週刊金曜日 編集後記

1195号

▼6月28日から7月8日頃にかけての「西日本豪雨」は、15府県で225人(警察庁7月30日付発表)もの死者を出し、避難者は1万人を超えるが、政府がこれを激甚災害指定したのは7月24日だった。この最中、安倍首相を囲んだ「赤坂自民亭」なる自民党員らの宴会が開かれ、オウム真理教教祖と幹部らの死刑が執行されるなど、安倍政権の異常さが際だった。
 自然災害対策が後手にまわる一方、第2次安倍政権以降、防衛費は増額の一途だ。本年度は過去最大の約5兆2000億円が計上されたが、消防庁予算額は約142億9000万円にすぎない。1機あたり170億円以上といわれるオスプレイより低い。消防庁は今回、国内唯一の全地形対応の特殊車両・レッドサラマンダーを出動し、注目を集めた。1台あたり約1億1000万円とされるが、予算の関係で充実していないという。防災関連費の見直しは不可欠だろう。自衛隊のあり方も"武力"以前に、防災や救援能力を高めるほうが現実的ではないか。(渡部睦美)

▼盧溝橋事件から81年の7月7日。国会前で不戦を誓う市民集会に参加した。参加者のスピーチを聞いていて、軍隊生活と戦争を描いた映画『拝啓天皇陛下様』の戦後のワンシーンを思い出した。
 渥美清演じる山田正助(山正)が、鶏を一羽手に入れてくる。不審に思った長門裕之演じる棟本博がどこから手に入れてきたか尋ねると山正は「徴発じゃ」と笑って答え、激怒した棟本と山正が喧嘩になるシーンだ。戦地(中国)と同じように振る舞い、当然棟本が喜ぶと思った山正の徴発は棟本を怒らせた。棟本の「分別」は戦地中国でのグロテスクな事実をはしなくも露呈させるのだ。
 戦争中はメインストリームだった中国戦線の話は、隠しきれない加害の影のせいか戦後社会では年を経るごとに言及されなくなり、戦争と言えば空襲、原爆、太平洋戦争のような「日本人の悲劇と被害」を語りやすい話に偏っていく。戦後社会が何から目を背けようとしているのか、いま一度考え直す必要を感じる。(原田成人)

▼直接は見ておらず、ファンのツイートで知ったのだが、7月17日放送のテレビ朝日「モーニングショー」がひどかったらしい。サンマの漁獲量減少問題について、原因は中国・台湾による乱獲であり、それを招いたのは、周杰倫(ジェイ・チョウ)の「七里香」という曲の歌詞に「秋刀魚」という言葉が出てくるせいだ――というトンデモ解説がされたとのこと。
 周杰倫は世界的な人気を誇る台湾のアーティスト。なのに番組では「中国の歌手」と紹介され、しかも「周杰倫」を日本式に「しゅうけつりん」と読まれたのにはファンあぜん。「周杰倫」には「ジェイ・チョウ」あるいは「ジョウ・ジエルン」という、全世界に通用する名前があるのに......。
 周杰倫の作品には「七里香」はじめ、日本で撮影したMVが多い。東日本大震災では多額の寄付を寄せてくれた。そうしたことにはまったく触れず、事実無根の言説で揶揄する。なんだろう、この、アジアの文化に対する上から目線は。(渡辺妙子)

▼7月28日、永山則夫さん(1949~97年)の名を冠した「第15回永山子ども基金 チャリティトーク&コンサート」が東京・早稲田奉仕園で開かれました。
 貧しい環境で育った永山さんは69年、連続射殺事件の容疑者として19歳の時に逮捕されます。獄中で本を貪り読み、生れて初めて綴ったノートは『無知の涙』として出版され、大きな反響を呼びました。獄中から小説を発表し続けますが、97年に死刑執行。「本の印税を日本と世界の貧しい子どもたちへ、特に、ペルーの貧しい子どもたちのために使ってほしい」との遺言を実行するために、死刑制度、貧困、少年犯罪、児童労働などを考えるトーク&コンサートが年1回続けられているのです。
 今年は、ペルーの働く子どもたちのドキュメンタリー映画や、ホームレスの人の社会的自立を応援する『ビッグイシュー日本版』の紹介があり、7月26日の死刑執行についても鋭い批判がありました。南米音楽の演奏も素晴らしく、堪能できました。(伊田浩之)