週刊金曜日 編集後記

1361号

▼今週号、井上伸さんの「実質賃金の推移の国際比較」を見て溜息がもれた。コロナ禍の2020年も日本では実質賃金が下がり続けたことだ。「(欧州でも米国でも)人手不足が労働の価値上昇に繋がってい」ると浜矩子さんは言及されている。なぜ日本では同様の機能が働かないのか。竹信三恵子さんの指摘には説得力がある。
昨年末に開催された民間税調のシンポジウムでは「賃上げ税制」が話題となった。財務副大臣を務めた峰崎直樹さんの話が興味深かった。その中で、1990年、連合と日経連のトップ2人が「規制や税金の撤廃緩和等により物価を引き下げることで『真の豊かさ』を実現すべきと訴え」たことと、その後訪れた物価も賃金も「安い日本」について濱口桂一郎氏が論評されているのを紹介された。
 本誌1995年5月12日号の「『価格破壊』歓迎論の陥穽」という投稿を思い出した。物価引き下げが「価格破壊」ともてはやされていた当時、価格破壊は「賃金の低下を含まなければ論理的には完結しない」と指弾、「賃下げ社会」を警告した内容だったからだ。投稿者の慧眼に驚くとともに、この社会が長い時間をかけて破壊されたことに愕然とする。(小林和子)


▼昨年後半は小さなケガや小さな故障が相次ぎ、病院通いが増えました(トホホ)。それも、「えっ? どうしてここで?」「どうしてこのタイミングで?」と思うような場所や状況でケガしてしまうのですね。しかもそのケガや故障の治りが遅く、まあ長引く長引く。なかなかすっきりと治りません。年が明けても病院通いは続いております。ケガや故障そのものもショックなのですが、「なんでこんなところで?」とか「なんで今?」という状況でケガしてしまったことに愕然とします。
 とはいっても、入院やドクターストップがかかるような事態ではないので、そこは不幸中の幸いというべきですね。
 だんだんと体がポンコツになっていっているんですよねー。今年の目標は、小さなケガや故障が大きなケガや故障につながらないよう、とにかく体のメンテナンスに努めることです。
 というわけで今、せっせと医療費控除の計算をしているところでございます。この医療費控除、簡単なようで、素人には見落としがちなポイントがありまして、今号の「くらしの泉」では、内藤眞弓さんにそこらへんを解説していただきました。(渡辺妙子)


▼夜になるにつれ、街の人通りは減り、静けさの中に冷たい風だけが通り抜ける。
 新型コロナの再びの感染急拡大。近所の飲食店のオーナーに聞くと、「それ以前からも、やはり夜はお客さんがほとんど戻ってきていません。夜は、コロナ前の1、2割程度」という。そこに第6波が追い打ちをかけ、さらに、政府が出した臨時交付金の要綱に沿って協力金を支給していた沖縄では、感染防止対策の「第三者認証」をうけた店のほうが非認証店よりも協力金が少ないという問題まで浮上した。1月11日には山際大志郎経済再生相が制度の見直しを発表したが、そもそもなぜ政府はこんな格差を生じさせたのかといえば、非認証店は認証店よりも営業時間が1時間短く、酒類提供ができないからだという。だが、街を歩けば、営業が1時間長かろうが、お客が入らないので早くに店じまいする、なんて店はいくつもある。
 実態に目を向けた対策がなされていないのだ。今回の「10万円給付」でも、子どもを養育するひとり親世帯に給付されない問題などが浮上している。2020年の10万円さえも受け取れずに終わった人たちがいるのに、何回こんなことを繰り返すのか。(渡部睦美)


▼前回、編集後記で紹介した『有馬修川柳集』について、編纂した3人の知人の1人、大澤敏男さんの話によると、FIWC(フレンズ国際ワークキャンプ)関西の活動で岡山県の邑久光明園を訪れたのは1971年だったそうです。以来、交流を深めてきた入所者の1人が有馬修さんでした。
 2017年に有馬さんが亡くなられたあと、その投稿を妻の照子さんが数冊の川柳投稿控え帳として丁寧に書き留めていたことを知り、照子さんの了承を得て川柳集を出版することにしました。
「門外漢のため作品を選ぶ基準がよくわからない。そこで川柳としての文学価値ではなく、修さんとの長い付き合いを踏まえて、私たちが読んで良い、面白い句を選んだ」「(足立理八郎さん、小林茂さんとの)3人およびその家族がリストアップし、ポイントを集計して上位のものを収録した」と大澤さん。
 そんな苦心・苦闘の末、20年2月に川柳集ができあがりました。今回は『毎日新聞』入選の投句を含めて3句紹介します。「気の遠い歳と思った歳を越え」「赤だけが減る晩学の三色ペン」「蓑虫が顔を覗かす冬日和」(秋山晴康)