1524号
2025年06月13日
▼本号で映画『それでも私は』を取り上げた。麻原彰晃の三女、松本麗華さんの姿を追うドキュメンタリーだ。麗華さんは、オウム真理教が引き起こした凶悪犯罪について受け止め切れず、せめて「父の口から(犯行の経緯を)聞いて受け入れたい」と考える。精神を病んだ麻原の治療を国に求めるが、その願いもむなしく、2018年7月に死刑は執行されてしまう。死刑執行の直後、SNS上では麗華さんに「ざまあみろ。てめえもさっさと後追いでくたばれ」などの罵詈雑言が浴びせられた。
オウムによる一連の事件とは別の保険金殺人で弟を殺された原田正治さんは映画の中で麗華さんと対談し、「(加害者の)子どもさんは自分の意思とは関係なく生まれてきた。余計に責任はない」と語りかける。その通りだろう。
事件報道に長年携わった長塚洋監督によると、理不尽な同調圧力は被害者家族にも掛かる。死刑制度の存廃について調査した際、「それを言うと私が叩かれる」と言葉を濁した遺族がいたという。「被害者家族が死刑を望まないのは許されない」。そんな意見の押し付け、同調圧力があっていいものだろうか。(平畑玄洋)
▼備蓄米をめぐる報道が連日、続いています。随意契約による政府備蓄米が小売店の店頭で発売されたのは5月31日。〈店舗では早朝から行列ができ、午前0時から並んだ人もいた〉(『毎日新聞』公式サイト)。ただ、生活や仕事に追われている人は並ぶ時間すらないでしょう。本当に困っている人に届いているかどうか心配です。
小泉進次郎農水相がもてはやされていますが、彼は2015年に自民党の農林部会長に就任しています。そのとき、農業に競争原理を導入すべきだと、「アグリカルチャー(農業)」から「アグリビジネス」を訴え、農協を厳しく批判しました。〈小泉進次郎農林部会長は(16年1月)14日、農林中央金庫について「融資のうち農業に回っている金額は0・1%しかない。農家のためにならないのならいらない」と、融資姿勢を批判した〉(『日本経済新聞』公式サイト)。農協には功罪があるでしょうが、彼の農協批判は、父親の小泉純一郎氏の日本郵政公社批判に重なります。これは危うい。
議論すべきなのは、食糧の安定供給に必要な農家をいかに支援するかでしょう。"小泉劇場"に踊らされてはなりません。(伊田浩之)
▼還暦を過ぎて涙もろくなったのか最近よく涙を流す。本を読んで泣き、痛ましい事故や事件のニュースを見ていて涙が溢れる。先日亡くなった長嶋茂雄さんの訃報に接したときも涙が頬を伝った。そういえば業務部古参の元社員、片山務さんも飲み会の席でよく泣いた。わたしたち後輩を叱咤激励するとき、理不尽な出来事に見舞われたわたしを慮るとき、酔った目に涙を浮かべて語ってくれた。彼の涙は優しさからの涙だった。
泣きたいとき、こころが折れそうなとき、元本誌発行人の北村肇さんが綴った文章を読みなおす。本質を見抜く名文家だった。お気に入りは本誌2013年8月30日号の本欄だ。
それは踏切事故で杖をついた高齢者が亡くなった事件を例に挙げ、「人」より「電車」、そして経済を優先するありように警鐘をならすもの。そして北村さんはこう結ぶ。「この国に欠けているのは、『命が何より大切』という当たり前の考えです。そして『当たり前』にこそ真実があるのです」
生前の北村さんの涙は見たことがない。でもホントは泣き虫だったのではないかと思っている。
(町田明穂)