週刊金曜日 編集後記

1302号

▼大学の1年時、親友が突然自ら命を絶った。不意を突かれて死が身近になり、私もそれに魅せられた。「生きる意味って何なんだ?」。日々悩み苦しみ身悶えしていた。
 翌年3月、ヨット部に在籍していた私は2人乗りの「470級」で海上を帆走訓練中、天候が急変し強風に吹き倒され転覆、艇から離れ一人流されてしまった。救命具は着用していたものの風とうねりで海水が顔をたたき息ができない。苦しかったが体力を使わず漂流するしかないと確信したので余裕はあった。ただ北風で沖に流されるばかりで深刻な事態であることも実感してきた。諦めかけたその時、レスキューボートが私を発見。鉛色の海に白波が崩れる視界の悪いなか、先輩から譲り受けた遠目の利く黄色いジャケットを身に着けていたおかげだった。この間10分程度であったらしいが、体力は残っておらず船上に引き上げられても動けなかった。すると初めて恐怖が押し寄せ「死ななくて良かったよ」と涙していた。秋晴れの10月20日は彼の38回目の命日だった。今年も墓前に花を供えながら「生きているだけで良かったのに」と呟いた。(町田明穂)

▼日曜深夜、NHKで絶賛再放送中なのがSFアニメ「未来少年コナン」(原作/アレグサンダー・ケイ『残された人びと』)。「核兵器をはるかにこえる超磁力兵器が世界の半分を一瞬にして消滅させた」2008年から20年後の荒廃した世界を舞台に、コナンと仲間たちがたくましく生きる冒険物語だ。初放映された1978年当時、まだ無名だった宮崎駿が演出を手がけていて、私を含め当時の子どもたちを夢中にさせたが、大人になった今もつい観てしまう。
 当時、「未来」なんて想像もつかなかったけれど、今も世界は核兵器による「平和」に頼り、行き過ぎた科学は人びとを幸福から遠ざけ、何も変わっていないんじゃないかと暗澹たる気分にもなる。一方、コナンの仲間、ラナは勇敢で思いやりがあり、行動力がある少女として描かれ、作品の大きな魅力だ。第25話「インダストリアの最期」では空を飛ぶ巨大爆撃機ギガントで、人間離れした身体能力を持つコナンと世界征服を狙うレプカが闘うドキドキワクワクの30分だった。次週が最終回!(吉田亮子)

▼ある日、私の部屋にあるベランダの空中で、巨大なクモが巣を張っていました。クモの大きさ、およそ直径5センチメートルくらいかと推測します。体の大きさに比例してか(?)、巣も大きいです。こんな大きなクモ、どこから来たんだろうと見ると、数メートル離れた電線2カ所と、ベランダの柵、合計3カ所から糸が出ていました。電線のところからビヨ~ンと糸を出して、わが家のベランダに着地したのかな? それともあっちの電線からこっちの電線にまず糸を張り、その後ベランダに着地した?
 というようなことを考えている間にも、糸張り作業はどんどん進みます。その精巧さに見惚れている間に、巨大なクモの巣ができあがりました。きれいです。芸術です。こんなに大きかったら、獲物もたくさん捕れるよね。巣を壊さないよう、ベランダ掃除のときは気をつけます。とりあえず、しばらくの間、よろしくね、とご挨拶。
 翌日、朝起きて見たら、巣の中心にいるはずのクモはいませんでした。落下したのか、鳥に襲われたのか。あまりにも短い滞在でした。(渡辺妙子)

▼「国民から信頼される政府を目指す」と10月26日の所信表明演説で語った菅義偉首相。改訂版の菅氏の新書では、「公文書の管理の重要性」を訴える記述があった章が削除されたことが話題だが、実は過去のブログ記事に同様の内容があり、現在も読むことができる。2012年1月28日付のそのブログ記事タイトルは「議事録も作成しない『誤った政治主導』」。当時の民主党政権に対する批判として書かれたもので、「公文書の作成は、政党の主義主張とは全く関係のない、国家運営の基本です」「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録はその最も基本となる資料です。それを作成していなかったのは明らかな法律違反であるとともに、国民への背信行為です」などとある。現在の菅氏に、これが「信頼される政府」の基本ではないかと問いたい。
 菅氏はさらに同記事で、「基本的な義務」である議事録を作成しないならば、「政権を担う資格がない」とまで述べている。安倍晋三政権のもとで多くの公文書を破棄、改竄してきた菅氏にもその資格がないということだ。(渡部睦美)