週刊金曜日 編集後記

1103号

▼佐高信・本誌編集委員が連載コラム「新・政経外科」で佐藤優氏批判を2回書きました(4月22日号、8月26日号)。読者からは、佐藤氏の連載中止を求める複数の意見や、批判があったのになぜ連載が続いているのかを問う声が寄せられました。一方で、〈創価学会、公明党の民衆運動組織化の成功を評価しつつ、「平和、福祉」により近づけるような事を考えたい。金曜日の特集が欲しい。佐藤優氏、森田実氏、鶴見俊輔氏の思想を引き継ぐ人等から助言を得てほしい〉との意見も届いています。

[見解]
 本誌に登場いただいている筆者・識者の考えが、すべての面で本誌編集方針と合致していることは困難です。編集部員間で意見が分かれている論点も当然ありますから、「困難」ではなく「不可能」と言ってもよいでしょう。
 個人情報保護法や住基ネット反対の論陣を本誌が張った時には櫻井よしこ氏に何度も出ていただくなど、思想的な基盤が本誌とは異なるであろう人びとも本誌は重視してきました。国家権力と対峙するには、一致できる点において共闘することが重要だからです。
 記事には「事実」「事実をどう読み解くかの分析」「分析に基づく行動指針」などが含まれています。佐藤氏の記事には、彼にしか書けない読者に有益な事実や分析等が含まれていると判断しています。
 本誌は創刊号で〈異なる意見、異なる見解が存在することは健全な社会の証明〉〈議論を活発にしてこそ発見もある。論争する雑誌こそ、本誌がめざす大きな目標のひとつ〉と掲げており、その理念は変わっておりません。他の筆者を含め、ご意見については投書欄等を活用した論争を期待します。(編集長・平井康嗣)

▼8月末に、『未来ダイアリー』という小説を刊行しました。2012年に決定された自民党の改憲草案が憲法として実現した日本社会を想定した近未来が舞台で、著者はなんと弁護士。「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)」の内山宙さんです。法律監修が自分でできてしまう大変便利(?)な著者でした。『朝日新聞』などの紙面で紹介されたのですでに反響・注文をいただいており、「面白い、と言ってはいけないんでしょうが、読み出したら止まりませんでした」と感想をくださった方もいらっしゃいます。いえいえ、エンターテインメントとして面白く読んでいただけるように作ったのですから、嬉しいお言葉です。
 自民党草案に抱く不安をほかの人にどう伝えたらいいのか悩むという方は、この小説をお薦めいただければ、と思います。そしてこの本が、憲法について話しあうきっかけになれば、なお嬉しく存じます。また、17日には13時40分から日本教育会館で内山弁護士が登場する集会も実施いたします。ご参加ください。(宮本有紀)

▼永六輔さんは以前五輪をたかが運動会と表現した。言い得て妙だ。
 リオ五輪が閉幕。勝利至上主義の翼賛的な報道に煽動され、メダル獲得に一喜一憂する国民の姿は、永さんの目にどう映ったか......。
 五輪は、個々人やチームがその技を競う場であり、国家間の競争の場ではない。五輪憲章が明確に定めるとおり、参加選手は、国の代表でも、あなたの代表でもない。
 東京五輪開催の意義を"国威発揚"としたNHKや、閉会式を政治利用した安倍首相の暴挙は、愚の骨頂であり、論外だ。しかしそれに踊らされ、いつまでも劣等感丸出しに自国の優位性を追う私たちにこそ問題はあるまいか。普段は関心を寄せないスポーツ選手が世界大会で活躍した時だけ、国の誇りだの、勇気付けられたは、あまりに調子が良すぎるだろう。
 音楽の世界も同様。まがいものでロリ系アイドル、と評されたBABYMETALが世界進出し、今度はレッチリと共演。いずれはグラミー賞も視野に。彼女らは日本音楽の誇りでも代表でもない。ベビメタは、ベビメタだ。(尹史承)