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採用と引き替えに性的関係を強要──トヨタ系列企業幹部による就活女子大生セクハラ事件(成田俊一、その3終)

脅迫めいた匿名郵便物

10月30日からの東京モーターショーでアイシングループが出展している変速機。(撮影/『週刊金曜日』編集部)

10月30日から一般公開の東京モーターショーでアイシンAWが出展している変速機。(撮影/『週刊金曜日』編集部)

筆者が豊田氏とA子さん一件を記事にしようと決めたのは、メール文面の強迫性以上に、さらに許しがたい事実を知ったからである。最終面接で落ちた2日後の8月30日の消印で、A子さん自宅の父親あてに、一通の匿名郵便物が届いている。その内容は、A子さんを誹謗中傷した上、脅迫としか言いようのない文言を並べているのだ。

この郵便物は脅迫の証拠物となるため誌面では公開しないが、わざわざ匿名で投函されたこの郵便物には、いかなる意味があるのか。A子さんが肉体関係を拒否したことと何らかの因果関係があるのか。そもそも誰が投函したのか――。いずれも目下解明中だ。

アイシンAW広報の反応もいささか奇妙である。10月20日、筆者が電話取材をすると、「それは個人のことであり、会社とは一切関係ありませんので取材は拒否します」と逃げたのだ。

大手企業の広報であれば、取材の趣旨が企業倫理を逸脱した犯罪的行為に近いと指摘されたことについて決して逃げはしないし、取材拒否もしない。大企業であればあるほど企業のコンプライアンス(法令遵守)に敏感だ。

しかも昨今は、女性の活躍が安倍政権の命題にもなっている。こんな時代状況下で、アイシンAWという会社の危機管理能力はあまりにも低俗だ。豊田氏の名前と所属ポストまで明確に指摘しても「その名前の人物は在籍はしていますが、あなたが言うその名前の人物かどうかはわからない」と、のらりくらり、かわすのだ。

そこで「写真付きの名刺があるので確認したい」と要求したが、「会社とは一切関係がありませんので取材は受けられません」と、またたく間に電話を切った。豊田氏本人にも繰り返し取材を申し込んだが、現在に至るまで一切の返答はない。

A子さんが遭遇した性的関係の執拗な要求の実態を聞いた名古屋共同弁護士事務所の中谷雄二弁護士は「それは事実であれば酷い。相手方本人とこの企業の責任を明確にする必要がある」と断言した。当然A子さんは、法的措置に向けた準備に入っている。

(なりたしゅんいち・ジャーナリスト。11月6日号=肩書き等は掲載当時)

拉致問題、消費増税で追いつめられた安倍首相──沖縄県知事選敗北、解散か

11月16日に投開票する沖縄県知事選は前那覇市長の翁長雄志氏(64歳)を現職の仲井眞弘多氏(75歳)が追う展開となっている。一方、前衆議院議員の下地幹郎氏(53歳)、元参議院議員の喜納昌吉氏(66歳)は伸び悩んでいる状況だ。

翁長撃ちに幸福実現党?

安倍政権にとって最大の懸案は、有力の翁長氏が普天間基地の辺野古移設に反対している点だ。複数の事情通によると、数カ月前から警察庁は沖縄県警に対し、翁長氏をおとす、もしくは脅せるスキャンダルがないか照会を求めていたという。しかし確たるものは出てきていない。。そこで街に出てきたのが翁長氏を誹謗中傷する怪文書と宗教団体の存在だった。本誌が確認したものだけで複数枚の怪文書がばらまかれている。

誰がまいているのか。真相を明かすのは西田健次郎元自民県連会長。同氏は今年1月の名護市長選でも辺野古移設反対派の候補をおとすべく怪文書配布を主導した。「今回も宗教団体と連携しているのですか」と尋ねると、「幸福実現党が怪文書を配布してくれている。自民党と幸福実現党が連携するのは沖縄だけだろうが」と笑って答えた。同党は宗教団体「幸福の科学」の政党である。

