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ハンセン病回復者と地域で住まう選択(上) 「人生を取り戻したい」

大月えり奈・ルポライター、カメラマン、社会福祉士|2025年12月16日3:58PM

突然現れた“差別のない環境”

 父の介護と夫の看病で忙しく過ごす日々。だが48歳の時、目から鱗が落ちるようなできごとがあった。乳がんの手術のため、療養所を離れて香川医科大学(現・香川大学医学部)付属病院に2週間入院したが、「特別視されることがなく心から驚いた。医師や看護師は私を他の患者と分け隔てなく扱った。区別するとか怖がるとか、そうした感じがまったくなかった」のだ。

 できたばかりのこの病院は、当時では珍しくハンセン病への理解が進んでいた。周辺の医療機関が断る中で大島青松園に協力的だった。

 温かい記憶として残っているのは、医師が本山さんのベッドに腰掛けて話したり、看護師から、他の入院患者を励ましに行くよう頼まれたりしたことだ。

 こうした一つひとつが、心の奥底に深く響いた。

「差別を感じることがなかった。引け目を感じなくてもよいのだと、その後の私の生き方が変わった」

「私の人生大島だけじゃない」

 その後父が他界し、2001年に夫も旅立った。夫からは生前、「自分が死んだら療養所を出て自由に暮らすように」と言われていた。あの入院をきっかけに、大島で生涯を閉じたくないとの思いが募っていた。

「どうにかして社会復帰をしたい」

 あまりにも長い年月を療養所で過ごしてきた。一人暮らしができる自信はなく、かつて療養所で働いていた人に電話を掛けて老人ホームを探してもらった。だが入居できる施設は見つからなかった。「らい予防法」違憲国賠訴訟で原告勝訴が確定してからも、療養所からは社会復帰に関する案内を聞いたことがなかったという。

 もどかしい思いで歳を重ねていたが、新良田教室の同窓会に参加した時、突然道が開けた。

 社会復帰をして大阪に住んでいた友人が、「もし大阪に住むのなら力になれる」と声を掛けてくれた。その時、支援センターの存在も教えてもらった。

「そこからはもう一直線でバーッと。何がなんでも、たとえ最後だけでも一般の社会人として死にたい。死ぬ場所が療養所になることだけは絶対に嫌だった」

 すぐ支援センターに連絡を取り、職員のサポートを受けながら、まずマンスリーマンションで一人暮らしの練習をするところから始めた。「難しいと思っていたけれど、やってみたらどうってことなかった」と晴れやかに語る。約半年の準備期間を経て、72歳にしてそれまで縁もゆかりもなかった大阪で暮らし始めた。

「支援センターがあったから私は社会復帰ができた。ものすごく力になってくれた。感謝しかない」

 この地域ではハンセン病についての知識がある人が思っていた以上に多いことも、本山さんにとって大きな安心材料だった。

「ハンセン病? 知ってますよ」

 暮らし始めて数年が経ち、介護サービスを受けることになった。ケアマネジャーやヘルパー、看護師ら担当者との顔合わせの場で、勇気を出して「ハンセン病ってご存じですか」と尋ねてみた。

「すると皆さんが一斉に、はい、知ってますよと答えてくれた。なんや、もう悩むことないなと気持ちが軽くなった。これからはもう隠す必要はないのだと。今では、言っても良いとか悪いとかそんなことすら気にせず暮らせている」

 週に一度、バスでなんばや天王寺に買い物に行く。近所の花屋で見つけた色とりどりの花を部屋に飾る。少し前に冷蔵庫が壊れた時は、家電量販店ではなく商店街の電器店で選んだ。

 短歌のサークルに顔を出したり、友人たちとこの部屋で食事をしたりビールを飲んだりして過ごす。地域に根ざす喜びを心に刻みながら、一日一日を生きている。

「この先どんな厳しい暮らしになろうとも後悔することは絶対にない。逆に退所しなかったら後悔だらけの一生になっていた。心からよかったと思っている」

もやもやはみな吹き飛ばしてくれそうな風吹くJRなんば駅前   
恥でなきものを恥とし思いきてハンセン病歴隠し来たりぬ
「施設では死にたくない」のそれのみに出で来し街に老い深めいる

ハンセン病の歴史。

◆◆◆

「共生社会」――それは互いの違いを認め合い、制度の狭間や孤立といった課題を乗り越え、一人ひとりが安心して生きられる姿であるはずだ。回復者がそれぞれに望む場所で暮らし続けるためにどういった障壁を取り除くべきか。次回以降で詳しく見ていきたい。

(『週刊金曜日』2025年10月3日号)

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