週刊金曜日 編集後記

1063号

▼細川護熙さんは、春画展に来館する人を見ていて気づいたことがあるという。女性は老いも若きも、あっけらかんと見入っている人が多い。一方で男性、とくに年配の人はたいてい、照れなのか何なのか、絵の脇に添えられた説明文を読んでる......ようなふりをしつつ実は絵の方をチラチラ(しっかり)見ているとか。「そんな人間観察も興味深いですよ」と笑っていた。
 春画展の実現は喜ばしいことだろう。ただ、元首相という「権威のお墨付き」があればチラチラ男も安心して春画を楽しめて、そうでない「問題のある」作品は引き続き忌避され、ときに弾圧されるわけね?----そういう皮肉な視線もありうる。ろくでなし子さんがチクリと描いている通りだ。「そもそも、アブナい絵だろうがなんだろうが、『お上がヒトの表現にガタガタ口出しするんじゃね〜よ』が基本でしょ!」と知人が怒っていたが、同感。 (小長光哲郎)

▼車で取材先に向かうのに、到着までえらく苦労した経験がある。その家には「番地」がなかったのだ。なんとかたどりつくと、家の主で漁師の緒方正人さんは笑いながら言った。「人間はわかりにくいところにいるものだ」。
 かつては水俣病患者運動のリーダーだった。しかし、行政の仕組みの上にのせられ、条件(病状)を満たせば「患者」と認定され、補償金をもって「解決」とする----そのありように疑問を抱き、運動を離れた。自然界に対する人間の罪は不問に付されただけでなく、人間の存在そのものが軽くなってやいまいか、と。
 自宅のある場所は元は海だったという。だから番地はつけない。「役所には登記してくれないと困ると言われるけど、おれは困らない」。最近マイナンバーの文字をよく見かけるせいか、緒方さんの言葉をよく思い出す。 (野中大樹)

▼家族法の改正を求める二つの訴訟の上告審弁論があった4日、最高裁には傍聴希望者がつめかけた。午後の選択的夫婦別姓を求める訴訟のほうは258人が希望し、100人以上が抽選にもれたそうだ。原告を代表して意見陳述した小国香織さんは「入れなかった方がいたのは残念ですが、それくらい大きな裁判だと裁判官にもわかってもらえたのでは」とにっこり。同日夕方の報告集会には「さながら同窓会」という声があがったほど、民法改正を求め活動してきた人たちも集った。高齢の方の参加は、それだけ長く改正が実現しなかったということの証でもある。
 今回、最高裁大法廷の重い扉が開いたというより、長年降り積もった多くの人々の思いと行動が扉をこじあけたのだと実感する。ただ、まだ安心はできない。ちゃんとした違憲判決が出て、実際に法律が改正されるまで、祝杯はおあずけだ。 (宮本有紀)

▼秋ドラマ。一番は「おかしの家」。他の映画でのキレキレの犯人役のオダジョーもかっこよいけど、優しくてダメで(それでもかっこいい)役の方がやっぱり良くて、物語の舞台の駄菓子屋もその裏庭も大騒ぎしないストーリーも登場人物たちの距離感も良くて。毎週の癒しの時間をありがとう。
 同時に2作品がドラマ化された久坂部羊氏原作の「破裂」と「無痛〜診える眼〜」はまだ「無痛」しか見ていないが、さすがに面白い。あり得ない設定なのに説得力があるのは総合力の勝利?
 今期のイケメン枠は「サイレーン」の松坂桃李で埋めて過不足なし。ひさびさに朝ドラを見てしまったので、気になったけど見なかったドラマも。見なかったドラマが良すぎて後悔しませんように。あと掘り下げたいものといえば月9のヒロインの友人のBL嗜好?
(志水邦江)