週刊金曜日 編集後記

1169号

▼名護市に入りあらためて実感したのが最近の政治家、特に自民党政治家のありようだ。今回の市長選挙では予定候補者である稲嶺進市長との座談会への参加を渡具知武豊予定候補が多忙を理由に断ったことが驚きをもって話題になっていた。渡具知氏は名護市議会で野党の自民党会派のトップであり、基地問題ではこれまでも市長とやりあってきた政治家。その一方で渡具知氏側はビラ戦略やSNSには余念がない。昨年の衆院選でも顔であるはずの安倍晋三・自民党総裁は選挙の表に立たず、"人気者"の政治家を選挙の顔として動かして闘った。さらには先日、ノーベル平和賞を受賞したICANのベアトリス・フィン事務局長が来日した際には、安倍首相は面会を断った。フィンは日本政府が肯定する核抑止は「幻想だ」と否定していた。堂々とひきこもって、立場の違う相手とは話をせず、幻想はばらまくという政治家が増える傾向は、民主主義政治の深刻な後退だと言えよう。(平井康嗣)

▼休日、散歩がてら電車に乗って前から気になっていた小さな本屋さんに出掛けた。「本が売れない」「本屋は危機的な状況だ」といった話がいたるところから聞こえてくるが、その店の(その町の空気に馴染んでいる)凜とした棚を目にしたとき、少しだけ「希望」を感じた。時々イベントも行なわれているようで、SNSが普及した現在、小さな店は(店主の熱意と知恵、才覚によっては)人と人をつなぐ、ある意味アナログ的な新しい出会いを生む可能性があると思う。「この店があるから、近くに引っ越してきた」なんて人も、いるかもしれない。いるといいな。
 今週号でマグナムの写真家、マット・ブラックの「貧困地図」を掲載した。米国に潜む貧困問題の深さを、各地を取材しながら浮き彫りにするフォトドキュメンタリーだ。トランプ大統領就任から1年。米国では予算不成立による政府機関の一部閉鎖を受け「自由の女神像」が公開中止に。なんか不穏だなあ。(本田政昭)

▼カヌー薬物混入事件の被害者が、加害者に対し「自白がなかったら資格停止処分を受けたまま。感謝している」と語っていたが、もし自白がなかったとしたら。
 今回の事件とは違い「権力」が作り出した殺人の冤罪被害者を描いている金聖雄監督のドキュメンタリー『獄友』が完成した。冤罪被害者5人の友情を描いたもので、『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』『袴田巖  夢の間の世の中』に次ぐシリーズ第3弾。3月に東京・ポレポレ東中野で公開されることが決まった。昨年末に開かれた完成試写会に制作協力資金の支援をしていた関係で参加した友人から「死刑や無期懲役を言い渡されていて深刻なのに泣いたり笑ったりした」という感想が送られてきた。真犯人の自白以外無実を証明することはできないのだろうか。「冤罪は司法の闇。彼らの人生から闇をあぶりだしたい」という金監督の言葉に希望を見つけたい。(柳百合子)

▼「富国強兵」に立ち返る明治維新150年なぞ、まっぴらごめんだが、今年は、マルクス生誕200年、米騒動100年、学生運動50年、リーマンショック発生10年の節目の年でもある。これら一見なんの関連性もなさそうな出来事だが、そのすべてに当てはまるキーワードが「資本主義」だ。
 私たちはいつの時代でも資本の支配から逃れることができない。働けど働けど、一向に生活は楽にならないし、いつの時代でもそれを尻目に私腹を肥やす資本家の存在がある。この格差社会と現代の新自由主義にどう向き合っていけばいいのか......。カール・マルクスの『資本論』はその難問に答えてくれている。鎌倉孝夫、佐藤優両氏がイデオロギー的解釈ではなく、客観的かつ実証的に読み解く『21世紀に『資本論』をどう生かすか』(金曜日)は今年必読の一冊であろう。2月13日(火)には、八重洲ブックセンター本店でイベントも開催。(尹史承)