週刊金曜日 編集後記

1332号

▼政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は6月2日の国会で「今の状況で(五輪を)やるというのは普通はない」と開催に警鐘を鳴らした。しかし、菅義偉首相のブレーンの一人とされるパソナ会長の竹中平蔵氏は、テレビ番組でこの発言を「明らかに越権」「ひどい」と批判した。そして開催に否定的な世論について問われると、「世論が間違っている」と平然と嘯いた。
 自民党幹部は「言葉が過ぎる。(尾身氏は)それ(開催)を決める立場にない」と尾身氏に苦言を呈したと報じられたが、民意を無視した政権の独裁のほうがよほど民主主義下の越権行為であろう。
 本特集で宇都宮健児氏は、市民にさまざまな犠牲を強いて、電通やパソナなどの一部企業が儲かる構造の商業主義五輪を質した。
 作家の赤川次郎氏は『朝日新聞』(6月6日付)に「国の指導者の第一の任務は『人々の命を守ること』」「一日も早く、五輪中止を決断するしか道はない。賠償金を払わねばならないのなら払えばいい。経済は取り戻せても、人の命は取り戻せない」と投書した。
「命かカネか」いま東京五輪で私たちに問われていることは単純明快なことである。(尹史承)

▼「政局取材班」の一員なので、いずれ「市民連合」呼びかけ人の一人、中野晃一さん(上智大学教授)にお話を聞きにいこうと考えていたのですが、その前に五輪をテーマにインタビューするとは思っていませんでした。
 お忙しい中、ご無理をお願いし、1時間弱にわたってうかがったお話は鋭く核心を突き、実に興味深い内容でした。なにせ政治学者に元政治(部)記者がインタビューしているので、おのずと話は政治、政権、選挙へと流れていきます。記事中にある「清和会」をほんの一時期担当していたこともあり、ああ、まさにそうだなあと思いながら聞いていたのでした。
 紙幅の制約で残念ながら書ききれなかったことがいくつか。ここでそのテーマだけを、かいつまんでご報告すると、第一には自公政権の「無責任体制」は何によってもたらされたのか。第二には、有権者の投票行動は、「スーパー」選びではなく、「歯医者」選びに似ていること。第三には、マスメディアの問題――。
 とりわけ、第二の「スーパー」と「歯医者」が書けなかったのが残念。秋の衆院選挙に向けてもう一度お願いしたいと思っているところです。(佐藤和雄)

▼緊急事態宣言の延長に伴い、東京都はようやく映画館への休業要請を、時短要請に切り換えた。国会議事堂前の"静かな抗議"も訴えていたように、元々、休業要請自体が根拠のない、都独自の暴力的措置だったし、緩和もまだ半歩にすぎないのに、小池都知事は、状況次第で休業要請に戻す可能性も匂わせる。あまりに高圧的だ。
 コロナ禍でミニシアターなどが窮地にあることは、本誌でも何度か報じてきた。徹底した消毒や換気など、万全の新型コロナ対策をしているのに、座席数の半減や時短・休業要請などが続く。売り上げ減少による閉館の知らせを聞くたびに、いま、映画文化自体が存続の危機にあることを痛感する。
 そんな中、優れたドキュメンタリーや名画の上映で知られる東京・東中野のポレポレ坐では、経営危機対策の一つとして、オンラインによるトークライブの配信を開始。本誌でも話題になった映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の大島新監督とゲストが対談をする連続配信を6月1日からスタートさせた。次回配信は、7月3日。視聴可能な方はぜひ応援を! 詳しくは左記を参照ください。
URL・https://www.nazekimi-talk.com/(山村清二)

▼突然ですが、本多勝一編集委員は元気です。本多編集委員の連載が少し中断しているのは、編集部が準備に手間取っているためです。体調をご心配されている方がいましたら申し訳なく思います。
 6月18日号から「俺と写真」を再開する予定です。テーマは「ベトナム戦争」です。『朝日新聞』の連載などでは、ともに取材した写真部の藤木高嶺さんや石川文洋さんの写真を多用していますが、本多編集委員自身も現場を数多く撮影しています。
 36枚撮りフィルム100本を超える白黒ネガフィルム(およそ半分はハーフサイズ)から写真を厳選して掲載します。『戦場の村』など、これまでの単行本に含まれていない未発表カットもあります。記者が紛争地を現場で直接取材することの重要性をあらためて感じていただけると思います。
 さて、急速なデジタル化の進行で、東京ですらネガフィルムをプリント(手焼き)する業者がほとんどありません。しかも仕上がりには中3日間かかります。
 フィルムの情報量は膨大です。紙版よりもさらに細部まで表現する本誌電子版を関心がある方はご覧ください。(伊田浩之)