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消えた民進党の「2030年原発ゼロ」(高橋伸彰)

報道によれば、2月27日に民進党の蓮舫代表は今春の党大会における「2030年原発ゼロ」方針の表明を断念した。背景には同党の支持母体である連合の猛反発があったという。

実際、連合の神津里季生会長は本誌2月24日号のインタビューで〈最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく必要がある〉と述べたうえで、〈そこに至る道筋で雇用や国民生活に与える影響を最小化していく努力は不可欠で、その間の再稼働はありうる〉という。原発ゼロの具体的時期には触れず、旧民主党時代に定めた2030年代(2030年ではない!)でさえ連合の方針よりも「踏み込んで」いると評するのだ。

民進党のエネルギー・環境調査会が、党大会に向け策定中の「原発ゼロ基本法案(仮称)」に「2030年ゼロ」を明記する考えを示したのは2月2日。そこから連合傘下の産業別労組へ理解を求める蓮舫代表の説明行脚が始まる。だが結局、合意は得られなかった。これに対し冒頭の断念が報じられた2月28日付『朝日新聞』(名古屋本社版)には「国民や労働者の生命、健康を守らずして何が労働組合か。労組のナショナルセンターとして失格と言わざるを得ない」という読者の声が掲載された。

この声を聞き改めて思うのは、かつての公害闘争で被害住民よりも企業側に立ち、公害の実態を隠そうとした大企業労組の姿勢だ。 公害研究者の宮本憲一は、公害が発生しても企業擁護にまわった労組を批判したうえで「水俣病の初期にチッソの労働組合が患者と対立し、四日市公害裁判を四日市労働組合評議会が提起すると三菱系企業労働組合が脱退したことなどは典型である」(『戦後日本公害史論』)と述べている。

前出の神津会長が原発再稼働の理由に挙げる「雇用や国民生活への影響」も、その主語は誰かと問えば、今回の福島第一原発事故で生業や生活を奪われた被災者よりも、傘下の電力総連を中心とする大企業労組を優先しているのは明らかではないか。

確かに、経営者と一体になって生産性を高め、そこで得られた付加価値の分配と組合員の雇用確保に専念してきた大企業労組にとっては、公害や原発事故の被災者、下請けや未組織労働者、地域住民は自分たちの雇用や生活に無関係な外部者かもしれない。しかし、そうした排除の思想が市民との間に分断を生み、労働組合の組織率や発言力の低下につながってきたことを忘れてはならない。

福島第一原発事故後も再稼働を容認する連合の方針が、いかに時代遅れかは先の新潟知事選挙や世論調査の結果を見れば一目瞭然である。そんな連合の方針に抗せない民進党に政権復帰の資格はないし、また、ともに働き、ともに生きるすべての労働者と市民のために企業や職域を超えて「身体を張り身銭を切った」(熊沢誠『労働組合運動とはなにか』)運動を展開できない連合にも明日があるとは思えない。

市民の生命と健康を危険に晒してまで考慮すべきような「雇用や国民生活への影響」など、私たちが暮らす社会には存在しない。そう考えれば、原発ゼロは2030年でも遅すぎるのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。3月3日号)

国家予算が姿を消す日(浜矩子)

日本から国の予算が消えてなくなる。そんな日がひょっとすると近いかもしれない。

こう思えてしまうのは、近頃、妙な理論が巷ではやっているからだ。火付け役は、内閣官房参与の浜田宏一先生だ。彼が「シムズ理論」なるものに心酔したと宣言した。以来、何かにつけてメディアにこのシムズ理論が取り上げられるようになった。

シムズはクリストファー・シムズ氏の名字である。シムズ先生は2011年のノーベル経済学賞受賞者だ。シムズ理論は、またの名を「物価水準の財政理論」だ。これを言いかえれば、要は「意図的無責任財政の薦め」にほかならない。デフレから脱却したいなら、政府は財政赤字の解消を追求しないと宣言しなさい。赤字垂れ流し大作戦を展開することでインフレ経済化を促進しなさい。そうすれば公的債務の返済など屁の河童。簡単に返せてしまえるようになる。

政府が無責任財政宣言を行なえば、国民も増税など行なわれないと安心しますから、財布の紐も緩くなります。それどころか、将来の物価上昇を見込んで買い急ぎ行動に走るでしょう。一気にデフレ解消です。なまじ財政再建などにこだわるから、デフレ脱却の埒があかないのです。

