週刊金曜日 編集後記

1279号

▼大災害が起きた後の混乱を、日本国憲法のせいにして改憲論を唱える人たちがいる。『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(監修・百地章、明成社刊)には、「日本は憲法に『非常時のルール』が定められていない国」で、東日本大震災時の「深刻なガソリン不足」も国が業者に命令ではなくお願いしかできなかったからだとか「ガレキ処理一つとっても、憲法のしがらみがあります」などの記述がある。もちろんデタラメだが信じる人もいるだろう。緊急事態条項を憲法に書き込もうとする勢力は、人々の不安を利用するのだ。実際、政治家たちが新型肺炎を改憲議論のきっかけにしようと発言し始めた(特集内で主な発言を掲載)。
 すでに現政権の悪政によって生存権や知る権利など諸権利が脅かされているというのに、今よりさらに権力が好き勝手できる緊急事態条項など絶対に創設してはならない。いま国会がなすべきことは、この国に暮らす人々の命と生活を守る施策を打ち出すこと。年金支給年齢引き上げや改憲など議論している場合ではない。(宮本有紀)

▼本号ぶんか欄に掲載の新コーナー「映画・旧作も観たい」。緊急事態宣言の休業要請で新作の公開延期が相次ぐ中、せめても自宅で旧作を観てもらえれば、という趣旨のコーナー。好評ならコロナ禍終了後もときどき......? は未定。
 今回紹介されている『グエムル漢江の怪物』は、たまたま最近、ケーブルテレビでやっていたのを観た。ネタバレになるので詳しくは言えないが、格差社会を背景に、現在のコロナ禍に直結する差別もリアルで、息もつかせぬドラマ。さすがポン・ジュノ監督!
 とは言え、現実に旧作映画を観る場合、レンタルビデオ店などの休業も増えているため、最後は配信サービス頼み。一方で映画館の危機が伝えられるだけに、そこはかなり複雑な気持ちに──。
 そんなモヤモヤを抱えていただけに、「旧作も観たい」執筆者でもある藤田正さんが報じてくれた「ミニシアターを救え!」の色々な動き(「金曜アンテナ」)は、コロナで鬱々とした気分に陥りがちな中で、心底嬉しい記事。嗚呼、映画館に行きたい!(山村清二)

▼新作映画『精神0』の取材には、新型コロナ対策でオンライン対応に徹した想田和弘監督。対面での対談が難しい、こんな時だからこそと「文通」をお願いしてみました。熊本の伊藤比呂美さんと東京の想田さん。まだ見ぬ2人の「文通」。懐かしい響きです。懐かしい年頃です。といっても現在は電子の手紙がございます。なんとか一斉配信1日前の掲載に間に合いました。誌面にはお2人の「身のまわりにあるもの」の写真も。空気を感じていただければ。
 そして、猫好きで知られる想田さん。次号(5月15日号)からは隔週新連載、想田和弘の「猫様」が始まります。世界各地や、撮影の途中で出会った猫様たちが続々と登場予定。なかなか旅行にも出かけづらい今日この頃、どうぞご一緒に誌上猫紀行へ。
「文通」相手の伊藤比呂美さんの新刊『道行きや』。この本の素敵な装丁は本誌の書影では伝えきれません。緊急事態宣言で書店も多くが休業しています。早く店頭で多くの人が手に取れるようになることを願います。(志水邦江)

▼行きつけの美容院が緊急事態宣言を受け、「悩みに悩みましたが、このたび、しばらくお店を閉めます」という。えっ、なんで? すったもんだの末に、美容院は東京都の「基本的に休止を要請する施設」の対象にならなかったじゃない。と思っていたら、認定こども園で働く友人から、今は「本当に保育が必要な医療関係などの家庭の子どものみを保育していて、園に来るのは少人数」とのメール。そうか、美容師の子どもは預けられなくなったということか。
 医療などが「社会生活を維持する上で必要な施設」として診療を続けるのは当然だとしても、お上が職種で営業していいとか悪いとか決めるのはいかがなものか。まるで仕事に優劣をつけられているようで、いやな感じがした。
 コロナの予防と言えばマスクだが、最近いただいた手づくりマスクに、なんと柔軟剤のニオイ付きが! 除菌や抗菌効果を謳う柔軟剤もあり、ウイルス対策になると思うのだろうか? このニオイ、ホントに取れない。(吉田亮子)