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「反差別条例が泣いている」三重県が外国籍職員採用廃止を検討 田中宏一橋大学名誉教授に聞く

聞き手・まとめ/中村一成・ジャーナリスト|2026年4月7日4:45PM

弁護士有志と人権団体が開いた抗議会見。批判の声は全国に広がっている。大阪市北区で、2026年1月15日。(撮影/中山和弘)

作られた「見えなさ」

――総選挙前に高市政権が打ち出した「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」も政治劣化の表れです。外国籍住民の人権保障でなく、管理・監視、追放の強化が前面に出ている。退去強制の推進や、生活保護の見直し。「帰化」や「永住審査」の厳格化も盛り込んだ。同じ社会に生きる者の権利を蹂躙している認識がまるでない。外国籍県民の権利を歯牙にもかけない一見知事の感覚も同じでしょう。

 外国籍住民が権利の主体として「見えない」のは、国籍で差別してきたからだと思うね。「国籍」といえば、水や空気みたいに無色透明で中立的なものだと思われがちだけど、これがいかに恣意的で、あまねく「悪さ」をするか。

 そもそも憲法もそう。マッカーサー草案では権利の享有主体が「自然人」だったのが官僚の抵抗で「国民」にされた。大沼さん(大沼保昭、国際法学者)が言っていましたよ。「日本人は、憲法の基本的人権は国民の特権であることを自覚する必要がある」と。人権は普遍的だからこそ人権なのに、国民以外は社会保障や戦後補償から当然のように排除してきた。「外国籍だから」となると、それだけで説明された気になってしまう。

 外国籍公務員の重要性もそこにある。作られた「見えなさ」を変えないと。外国人参政権もそう。

 1998年10月、金大中大統領と小渕恵三首相が「日韓共同宣言」に署名。その後両首脳間で、地方参政権をやりましょうとなった。2005年6月、韓国では地方選挙権法案が通った。その秋、後に韓国国会議長になる文喜相氏とある朝食会でご一緒したんですけど、席上、文さんは言いましたよ。「ご承知の通り韓国は単一民族意識が強くて排外的だ。だから思い切って外国人の地方選挙権を導入したんです」と。私は外国人参政権なき多文化共生なんて偽物だと思っている。日本では挫折して、もはや誰も言わなくなったけどね、メディアもまるで取り上げない。

 ついでに言うと選挙で惨敗した中道改革連合ね。基になった民主と公明は最初に外国人地方選挙権付与法案を出した党ですよ。1998年10月のことです。外国人参政権は高市政権との違いを示す格好の政策だと思ったけど、誰も何も言わなかった。今の情勢だと票が逃げると思ったんでしょうけど、歴史的な視点で仕事する感覚がないんだね。

 あと外国籍公務員の存在意味はロールモデルですよ。外国籍住民が増えて2、3世が誕生している社会で、教師に憧れる子もでていますでしょ。その時大人が「お前は外国籍だから教諭にはなれない、合格しても『2級教員』の『常勤講師』どまりだよ」なんて言うんですか、格好がつかないですよ。

国際人権の場では異様

――会見で一見知事は、大半の都府県には今も国籍条項がある(だから復活しても問題ない)と強弁しました。悪戯が見つかった子どもの言い草ですよ。三重県には全国に誇れる先進的な反差別条例があるでしょ? と。

 条例が泣いてますよ。「人種等の属性を理由とする」不当な差別を禁止し、その属性に「国籍」を明記していますよ。しかも知事が1期目に成立させた条例なんだから。

 条例に基づく審議会もあって、立派な面々が並んでるけど、今回の件は諮っていない。それに三重は「人権先進県」なんでしょ? それがいまだ制限付き撤廃もしていない低レベル自治体を「手本」にして恥ずかしくないのかと。

 2018年の国連人種差別撤廃委員会の勧告では、「数世代にわたり日本に在留する韓国人・朝鮮人に対し、地方参政権及び公権力の行使又は公の意思の形成への参画にも携わる国家公務員として勤務することを認めること」と明記されました。その後、委員会は日本政府に具体的な改善措置の報告も求めています。

 血統主義の日本では、「数世代」を経ても日本国籍は得られない。旧植民地出身者も同じく遇されている運用、そして「当然の法理」とかの「法治主義」からの逸脱が、国際人権の場では異様と受け止められているのです。

 関連して言えば公務就任権や参政権を言うと「帰化すべき」という屁理屈が出るけど、今や「帰化」も厳格化すべきとか言っている。「永住資格申請は在留10年が条件なのに、日本国籍取得が5年と半分なのはおかしい」とかね。

 実は「帰化」は国籍法に「5年以上」との定めがありますが、「永住」は、入管法に「〇〇年以上」との期間の定めはない。かつては「20年以上」だったけど、いまは「10年以上」で運用されているにすぎない。「日本人にさせてください」という「可愛い外国人」は「5年」で国民にしてあげて、日本に居るのに国籍を取らずに「永住」したいという「生意気な外国人」は苛めるとの発想ですよ。

 その上、最近では、立候補者は国籍情報を公開すべきと主張する政党とか、「帰化」した人は孫の代まで公務に就けないとか憲法草案に書く政党まである。国籍取得とか国民の範囲とかは、冷静に論理的に考えなきゃいけない課題なのに、この国では逆にオドロオドロしいことになってます。

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