ざっくり言えば、こういうことである。これだけでも、かなりの際物論法だ。だが、これで驚いていてはいけない。なぜなら、この無責任財政大作戦が功を奏するためには、一つ、条件がある。それは、財政と金融の一体運営である。要は、中央銀行による国債の直接引き受けを解禁するということだ。これをやらないと、いくら政府が赤字垂れ流しを敢行し続けようとしても、国債に買い手がつかなくなる恐れがある。

今の日本国政府がすでにその状態に限りなく接近しつつある。日本銀行も、市場からの国債の買い取りは何とか減らしていきたがっている。日銀の国債大量購入のおかげで、金利形成にせよ何にせよ、金融市場において一事が万事、まともに機能しなくなっているからだ。

だが、直接引き受けを解禁してしまえば、世界が変わる。金融市場から、政府も日銀も姿を消す。内々の相対取り引きで、政府は日銀からいくらでもおカネを借りることができるようになる。無責任財政の薦めを首尾よく実践するには、どうしてもこれが必要になる。

もしも金融と財政のどんぶり勘定化が実現すれば、その時をもって国の予算はわれわれの前から姿を消すだろう。中央銀行がいくらでもお小遣いをくれるなら、そのような国の政府はいちいち国家予算などと言うものを編成して国会審議にかける必要はなくなる。

時あたかも1月20日に行なわれた安倍首相の国会冒頭施政方針演説は、財政健全化に一切言及しなかった。20年度をめどに基礎的財政収支(借金返済分を除外した収支)の黒字化を目指すという文言も、施政方針の中から消えた。安倍政権下の施政方針演説において、いずれも初めてのことだ。

国家予算を雲隠れさせるための準備は、すでに始まっている。どうも、そういうことらしい。シムズ先生は、こんなことに加担させられていることをご存じか。油断も隙もあったものではない。

(はま のりこ・エコノミスト。3月3日号)

達成しても「GDP600兆円」はまやかし(佐々木実)

「GDP600兆円の達成を明確な目標として掲げたい」。安倍晋三首相がそう宣言したのは、自民党総裁に再任された2015年9月だった。期限についてはその後、東京オリンピックの頃としたので、「2020年度に名目GDP(国内総生産)600兆円の達成」が国是となった。

当初ほとんどのエコノミストが首をかしげた。というのも、14年度のGDPは約490兆円なので毎年3%台の経済成長率が必要となる。長らくGDPが低迷する日本ではこの20年ほど年率3%を達成したことなどない。誰がみても600兆円は無謀な目標設定に映った。

ところが、昨年12月に異変が起きた。突然、GDPがグッと増えたのである。16年12月8日に内閣府が発表した15年度の名目GDPの確報値は532兆2000億円。14年度は前年度比の伸びが5兆円程度なので、「急伸」と表現しても大袈裟ではない。だが、この「急伸」には特殊な事情があった。GDPの算出基準そのものを大幅に変更したのである。

従来の基準だと、15年度のGDPは約500兆円にすぎない。「基準改定」だけで31兆6000億円も跳ね上がった計算になる。この金額がいかに大きいか、「GDP600兆円の達成」のために産業競争力会議が描いた青写真を参照すればわかる。

青写真は、人工知能やロボットなどの第4次産業革命にかかわる分野で20年までに30兆円の市場創出を謳った。安倍政権はこれに匹敵する「経済成長」を「基準改定」だけですでに成し遂げてしまったわけだ。

国民経済計算は約5年に一度、基準が見直される。今回が大きな改定になったのは国際基準に対応するためで、研究開発費などがGDPに算入されることになった。こうした見直し作業は当然、「GDP600兆円」の実現性に影響を及ぼす。『日本経済新聞』は「見えた?GDP600兆円」(1月9日付)という記事で内閣府幹部の本音を「恨み節」として紹介している。

〈改善は大事だがGDPを押し上げるために統計の仕事をしているわけではない〉

安倍首相が「600兆円」を宣言した時とGDPの算出方法が違うのだから、旧基準のもとでの「600兆円」を新基準にそのままあてはめて議論するのはまやかしだ。だが、「基準改定」という奇手による600兆円の達成は現実味を帯びてきた。現在、安倍政権はさらなる大規模な統計の見直しに着手しているからだ。

