週刊金曜日 編集後記

1327号

▼今週号の写真企画「祀りをたずねて」はこの1年で入れられなかった作品などを基に総括的な拡大版を掲載した。今回からサブタイトル「日本の民間信仰」を「日本の民俗信仰」に変更し、お寺さんと信者の信仰、修験道や神社独自のユニークな信仰など、幅広い視点で各地に受け継がれている様々な「祀り」を紹介する予定です。
 政府は3度目となる緊急事態宣言発出を決定した。対象地域は東京都・大阪府・京都府・兵庫県。初日の4月25日、都立小金井公園の駐車場は閉鎖され、訪れた車は引き返していた。「GWは外に出るな」ということらしい。
 それでも聖火リレーは続く。菅首相は「コロナに打ち勝った証として東京五輪・パラリンピックを開催する」との方針を固持し続けている。世界中から人が来たら新たなウイルスに感染する確率は高くなるし、人が集まればクラスター発生のリスクも高まると思うのだが......。なにかがおかしい。
 先日、インドで発見された感染力の高い「二重変異型ウイルス」が日本でも5件確認された。大阪ではすでに「必要な時に適切な医療を受けられない」という医療崩壊が始まっている。(本田政昭)

▼村山由佳の大冊『風よあらしよ』(集英社)は、伊藤野枝の生涯を描いた作品だ。グイグイ読ませ、人物が立ち上がってくる
 大逆事件の年(1911年)に女学校の教師であった辻潤と生活を始め、平塚らいてうの『青鞜』に参加、そこで大杉栄と出会い、その後の短い生涯を一緒に歩む。
 こんな5~6行では何にもならないから、多くの人がさまざまな角度から記してきた。「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」この大杉の言葉を書名にした瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』(1966年)、『諧調は偽りなり』(1983年)は当時話題になった。このふたつの間には16年の月日がはさまる。前作は、日蔭茶屋で大杉が神近市子に刺されるまで。「甘粕正彦という人間がわからなかった」と瀬戸内は述べている。1923年、関東大震災の15日後、甘粕憲兵大尉によって2人はくびり殺される。
 夢中で読み返してしまった。連休用に、田中伸尚『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』と、野枝の四女を描いた松下竜一『ルイズ 父に貰いし名は』がいま机上にある。(土井伸一郎)

▼先週21日に判決が出た夫婦別姓判決訴訟。詳細は記事を読んでいただきたいが、結婚や戸籍について考えさせる裁判だったと思う。
 途中で裁判長が替わったが、当初の裁判長は国側に「原告らの婚姻が民法750条の要件を満たさないというが、形式的要件のことか、実質的要件のことか」と質問し、担当者を慌てさせたことがある。「実質的要件だが意見がわかれており、改めて文書で回答したい」と取り繕った国側に対し、原告の1人、想田和弘さんは「国側が慌てている感じで、ドキュメンタリー作家としてはカメラを回したいくらいでした。法律が矛盾しているのに、詭弁で整合性をつけようとしているけど難しいんでしょうね」と半ば同情していた。
 原告は、夫妻の戸籍作成という形式にはこだわらず公証を希望していたので、外国人と結婚した日本人の戸籍に配偶者の情報が記載されるのと同様の記載を検討してほしかったが残念だ。ただ裁判を通して国側も主張の限界を感じたのではないか。選択的夫婦別姓を導入すれば詭弁を弄する必要がなくなると一番わかっているのは、国側かもしれない。(宮本有紀)

▼『しんぶん赤旗』(4月25日付)は、東京五輪組織委員会が日本看護協会に看護師500人を五輪医療スタッフとして5日以上動員するよう要請していたことを報じ、「『五輪成功のため』という理由で、苦しんでいる患者さんの前から看護師がいなくなっていいのか。いまは新型コロナに立ち向かうべき時、五輪は中止すべき」という看護師の怒りの声を掲載した。
 4月25日投開票の衆参3選挙で全敗した自民党は今後、五輪成功によって政権浮揚を図るため、なりふり構わず、開催の準備をすすめていくだろう。高齢者のワクチン接種もままならない中で、五輪出場の日本選手への優先的なワクチン接種を検討したとの報道もある。そして五輪で入国する外国人選手やコーチらは一定条件を満たせば、14日間の待機を免除するとも言われる。「検査や行動制限を厳格化することで、海外からのウイルス流入への国民の不安を和らげる狙いがある」と『読売新聞』(4月25日付)は報じたが、国民の不安を和らげる一番の方法は、五輪を即刻中止し、菅義偉内閣が総辞職することだろう。(尹史承)