1522号
2025年05月30日
▼私が朝日新聞記者として最初に赴任した盛岡市に、澤藤統一郎弁護士はいた。反権力・反権威で筋を曲げずに徹底して闘う人だが、発想も戦術も柔軟なところは法学部出身ではないという少数派の経歴からか。東京外大中国科を経て入学した東大では社会学を専攻しつつ中国革命の精神を学んだという。卒業間近になって「資本の走狗」も「権力の手先」もイヤだと選んだのが、のちに「天職」となる弁護士だが、仲間と始めた自主勉強会での一からのスタートで2年で司法試験に合格した強者だ。
面白い人だったから街中の自宅兼事務所にはよく遊びに行った。未熟児網膜症の被害者を救うために岩手では初の損害賠償裁判を手掛け、困難な事件を岩手県立病院側と粘り強く交渉し続けた。提訴から14年後に、県と解決金1000万円で和解している。その頃、東京社会部の記者になっていた私は、処分されてもされても「日の丸・君が代」にまつろわない教師たちの良心に寄り添う気骨の弁護士と、東京で再会できた。本号の「象徴天皇制を問う」でその後の人生に触れてほしい。(本田雅和)
▼このご時世に、「(支援者からたくさんいただくので)米を買ったことがない。家には売るほど米がある」と発言した政治家。この発言の無神経さを指摘されると、「ウケを狙った」。あんたが思う「ウケ」っていったい何ですか? あんな発言が受けると思っていること自体、おかしいのでは?
一方で、自民党は消費税減税や廃止はポピュリズムだと切り捨てました。どの口が言うんでしょうね。選挙のときに「国民に寄り添います」的なことを言って票を集めるのは、ポピュリズムではないのでしょうか。年金改革法案もどうなることやら。どうなっているんでしょうか、この国の政治家は。国民が求めている政治は何一つ行なわれません。
失言騒動だって今に始まったことではありません。何年か前にはLGBTQには「生産性がない」、さらにその何十年か前にも「子どもをつくらない女性が、年とって税金で面倒みなさいというのはおかしい」。もうヘイトでしょう。
しかしこんな人たちだって選挙で選ばれたんだと思うと、ますますカオスです。(渡辺妙子)
▼トランプ米大統領は自身の意向に従わないハーバード大学に対して助成金を凍結し、外国人研究者や留学生に対する受け入れ停止措置をとった。これは学問の自由を侵害する許されざる暴挙だが、同様のことは日本でも起きている。
2004年の国立大学法人化以降、各大学に対する運営費交付金が年々削減され、「科学研究費」が増加している。15年には「安全保障技術研究推進制度」を創設し、将来的に防衛分野に応用できる先端的研究を発掘・育成するための公募を始めた。国としては助成金は減らすが、軍事研究であれば、カネを出すということだ。
内田樹氏は、今週号掲載の山崎雅弘氏との対談で、日本学術会議への政府干渉は軍事研究への資源集中と説いた。学術会議は、先の戦争で学者らが戦争協力をした反省から生まれたものだが、現政権にとって、その存在は都合が悪い。
「貧すれば鈍する」――。内田氏は、自民党は「政治的イデオロギーの変化」で「戦争のできる国」にシフトしたわけではない。ただ財界人の金銭欲にすり寄っているだけであり、「端的にバカになった」だけとも説いている。(尹史承)