これについて幸福実現党の広報担当は「幸福実現党が組織的に動いている事実はありません。目下、自民党沖縄県連に抗議している最中です」と回答した。

鉄道建設というアメ

仲井眞氏の出陣式(10月30日)にかけつけた谷垣禎一自民党幹事長の横で、仲井眞氏は“巨大花火”を打ち上げた。総事業費が7000~8000億円の鉄道建設である。

「(那覇市と名護市を結ぶ)『南北縦貫鉄道』もほぼ調査が終わっております。那覇空港のもう一本の滑走路(建設)の後は、直ちにこれが立ち上がるように安倍総理に話をしております。今日は自民党の幹事長さんもお見えですから、一つ、よろしくお伝えください」

仲井眞氏の演説終了後、鉄道建設について谷垣氏に直撃すると、「しっかりとバックアップしていかないといけない」と回答。だが、辺野古移設反対派はこれに憤る。

「全国で鉄道がないのは沖縄だけ。鉄道建設は県民の悲願ですが、新基地建設容認とセットにすべき話ではないでしょう」

櫻井よしこ氏の講演

11月9日には評論家の櫻井よしこ氏も仲井眞氏の応援にかけつけ、豊見城市内で講演した。

「翁長さんを応援しているのは誰ですか。共産党じゃないですか」
「名護市には辺野古移転に反対の方(稲嶺進市長)が通りました。いま副市長は共産党なんですって。教育長も共産党なんですって」

名護市役所関係者は「事実無根です。櫻井氏の発言は公職選挙法に抵触するのではないか」と反論する。櫻井氏はさらにこう続けた。

「(普天間の移設先は)辺野古しかない。辺野古を活用して、アメリカが働きやすくし(中略)この中国の脅威の最前線に、否応なく立たされている沖縄を力強い砦にしないといけない」

安全保障の基礎知識が欠落しているのだろう。那覇市議の屋良栄作氏はこう話す。
「どうしてそういう(櫻井氏のような)発想になるのか。役割や機能を考えれば、海兵隊が沖縄に常駐する必然性はない。沖縄にあるのは、森本敏元防衛相が言ったように『政治的な理由』からです。ここにだけ基地機能を集中させ、強化することは、またも『捨て石』にしかねない発想だと思います」

本土の「捨て石」にされた沖縄戦をくりかえさぬために――これが辺野古移設反対の意思である。
(横田一・ジャーナリスト、野中大樹・本誌編集部)

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(参考、吉田調書の重要部分)

先の記事(1)~(4終)記事を補完するために、「吉田調書」の重要部分を掲載する。
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緊急対策本部の要員数は約400人

質問者 平時にいろんな仕事をされている方の中から、これは全部が全部ではなくて、本部要員というのがあらかじめ定められているということでよろしいですか。
吉田所長 はい。約400人。

「ダブルのラインで話があって」

吉田所長 撤退というのは、私が最初に言ったのは、全員撤退して身を引くということは言っていませんよ。私は残りますし、当然、操作する人間は残すけれども、最悪のことを考えて、これからいろんな政策を練ってくださいということを申し上げたのと、関係ない人関は退避させますからということを言っただけです。
質問者 恐らく、そこから伝言ゲームになると、伝言を最後に受ける菅さんからすると、ニュアンスの伝え方があると思うんですね。
吉田所長 そのときに、私は伝言障害も何のあれもないですが、清水社長が撤退させてくれと菅さんに言ったという話も聞いているんです。それは私が本店のだれかに伝えた話を清水に言った話と、私が細野さんに言った話がどうリンクしているのかわかりませんけれども、そういうダブルのラインで話があって。
質問者 もしかすると、所長のニュアンスがそのまま、所長は、結局、その後の2号機のときを見てもそうですけれども、円卓のメンバーと、運転操作に必要な人員とか、作業に必要な人員を最小限残して、そのほかは退避という考えでやられているわけですね。
吉田所長 そうです。