昨年12月の経済財政諮問会議では、山本幸三行政改革担当大臣が関係閣僚をメンバーとする「統計改革推進会議(仮称)」の設置を提案、「政治主導により改革を推進する必要がある」と断言した。「政治主導」なら安倍首相が国是として掲げる600兆円を達成するためにGDPを跳ね上げることができるかもしれないが、それはゴールラインをこっそり手前に移動するようなものだ。

GDPの算出基準をいくらいじりまわしても、現実の経済実態が変わるわけではない。「ポスト・トゥルース(脱真実)」の時代にあっては、客観的データとされる国民経済計算を読む際も警戒を怠ることはできない。

(ささき みのる・ジャーナリスト、2月24日号)

2017年度予算案は綻びだらけ(鷲尾香一)

今国会の重要テーマの一つ、2017年度予算案には、大きな綻びがある。

一般会計の歳出額は97兆4547億円と5年連続で過去最大を更新。原資となる歳入は、税収を16年度当初予算よりも1080億円多い57兆7120億円と見込んでいる。

問題は税収見込み額だ。実は、16年度予算では円高要因から法人税収が伸び悩み、税収不足に陥った。このため、政府は16年度第3次補正予算で、税収を1兆7440億円減額修正、税収不足分は1兆7512億円の赤字国債の追加発行を決めた。

16年度予算で税収不足に陥ったにもかかわらず、17年度予算案は税収増加を前提とした。これでいいのだろうか。

金利低下と円安ドル高効果で企業収益に貢献した「アベノミクス」が、税収を見る限り“曲がり角”を迎えていることは明らかだ。そこに、日本の金融政策を「通貨安誘導」だと批判し、米国企業保護のためドル高をやり玉にあげるトランプ大統領が、文字通り、暴れはじめている。日本企業の収益力は低下するだろう。17年度の税収が16年度を上回るなどというのは「とらぬ狸の皮算用」なのだ。

綻びはまだある。国債関係だ。新規国債発行額は34兆3698億円と16年度を622億円下回り、当初予算では7年連続減少した。また、歳入に占める国債の割合を示す国債依存度は16年度の35.6%から35.3%へ低下する見込みで、財政健全化の建前は何とか取り繕った恰好だ。国債費は16年度より800億円超少ない23兆5285億円に抑制した。

だが、新規国債発行額の減少と国債費の抑制には“カラクリ”がある。

新規国債発行額の減少は、外国為替資金特別会計(以下、外為特会)の運用益を全額、一般会計の歳入に繰り入れたことで実現した。結果、歳入の「その他収入」は16年度を6871億円上回る5兆3729億円が計上されている。

一方、国債費の抑制は、日本銀行が長期金利をゼロ%程度に誘導する金融緩和を実施していることで、財務省が16年度に1.6%と想定していた国債の金利を17年度は1.1%に引き下げたことがある。つまり、金利は上昇せず、国債の利払い費が減少するという「皮算用」が働いているのだ。

しかし従来、財務省は金利の急上昇により国債の利払い財源に不足が発生しないように保守的な金利設定を行ない、国債費に余裕を持たせて予算を計上してきた。

その結果、多額の国債費の余剰が毎年度発生し、これが補正予算の財源に充当されていた。だが、17年度予算案では想定金利を引き下げたことで、国債費の余剰は望めなくなった。むしろ、金利が急上昇した場合には国債の利払い財源が不足する可能性すらある。補正予算に使えるだけの国債費の余剰が発生する可能性は潰えた。

さらに、外為特会の剰余金(いわゆる埋蔵金)も当初予算に吐き出してしまったため、補正予算には使えない。もし、年度途中に補正予算を組まなければならないような不測の事態に陥った場合、またぞろ「赤字国債」で資金調達するしかなくなったわけだ。17年度予算案は綻びだらけだ。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト、2月17日号)

「残業代ゼロ法案」に「首切り法案」(高橋伸彰)

経済3団体が共催する今年の新年祝賀会で、安倍晋三首相は「今年は働き方改革断行の年だ。正規と非正規労働者の不合理な待遇の差は認めない」と挨拶した(1月6日付『日本経済新聞』)。しかし首相の挨拶とは裏腹に『日経』が行なった働き方改革に関する調査では、非正規の処遇改善を優先課題とする企業の割合は1割未満。7割以上は、むしろ長時間労働の是正を優先課題に挙げている(1月10日付『日経』)。

