週刊金曜日 編集後記

1334号

▼原発の取材をし、原稿を書くとき、わが師と仰ぐ核化学者の高木仁三郎さんの言葉をいつも思い起こす。2000年10月に直腸がんで亡くなる直前、死の床から原発産業の斜陽化を見据え、「(原子力分野では)まともな人材育成や教育が行なわれなくなっている。重大事故の可能性は高まっている」と警鐘を鳴らし続けた。
 東京電力福島第一原発事故を予測していたともいえるが、今も頭を垂れてしまうのは「原発反対派だからといって、放射性廃棄物を大量に生み出してしまった世代の責任から逃れられるものではない」と、市民科学者としての高い倫理観と責任感で、ゲンパツの後始末=廃炉の困難をも見通していたことだ。原発を推進してきた政治家や経済人、学者や報道人の無恥・無責任の対極にある生き方だ。
 今号では、北九州の川筋モンの義侠心と正義感からフクシマでの収束作業に飛び込み、白血病を発症した「あらかぶ」さんにインタビューした。放射線防護教育や労働環境の不備、電力産業の無責任を告発する生き証人の言葉――「このままでは廃炉作業の担い手もいなくなる」という懸念は、20年以上前の高木さんの警鐘に通じるものだ。(本田雅和)

▼今年は東京オリンピック・パラリンピックの開催を前提とした「2021年限定」の特例として「海の日」など三つの祝日が移動する。しかしこの祝日の移動が決まったのは昨年の11月27日。そのため紙のカレンダーや手帳には反映されていないものも多く、祝日の変更に気がついてない人もいるようだ。内閣府によると、移動する祝日は左記のとおり。
・海の日/7月19日(月)→7月22日(木):五輪開会式前日
・スポーツの日/10月11日(月)→7月23日(金):五輪開会式当日 ※スポーツの日が五輪開会式に移動したため10月11日は平日となる。
・山の日/8月11日(水)→8月8日(日):五輪閉会式当日 ※翌日の8月9日(月)が振替休日となる。
「どちらでもいいけど、やめた方がいいんじゃない?」という声をよそに、まさに「眼をつぶって突っ込んでいこう。やるしかない」と突き進む政府とメディアの現状が、不利な戦況を隠して戦争を続け、国を敗戦へと追い込んだ太平洋戦争にダブって見える。今度の祝日は『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を久びさに再読しようかな。(本田政昭)

▼夫婦が同姓でないと法律婚できないとする民法と戸籍法の規定が違憲だとして、別姓での婚姻届受理を求める家事審判3件の特別抗告審で、最高裁大法廷の決定が6月23日に出ることになった。
 弁論が開かれずに出る決定なので、2015年の大法廷判決と同じく合憲判決かなと思ったが、原告代理人弁護士によれば「家裁の受理申立の事件なので、弁論が開かれずとも違憲判断をするということはあり得る」という。この号が出るころには結果がわかっているが、21日現在は違憲判断がされるよう祈るのみだ。
 結論の出ていない別姓訴訟はほかにもあり、今回の特別抗告審には含まれなかったが、広島家裁で申し立てされた同様の家事審判が最高裁第一小法廷に係属している。また、東京や広島の地裁から始まった国家賠償請求訴訟も3件とも最高裁に上告中だ。審理や判決の日は決まっていないが、今年動きがあるのではと予想されている。
 ただ、これほど幾つもの訴訟をせずとも、国会で法改正すればすぐに解決できる問題だ。選択的夫婦別姓に反対し、困っている市民を放置し続ける議員は誰か。総選挙での判断材料となる。(宮本有紀)

▼その猫と出合ったのは2006年11月。最寄り駅の公園で里親募集をしていたのをもらい受けました。街中で捕獲され、生後2カ月くらいらしく勝手に9月2日を誕生日としました。
 コブタの「コブ」とネーミングし、その後、1匹では寂しいだろうからと、フウタ、ウルを家族に迎え入れました。3匹合わせて「ブーフーウー」です。
 コブは理知的な目をした猫で、呼べば返事をする。ご飯のときは「マンマ」と鳴く。ほかの猫がドア下をガリガリとやっているのを横目に、彼だけは背を伸ばして取っ手をつかみ、体重をうまくかけながら開けてしまう、困った猫でもありました。
 先ごろ、コブが旅立ちました。昨年相次いで亡くなったウルとフウタが呼んだのでしょうか。「ブーフーウー」が去ったわが家は、一気に静かになりました。
 引き取ったころ携わっていた介護雑誌を介して知り合った編集長らと集いの場を設け、KOBUの会と名付けました。いまはコロナ禍で開けていませんが、会のおかげでたくさんの人たちと繋がることができ、誌面づくりにも活かされています。貴重なご縁を結んでくれた猫でした。(秋山晴康)