「本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ」

質問者 (前略)あと、一回退避していた人間たちが帰ってくるとき、聞いたあれだと、3月15日の10時か、午前中に、GMクラスの人たちは、基本的にほとんどの人たちが帰ってき始めていたと聞いていて、実際に2Fに退避した人が帰ってくる、その人にお話を伺ったんですけれども、どのクラスの人にまず帰ってこいとかいう。
吉田所長 本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。2Fに着いた後、連絡をして、まずGMクラスは帰ってきてくれという話をして、まずはGM から帰ってきてということになったわけです。
質問者 そうなんですか。そうすると、所長の頭の中では、1F周辺の線量の低いところで、例えば、バスならバスの中で。
吉田所長 今、2号機があって、2号機が一番危ないわけですね。放射能というか、放射線量。免震重要棟はその近くですから、ここから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれというつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクしているわけです。それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。いずれにしても2Fに行って、面を外してあれしたんだと思うんです。マスク外して。
質問者 最初にGMクラスを呼び戻しますね。それから、徐々に人は帰ってくるわけですけれども、それはこちらの方から、だれとだれ、悪いけれども、戻ってくれと。
吉田所長 線量レベルが高くなりましたけれども、著しくあれしているわけではないんで、作業できる人間だとか、バックアップできる人間は各班で戻してくれという形は班長に。

(編注)
■ 調書の「回答者」はわかりやすいように「吉田所長」とした。
■ 本部要員=事故対応にあたる緊急対策本部
■ 清水社長=清水正孝・東京電力社長(当時)、菅さん=菅直人首相(当時)、細野さん=細野豪志首相補佐官(当時)。
■ GM=グループマネジャー事故対応を指揮する部課長級の社員。
■ 2F=福島第二原発、1F=福島第一原発

( 伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(4終)

 他の調書の開示こそ

そして所員の9割が福島第一を留守にしていた15日午前9時、福島第一正門付近の放射線量が最高値である毎時11・93ミリシーベルトを記録する(図参照)。原子力資料情報室の伴英幸共同代表はこう話す。

「100ミリシーベルトの被曝で急性障害がでる領域ですから、とてつもなく高い数字です。2号機近くではもっと高かったでしょうし、さらに有害な中性子線の線量も上がっていたと思います」

吉田所長が、結果として〈何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った〉(吉田調書)と振り返ったのはこのためなのだ。

理由はわからないが、福島第一正門付近の放射線量は正午ごろから下がりはじめる。このため、作業に必要不可欠な要員を少しずつ呼び戻すことができ、必死の冷却作業が続いた。もし、高線量が続いていれば福島第一にとどまった吉田所長らは急性放射線障害で死にいたり、他の所員も現場に戻ることはできなかった。4号機の使用済み核燃料プールも冷却不能となり、東京からも住民の退避が必要になったかもしれない。

原発作業員はいかなる場合でも事故収束にあたれ、と主張したいわけではない。深刻な事故が起きれば、(1)指揮命令系統は混乱し所長にも把握不可能な事態が生じる、(2)大勢の作業員が命をかけなければならない状況は杞憂ではなく、命をかけたとしても事故収束の保証はない、ということである。

労働者には「逃げる権利」もある。原発の安全性を最終的に担保することは不可能であることこそ学ばねばならないのではないか。

残された謎がある。誰が所員を福島第二に移動させたのかという点である。海渡弁護士が言う。

「吉田所長は、『ダブルのラインで話があった』と言っています。私の推測では、東京電力最高幹部らは、吉田所長の指示とは別に、70人程度の要員を残し、緊急事故対策にも必要な者を含む650人を福島第二に退避させたのではないか。このように考えると吉田所長のダブルのラインという話とも符合し、前後の事態が合理的に説明できます」

にわかには信じがたい推測だが、重要な問題提起だ。木野さんは「事実解明には、政府事故調や国会事故調の作成した他の調書を公開する必要があります。吉田調書を表に出した『朝日』記者はほめられるべきで、他紙は『朝日』を叩くより更なる情報公開を求めるべきです」と強調する。
(伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

1F

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(3)

福島第一原子力発電所3号機(2011年3月21日、提供/東京電力)

福島第一原子力発電所3号機(2011年3月21日、提供/東京電力)

 所長の指示に違反

福島第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が約10キロ南の福島第二原発に行っていたのは報道されているとおりだ。「退避」が吉田所長の意に反していたことも吉田調書から明確に読み取ることができる。

〈本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。〉

〈私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。〉

吉田所長は調書で〈よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った〉とも答えている。だが、これは所員が福島第二に行ってしまったことを聞いた後の感想だ。つまり「追認」だ。最高指揮官が、部下がどこに行ったのかも知らなかったということを認めた発言だと言える。原発事故のさなかにこんなことがあっていいのだろうか。東電の指揮命令系統は機能していなかった。