そもそも非正規の処遇改善や同一労働同一賃金が働き方改革の重要課題に浮上したのは、昨年1月27日の衆議院本会議で安倍首相が「働き方改革の重要な柱が、同一労働同一賃金です。たとえば、女性では、結婚、子育てなどもあり、三十代半ば以降、みずから非正規雇用を選択している方が多い(中略)こうした方々のためにも、非正規雇用で働く方の待遇改善は不可欠です」と答弁したのが嚆矢である。これを受けて昨年3月には「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」が厚生労働省内に設置された。

同検討会の報告が出る前から、というより、出る前だからこそ安倍首相は畳むつもりもない風呂敷をところ構わず広げた。昨年6月1日の通常国会閉会時の会見では「『非正規』という言葉を日本国内から一掃する」と豪語し、同9月には外遊先で「どのような賃金差が正当じゃないと認められるのかをガイドラインを作って明らかにします」と公言したのだ。

こうした一連の発言がいかに実効性のない空虚なものだったかは、その後に公表された同検討会の中間報告やガイドライン案を見れば明らかである。

昨年12月20日に公表された中間報告では「同一労働同一賃金の考え方あるいは原則を、厳密に定義することはなかなか難しい」と断ったうえで、賃金の決定は本来「当事者である労使の決定に委ねるべきもの」と突き放し、正規と非正規の格差是正に向けて積極的に取り組むと言っていた国(政府)の姿勢は大幅に後退した。

また、非正規の一掃についても「正規・非正規という呼称格差を改め、すべて様々な雇用期間や労働時間の社員という考え方に整理されていく必要がある」と述べるだけで、非正規の呼称はなくすが、待遇は雇用期間に定めがある社員とか、労働時間が短い社員とか、あるいは勤務地や職務が限定された社員というように、社員の概念を細かく分類し、その労働に見合った処遇をすれば問題ないという。さらに中間報告と同時に公表されたガイドライン案でも、どのような賃金差がルール違反になるかよりも、どのような格差なら違反にならないかという企業寄りの事例ばかりが提示された。まさに非正規という言葉は、この国からではなく、働き方改革から一掃されてしまったのである。

非正規の一掃に代わり今国会で再び醜悪な鎌首をもたげているのが、長時間労働是正という名の「残業代ゼロ法案」と金銭解雇の合法化を図る「首切り法案」だ。

非正規をなくすと直前まで訴えながら、国会が始まると大企業が望む法案の成立に奔走するのは国民には想定外でも、安倍内閣には想定通りの流れなのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授、2月10日号)

採用と引き替えに性的関係を強要──トヨタ系列企業幹部による就活女子大生セクハラ事件(成田俊一、その3終)

脅迫めいた匿名郵便物

10月30日からの東京モーターショーでアイシングループが出展している変速機。(撮影/『週刊金曜日』編集部)

10月30日から一般公開の東京モーターショーでアイシンAWが出展している変速機。(撮影/『週刊金曜日』編集部)

筆者が豊田氏とA子さん一件を記事にしようと決めたのは、メール文面の強迫性以上に、さらに許しがたい事実を知ったからである。最終面接で落ちた2日後の8月30日の消印で、A子さん自宅の父親あてに、一通の匿名郵便物が届いている。その内容は、A子さんを誹謗中傷した上、脅迫としか言いようのない文言を並べているのだ。

この郵便物は脅迫の証拠物となるため誌面では公開しないが、わざわざ匿名で投函されたこの郵便物には、いかなる意味があるのか。A子さんが肉体関係を拒否したことと何らかの因果関係があるのか。そもそも誰が投函したのか――。いずれも目下解明中だ。

アイシンAW広報の反応もいささか奇妙である。10月20日、筆者が電話取材をすると、「それは個人のことであり、会社とは一切関係ありませんので取材は拒否します」と逃げたのだ。

大手企業の広報であれば、取材の趣旨が企業倫理を逸脱した犯罪的行為に近いと指摘されたことについて決して逃げはしないし、取材拒否もしない。大企業であればあるほど企業のコンプライアンス(法令遵守)に敏感だ。

