週刊金曜日 編集後記

1130号

▼森友学園問題で安倍昭恵氏を証人喚問するかどうかが焦点になってきたが、安倍晋三首相は証人喚問の意味をまったく理解していないようだ。3月24日の参議院予算委員会では支離滅裂な答弁をしている。〈補助金等の不正な、いわば刑事罰に関わることをやっているかどうかでありまして、例えば私や妻はですね、そうではないわけですから、それなのに、まるで証人喚問に、例えば、私とかが出ろということは、おかしな話ではないか〉(同日の「産経ニュース」参院予算委詳報〔5〕)
 あらためて書く。国会は刑事罰を裁く機関ではない。国政に関する調査をするために〈これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる〉(憲法62条)のである。
 だが、国会自体が冒涜されているにもかかわらず、自民党は安倍首相と同じ理屈で喚問を拒否している。矜持を捨てたのか。筋が通っているのは野党だ。このままでは日本の民主主義はますますダメになっていく。(伊田浩之)

▼配布された紙を見た記者たちはギョッとしたそうだ。谷査恵子という実名はともかく、氏のメールアドレスや携帯番号まで載っていたからだ。国有地売却問題で、首相夫人付の谷氏が森友学園に送ったファクス原本のコピーのこと。
 追い詰められて、という形にしないよう野党に先んじてマスコミへリリースしようとした官邸の焦り具合が目に浮かぶ。気づいた職員が慌てて紙を回収し、個人情報を黒塗りにして配りなおした。
 その日(3月23日)の夜、首相最側近の今井尚哉秘書官は夜回りの記者たちに「谷が可哀想だ」と経済産業省時代の部下をおもんぱかってみせた。さらに......。
「自民党はイマイチだった。何がしたかったのかハッキリしない」
「葉梨(康弘)は警察出身なのに、詰めが甘いよ」
「菅(義偉)さんは『大したことねえ』って言うんだけど、おれはそう簡単にはすまんと思うよ」
 これまで何が起きても動じず、安倍政権をグイグイ引っ張ってきた人が、この弱気だ。(野中大樹)

▼3月20日に代々木公園で開催された「いのちを守れ!フクシマを忘れない さようなら原発全国集会」で中川五郎のライブを観た。素晴らしかった。メインのトークイベントは13時半からだったので、11時から行なわれた「さようなら原発ライブ」に参加した人がまだ少なかったことは残念だったが、[東京五輪招致スピーチにもとづき]作詞された「Sports For Tomorrow」(歌詞は本誌3月10日号に掲載)は、初めて聴いた人たちの胸を強く揺さぶったと思う。デモ出発前の約1万人の集会参加者全員にこの歌を聴いてほしかったなあ、と夢想する。
〈「そんなことをやっていたってどうしようもない」と周りに言われても、同じようなことをしている人が誰もいなくても、自分のしたいことをする〉。中川五郎さんがボブ・ディランから学んだという「新しくない」という新しさを僕も引き受けて、前を向いていこう。当日、本誌販売ブース前で多くの定期購読者の方に声をかけられた。元気、出ました。(本田政昭)

▼宅配最大手のヤマト運輸が再配達サービスを見直し、宅配料金の値上げに踏み切る方針であることを明らかにした。昨年末より突如として宅配業界の危機に関する話題が相次ぎ、こうした流れに乗じた価格変更ではないかとの穿った見方もここに来て散見される。ただ、私は今回の措置を支持したい。
 一昨年までの約5年間、本誌の配送を同社に委託してきたなかで、現場の過酷な労働環境に触れる機会が多々あり、それも限界に達していることは垣間見えていた。報道されている通り、「アマゾン」をはじめとしたネット通販の荷物の増加が要因のひとつであることは間違いない。しかし、物流の危機はドライバー不足と高齢化問題も含んだ複合的な問題でもある。私たち利用者も「送料無料」や「再配達サービス」を空気のように受容してきた。安くて便利はありがたく止まる処を知らないが、裏で生じた歪みもいつか弾ける。せめて荷受けの際には「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたい。(町田明穂)