原発訴訟に長年取り組んできた海渡雄一弁護士はこう分析する。

「650人の作業員の大半の者たち、とりわけ下請け作業員らに吉田所長の『必要な要員は残る』という指示は徹底されていませんでした。東電社員の指示に従って移動したという認識でしょうから、『朝日新聞』に〈所長命令に違反〉と書かれたことに違和感があったことは理解できます。しかし、吉田所長自身が『しようがないな』と言うように、所長の指示には明らかに反した状態になっていたのは間違いありません。
ただ、事故を引き起こした東京電力の経営幹部の法的責任は徹底的に追及しなければなりませんが、命がけで事故への対応に当たった下請けを含む原発従業員に対しては社会全体で深く感謝するべきです」

吉田調書によると、事故対策にあたる緊急対策本部の人員は約400人。高線量区域には長くとどまれないため、機器操作は多人数の作業員が交代で行なう必要があった。事故後、福島第一に取材で4回入ったジャーナリストの木野龍逸さんは次のように話す。

「福島第一と第二の間は約10キロとはいえ、地震で道がグズグズでしたから30分程度は移動にかかっていたようです。現場から所員がいなくなったのは事実。吉田調書で判明したことも多く、『朝日』の調査報道には大きな意味があった」

前出の海渡弁護士も「この時点で吉田所長の指揮下に残された約70人どころか、緊急対策本部要員の400人でも足りず、さらに作業員を追加して集中的な作業をしなければならない状況でした」と分析している。

東京電力のホームページによると、2号機については3月15日の午前7時20分から午前11時20分まで事故の収束作業に不可欠なデータを記録できておらず、1・3号機も同様だった。
(つづく、伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(2)

 東電本店の報道資料

15日午前6時すぎ、2号機で大きな衝撃音が起きた。吉田所長から政府などにあてた通報内容(異常事態連絡様式)は「対策要員の一部一時避難」「対策本部を福島第二へ移すこととし、避難」などと混乱している。

実は衝撃音後も放射線量が上昇していない(図参照)。ここがポイントだ。事故を取材してきたベテラン記者はこう語る。「放射線量が上昇していないということは、格納容器が破損したわけではない、という可能性が出てきたことを意味しています。深刻な事態でなければ、わざわざ福島第二まで所員が退避する必要はありません。だから吉田所長は現場付近でと、指示を変更したようです」

原発と東電本店を結んで対策を話し合ったテレビ会議の、この時の音声記録は「録音ミス」で残っていないとされるが、柏崎刈羽原発(新潟県)で筆記されたメモが東電内部に残されている。吉田所長が「福島第二への移動」から「現場近くでの一時待機」に判断を変えた、15日午前6時42分の記述だ。〈構内の線量の低いエリアで退避すること〉

だが、実際には所員の大半が福島第二に移動してしまった。一方、東京電力は3月15日午前8時30分過ぎから本店で開いた記者会見で、実態とは符合しない次のような発表をしている。

「午前6時14分頃、福島第一原子力発電所2号機の圧力抑制室付近で異音が発生するとともに、同室内の圧力が低下したことから、同室で何らかの異常が発生した可能性があると判断しました。今後とも、原子炉圧力容器への注水作業を全力で継続してまいりますが、同作業に直接関わりのない協力企業作業員および当社職員を一時的に同発電所の安全な場所などへ移動開始しました」

「同発電所」とは福島第一を指している。この時間はすでに所員が福島第二に到着している時間だ。東電はなぜ福島第二に所員が行ってしまったことを会見で発表しなかったのだろうか。
(つづく、伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

1F

『朝日』記事は「誤報」ではない──約650人の原発作業員の福島第二原発への退避を吉田所長は知らなかった(1)

2011年3月15日、福島第一原子力発電所4号機。(提供/東京電力)

2011年3月15日、福島第一原子力発電所4号機。(提供/東京電力)

 朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)が11月12日、東京電力福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書「吉田調書」をめぐり、『朝日新聞』が今年5月20日付朝刊で報じた記事について見解をまとめました。PRCは「報道内容に重大な誤りがあった」「公正で正確な報道姿勢に欠けた」と判断し、朝日新聞社が記事を取り消したことは「妥当」としています。
『週刊金曜日』は、この見解に強い違和感を持ちます。2014年10月10日号の特集「吉田調書と官邸」の記事を緊急ネット配信します。