しかも昨今は、女性の活躍が安倍政権の命題にもなっている。こんな時代状況下で、アイシンAWという会社の危機管理能力はあまりにも低俗だ。豊田氏の名前と所属ポストまで明確に指摘しても「その名前の人物は在籍はしていますが、あなたが言うその名前の人物かどうかはわからない」と、のらりくらり、かわすのだ。

そこで「写真付きの名刺があるので確認したい」と要求したが、「会社とは一切関係がありませんので取材は受けられません」と、またたく間に電話を切った。豊田氏本人にも繰り返し取材を申し込んだが、現在に至るまで一切の返答はない。

A子さんが遭遇した性的関係の執拗な要求の実態を聞いた名古屋共同弁護士事務所の中谷雄二弁護士は「それは事実であれば酷い。相手方本人とこの企業の責任を明確にする必要がある」と断言した。当然A子さんは、法的措置に向けた準備に入っている。

(なりたしゅんいち・ジャーナリスト。11月6日号=肩書き等は掲載当時)

拉致問題、消費増税で追いつめられた安倍首相──沖縄県知事選敗北、解散か

11月16日に投開票する沖縄県知事選は前那覇市長の翁長雄志氏(64歳)を現職の仲井眞弘多氏(75歳)が追う展開となっている。一方、前衆議院議員の下地幹郎氏(53歳)、元参議院議員の喜納昌吉氏(66歳)は伸び悩んでいる状況だ。

翁長撃ちに幸福実現党?

安倍政権にとって最大の懸案は、有力の翁長氏が普天間基地の辺野古移設に反対している点だ。複数の事情通によると、数カ月前から警察庁は沖縄県警に対し、翁長氏をおとす、もしくは脅せるスキャンダルがないか照会を求めていたという。しかし確たるものは出てきていない。。そこで街に出てきたのが翁長氏を誹謗中傷する怪文書と宗教団体の存在だった。本誌が確認したものだけで複数枚の怪文書がばらまかれている。

誰がまいているのか。真相を明かすのは西田健次郎元自民県連会長。同氏は今年1月の名護市長選でも辺野古移設反対派の候補をおとすべく怪文書配布を主導した。「今回も宗教団体と連携しているのですか」と尋ねると、「幸福実現党が怪文書を配布してくれている。自民党と幸福実現党が連携するのは沖縄だけだろうが」と笑って答えた。同党は宗教団体「幸福の科学」の政党である。

これについて幸福実現党の広報担当は「幸福実現党が組織的に動いている事実はありません。目下、自民党沖縄県連に抗議している最中です」と回答した。

鉄道建設というアメ

仲井眞氏の出陣式(10月30日)にかけつけた谷垣禎一自民党幹事長の横で、仲井眞氏は“巨大花火”を打ち上げた。総事業費が7000~8000億円の鉄道建設である。

「(那覇市と名護市を結ぶ)『南北縦貫鉄道』もほぼ調査が終わっております。那覇空港のもう一本の滑走路(建設)の後は、直ちにこれが立ち上がるように安倍総理に話をしております。今日は自民党の幹事長さんもお見えですから、一つ、よろしくお伝えください」

仲井眞氏の演説終了後、鉄道建設について谷垣氏に直撃すると、「しっかりとバックアップしていかないといけない」と回答。だが、辺野古移設反対派はこれに憤る。

「全国で鉄道がないのは沖縄だけ。鉄道建設は県民の悲願ですが、新基地建設容認とセットにすべき話ではないでしょう」

櫻井よしこ氏の講演

11月9日には評論家の櫻井よしこ氏も仲井眞氏の応援にかけつけ、豊見城市内で講演した。

「翁長さんを応援しているのは誰ですか。共産党じゃないですか」
「名護市には辺野古移転に反対の方(稲嶺進市長)が通りました。いま副市長は共産党なんですって。教育長も共産党なんですって」

名護市役所関係者は「事実無根です。櫻井氏の発言は公職選挙法に抵触するのではないか」と反論する。櫻井氏はさらにこう続けた。

「(普天間の移設先は)辺野古しかない。辺野古を活用して、アメリカが働きやすくし(中略)この中国の脅威の最前線に、否応なく立たされている沖縄を力強い砦にしないといけない」

