄物が生まれる。作業員の被曝も懸念される。事故から10年を経た今こそ、私たちは、廃炉の「最終形」とそれに至るプロセスについて、真剣に議論を始めなければならない。

  • 「福島第一原発の廃炉」を
    法律で定める必要がある

    尾松亮

    福島第一原発の「廃炉」には「30~40年かかる」と言われてきた。東電と政府の工程表に従えば、現在も「2051年までの終了」を目指す作業が進められている。しかし、事故から10年経過した今なお、「どんな状態を達成したら福島第一原発の廃炉完了なのか」は決まっていない。事故が起きた原発の「廃炉完了要件」と、その「完了状態」に向けたプロセスの安全性を、法律や規則でどのように定めることができるのか。メルトダウン事故を起こしたスリーマイル原発とチェルノブイリ原発という二つの先例から探る。

  • 2051年までの廃炉完了は「現実的に困難である」
    日本原子力学会委員会が「廃炉」報告
    佐藤和雄

    原子力と放射線の平和利用に関する「日本で唯一の総合的な学会」である日本原子力学会。学会が設置した「福島第一原発廃炉検討委員会」が昨年7月、中間報告を発表し、小さくない反響を巻き起こした。政府と東京電力が掲げる「30年から40年後の廃炉完了」という目標に対し、「現実的に困難であると考えられる」と明言したからだ。中間報告は、政府と東電の廃炉に向けた「中長期ロードマップ」が、「虚構」にほかならないことを明らかにしている。

  • 日本原子力学会「廃炉検討委員会」宮野廣委員長に聞く
    「中長期ロードマップ」はまったく
    本来のロードマップではありません

    日本原子力学会の「福島第一原発廃炉検討委員会」はなぜ「現実的には困難」という結論をあえて提示したのか。中間報告をまとめた責任者に聞く。

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