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木村伊量朝日新聞社社長は吉田調書記事について、〈「命令違反で撤退」という表現を使ったため、多くの東電社員の方々がその場から逃げ出したかのような印象を与える間違った記事〉として謝罪した。だが、誤報かどうかを判断するには2011年3月15日の状況を総合的に判断する必要がある。

東日本大震災は2011年3月11日午後2時46分に発生した。福島第一原子力発電所では外部からの電力を運ぶための鉄塔が倒壊したことなどから外部電源を失ってしまう。このため、非常用交流電源(ディーゼル発電機)が起動したが、津波に襲われて発電が不可能になった。こうして原子炉は全交流電源を失い、ゆっくりとだが、確実に暴走してゆく。

東日本壊滅の危機

12日午後3時36分、1号機が水素爆発する。そして、14日午前11時1分には3号機が爆発する。

14日夜の状況について、福島第一原発の吉田昌郎所長(当時、2013年死去)はどのような危機感を抱いていたのか。吉田所長は政府事故調査・検証委員会に答えた「聴取結果書」(吉田調書)で次のように振り返っている(丸カッコ内は筆者注、以下同)。

〈2号機はだめだと思ったんです、ここで、はっきり言って。〉

〈3号機は水入れていましたでしょう。1号も水入れていましたでしょう。(2号機は)水入らないんですもの。水入らないということは、ただ溶けていくだけですから、燃料が。燃料が溶けて1200度になりますと、何も冷やさないと、圧力容器の壁抜きますから、それから、格納容器の壁もそのどろどろで抜きますから(略)。燃料分が全部外へ出てしまう。プルトニウムであれ、何であれ、今のセシウムどころの話ではないわけですよ。放射性物質が全部出て、まき散らしてしまうわけですから、我々のイメージは東日本壊滅ですよ。〉

そして、吉田所長は職員の退避を考える。吉田調書はこう伝える。

〈完全に燃料露出しているにもかかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私は本当にここだけは一番思い出したくないところです。ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだと思ったんです。/これで2号機はこのまま水が入らないでメルトして、完全に格納容器の圧力をぶち破って燃料が全部出ていってしまう。そうすると、その分の放射能が全部外にまき散らされる最悪の事故ですから。〉

〈そうすると、1号、3号の注水も停止しないといけない。これも遅かれ早かれこんな状態になる。/そうなると、結局、ここから退避しないといけない。たくさん被害者が出てしまう。勿論、放射能は、今の状態より、現段階よりも広範囲、高濃度で、まき散らす部分もありますけれども、まず、ここにいる人間が、ここというのは免震重要棟の近くにいる人間の命に関わると思っていましたから、それについて、免震重要棟のあそこで言っていますと、みんなに恐怖感与えますから、電話で武藤(武藤栄・東京電力副社長=当時)に言ったのかな。1つは、こんな状態で、非常に危ないと。操作する人間だとか、復旧の人間は必要ミニマムで置いておくけれども、それらについては退避を考えた方がいいんではないかという話はした記憶があります。〉

〈免震重要棟。そのときに、■■君(名字は黒塗り)という総務の人員を呼んで、これも密かに部屋へ呼んで、何人いるか確認しろと。協力企業の方は車で来ていらっしゃるから、(・・・)。うちの人間は何人いるか確認しろ。特に運転・補修に関係ない人間の人数を調べておけと。本部籍の人間はしようがないですけれどもね。使えるバスは何台あるか。たしか2台か3台あると思って、運転手は大丈夫か、燃料入っているか、表に待機させろと。何かあったらすぐに発進して退避できるように準備を整えろというのは、こんなところ(本店と結んだテレビ会議の記録)に出てきていませんが、指示をしています。〉

要は、事故対策ができなくなれば放射性物質を広範囲高濃度でまき散らすことになるかもしれないが、事故が進行して放射線量が高まれば被曝で死ぬため、最小限の人員を残して退避させようと考え、準備を進めていたということだ。本店主導で撤退準備が進んでいたこともテレビ会議からわかる。このように、14日夜から福島第二への退避計画が進められていた。そして、問題の15日朝を迎える。