安全保障の基礎知識が欠落しているのだろう。那覇市議の屋良栄作氏はこう話す。
「どうしてそういう(櫻井氏のような)発想になるのか。役割や機能を考えれば、海兵隊が沖縄に常駐する必然性はない。沖縄にあるのは、森本敏元防衛相が言ったように『政治的な理由』からです。ここにだけ基地機能を集中させ、強化することは、またも『捨て石』にしかねない発想だと思います」

本土の「捨て石」にされた沖縄戦をくりかえさぬために――これが辺野古移設反対の意思である。
(横田一・ジャーナリスト、野中大樹・本誌編集部)

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(参考、吉田調書の重要部分)

先の記事(1)~(4終)記事を補完するために、「吉田調書」の重要部分を掲載する。
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緊急対策本部の要員数は約400人

質問者 平時にいろんな仕事をされている方の中から、これは全部が全部ではなくて、本部要員というのがあらかじめ定められているということでよろしいですか。
吉田所長 はい。約400人。

「ダブルのラインで話があって」

吉田所長 撤退というのは、私が最初に言ったのは、全員撤退して身を引くということは言っていませんよ。私は残りますし、当然、操作する人間は残すけれども、最悪のことを考えて、これからいろんな政策を練ってくださいということを申し上げたのと、関係ない人関は退避させますからということを言っただけです。
質問者 恐らく、そこから伝言ゲームになると、伝言を最後に受ける菅さんからすると、ニュアンスの伝え方があると思うんですね。
吉田所長 そのときに、私は伝言障害も何のあれもないですが、清水社長が撤退させてくれと菅さんに言ったという話も聞いているんです。それは私が本店のだれかに伝えた話を清水に言った話と、私が細野さんに言った話がどうリンクしているのかわかりませんけれども、そういうダブルのラインで話があって。
質問者 もしかすると、所長のニュアンスがそのまま、所長は、結局、その後の2号機のときを見てもそうですけれども、円卓のメンバーと、運転操作に必要な人員とか、作業に必要な人員を最小限残して、そのほかは退避という考えでやられているわけですね。
吉田所長 そうです。

「本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ」

質問者 (前略)あと、一回退避していた人間たちが帰ってくるとき、聞いたあれだと、3月15日の10時か、午前中に、GMクラスの人たちは、基本的にほとんどの人たちが帰ってき始めていたと聞いていて、実際に2Fに退避した人が帰ってくる、その人にお話を伺ったんですけれども、どのクラスの人にまず帰ってこいとかいう。
吉田所長 本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。2Fに着いた後、連絡をして、まずGMクラスは帰ってきてくれという話をして、まずはGM から帰ってきてということになったわけです。
質問者 そうなんですか。そうすると、所長の頭の中では、1F周辺の線量の低いところで、例えば、バスならバスの中で。
吉田所長 今、2号機があって、2号機が一番危ないわけですね。放射能というか、放射線量。免震重要棟はその近くですから、ここから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれというつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクしているわけです。それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。いずれにしても2Fに行って、面を外してあれしたんだと思うんです。マスク外して。
質問者 最初にGMクラスを呼び戻しますね。それから、徐々に人は帰ってくるわけですけれども、それはこちらの方から、だれとだれ、悪いけれども、戻ってくれと。
吉田所長 線量レベルが高くなりましたけれども、著しくあれしているわけではないんで、作業できる人間だとか、バックアップできる人間は各班で戻してくれという形は班長に。

(編注)
■ 調書の「回答者」はわかりやすいように「吉田所長」とした。
■ 本部要員=事故対応にあたる緊急対策本部
■ 清水社長=清水正孝・東京電力社長(当時)、菅さん=菅直人首相(当時)、細野さん=細野豪志首相補佐官(当時)。
■ GM=グループマネジャー事故対応を指揮する部課長級の社員。
■ 2F=福島第二原発、1F=福島第一原発

( 伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(4終)

 他の調書の開示こそ

そして所員の9割が福島第一を留守にしていた15日午前9時、福島第一正門付近の放射線量が最高値である毎時11・93ミリシーベルトを記録する(図参照)。原子力資料情報室の伴英幸共同代表はこう話す。

「100ミリシーベルトの被曝で急性障害がでる領域ですから、とてつもなく高い数字です。2号機近くではもっと高かったでしょうし、さらに有害な中性子線の線量も上がっていたと思います」

吉田所長が、結果として〈何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った〉(吉田調書)と振り返ったのはこのためなのだ。

理由はわからないが、福島第一正門付近の放射線量は正午ごろから下がりはじめる。このため、作業に必要不可欠な要員を少しずつ呼び戻すことができ、必死の冷却作業が続いた。もし、高線量が続いていれば福島第一にとどまった吉田所長らは急性放射線障害で死にいたり、他の所員も現場に戻ることはできなかった。4号機の使用済み核燃料プールも冷却不能となり、東京からも住民の退避が必要になったかもしれない。

原発作業員はいかなる場合でも事故収束にあたれ、と主張したいわけではない。深刻な事故が起きれば、(1)指揮命令系統は混乱し所長にも把握不可能な事態が生じる、(2)大勢の作業員が命をかけなければならない状況は杞憂ではなく、命をかけたとしても事故収束の保証はない、ということである。

労働者には「逃げる権利」もある。原発の安全性を最終的に担保することは不可能であることこそ学ばねばならないのではないか。

残された謎がある。誰が所員を福島第二に移動させたのかという点である。海渡弁護士が言う。

「吉田所長は、『ダブルのラインで話があった』と言っています。私の推測では、東京電力最高幹部らは、吉田所長の指示とは別に、70人程度の要員を残し、緊急事故対策にも必要な者を含む650人を福島第二に退避させたのではないか。このように考えると吉田所長のダブルのラインという話とも符合し、前後の事態が合理的に説明できます」

にわかには信じがたい推測だが、重要な問題提起だ。木野さんは「事実解明には、政府事故調や国会事故調の作成した他の調書を公開する必要があります。吉田調書を表に出した『朝日』記者はほめられるべきで、他紙は『朝日』を叩くより更なる情報公開を求めるべきです」と強調する。
(伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

1F

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(3)

福島第一原子力発電所3号機(2011年3月21日、提供/東京電力)

福島第一原子力発電所3号機(2011年3月21日、提供/東京電力)

 所長の指示に違反

福島第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が約10キロ南の福島第二原発に行っていたのは報道されているとおりだ。「退避」が吉田所長の意に反していたことも吉田調書から明確に読み取ることができる。

〈本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。〉

〈私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。〉

吉田所長は調書で〈よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った〉とも答えている。だが、これは所員が福島第二に行ってしまったことを聞いた後の感想だ。つまり「追認」だ。最高指揮官が、部下がどこに行ったのかも知らなかったということを認めた発言だと言える。原発事故のさなかにこんなことがあっていいのだろうか。東電の指揮命令系統は機能していなかった。

原発訴訟に長年取り組んできた海渡雄一弁護士はこう分析する。

「650人の作業員の大半の者たち、とりわけ下請け作業員らに吉田所長の『必要な要員は残る』という指示は徹底されていませんでした。東電社員の指示に従って移動したという認識でしょうから、『朝日新聞』に〈所長命令に違反〉と書かれたことに違和感があったことは理解できます。しかし、吉田所長自身が『しようがないな』と言うように、所長の指示には明らかに反した状態になっていたのは間違いありません。
ただ、事故を引き起こした東京電力の経営幹部の法的責任は徹底的に追及しなければなりませんが、命がけで事故への対応に当たった下請けを含む原発従業員に対しては社会全体で深く感謝するべきです」

吉田調書によると、事故対策にあたる緊急対策本部の人員は約400人。高線量区域には長くとどまれないため、機器操作は多人数の作業員が交代で行なう必要があった。事故後、福島第一に取材で4回入ったジャーナリストの木野龍逸さんは次のように話す。

「福島第一と第二の間は約10キロとはいえ、地震で道がグズグズでしたから30分程度は移動にかかっていたようです。現場から所員がいなくなったのは事実。吉田調書で判明したことも多く、『朝日』の調査報道には大きな意味があった」

前出の海渡弁護士も「この時点で吉田所長の指揮下に残された約70人どころか、緊急対策本部要員の400人でも足りず、さらに作業員を追加して集中的な作業をしなければならない状況でした」と分析している。

東京電力のホームページによると、2号機については3月15日の午前7時20分から午前11時20分まで事故の収束作業に不可欠なデータを記録できておらず、1・3号機も同様だった。
(つづく、伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)