(つづく、伊田浩之・編集部、2014年10月10日号)

検察審査会、東電元会長ら3人「起訴相当」──福島第一原発事故の責任問う

東京第五検察審査会は7月31日、東京電力の勝俣恒久元会長(74歳)ら3人を業務上過失致死傷罪で「起訴相当」と議決したと公表しました。議決は7月23日付です。

東京電力福島第一原発の事故は東電が津波対策を怠ったために起きたとして、福島県の住民や避難者でつくる「福島原発告訴団」は当初、当時の東電幹部や菅直人元首相など政府関係者ら計42人を告訴・告発していましたが、東京地検は2013年9月9日、全員を不起訴としたのです。このため、「福島原発告訴団」は同年10月、勝俣元会長ら6人に絞って審査会に審査を申し立てていました。

他に起訴相当とされたのは、武藤栄・元副社長と、武黒一郎・元副社長の2人です。小森明生元常務は不起訴不当、別の元副社長ら2人は不起訴相当としました。

「起訴相当」の議決を受けて検察が再捜査しますが、仮に再び不起訴としても、別のメンバーによる検察審査会が再び起訴相当と議決すれば強制起訴されます。

議決はA4判18ページに及ぶ詳細なものです。ここに掲載します。

検察審査会の議決書

また、福島告訴団の主張については、『これでも罪を問えないのですか!──福島原発告訴団50人の陳述書』をぜひお読みいただければと思います。

(伊田浩之・編集部)

 

【谷村智康の経済私考】“善意”を装った情報収集・解析アプリの実態――広告はプライバシーにどこまで踏み込むのか

 筆者はマイコン少年のなれの果てなので、パソコンやインターネットには少々詳しい。そのため知人などに買い替えやメンテナンスを請け負うことがある。先日は「漢字変換がおかしい。単語登録してあったはずの言葉が出てこない」というので、早速見にいった。

 確かに変換効率は悪いし、登録してあった単語が変換されない。調べてみると「バイドゥ(百度)」という中国製のかな漢字変換システムがいつのまにかインストールされていた。常識的なウイルス対策はしてあったが、「バイドゥ」はいわゆるコンピュータウイルスではなくアプリケーション。ウイルス対策をすり抜けていた。

 不都合なのは、変換した文字がいちいち中国の同社のサーバーに送られてしまうのだ。つまり、何を書いていたのかが丸わかりなのである。一部の役所のPCにこの「バイドゥ」が入り込んでいて、機密漏洩が懸念されたニュースを目にした人も多かろう。

 市井のユーザーに特段の機密があるわけではなかろう。が、削除しようとすると、萌えキャラが出てきて「お願いですから削除しないで下さい」と懇願してくる。かまわず削除すると、アンケートソフトが立ち上がり、ビジネスソフト然として「どのような点が不満でしたか」を聞いてくる。忍び込むだけでなく、削除されない工夫もされているのには、少々、驚いた。

 すべて削除してリスタートしたところ、今度は「グーグルプラス」のインストールの勧めが出てきた。このソフトはパソコンのデータを無料でインターネット上にバックアップしてくれるもので、パソコンが壊れた際にもデータを復旧できるのだが、無償なのには裏がある。テキストはもちろん画像データすら解析される。数百枚の写真を幾億人かのユーザーがバックアップとして登録すると、その写真の中から、同一人物を探し出して、誰がどこにいて、どういう交友関係であるかがわかるしくみである。

 同様のシステムがJR大阪駅の監視カメラに導入され、人物特定をしようとした(反対の声があがり今のところ頓挫している)ところからもわかるように、これは被害妄想でもSFでもない。「バイドゥ」の思惑はわからないが、「グーグルプラス」は広告の精度を上げるために情報を収集・解析している。商業ベースで稼働しているのである。

 こうした「スパイウェア」はいわゆるコンピュータウイルスではない。通常のセキュリティソフトでは侵入を防ぐことができないのだ。むしろ “善意”を装ってインストールを勧めてくる。無償で、出来映えもいい。グーグルが提供するかな漢字変換システムは、インターネット上の膨大なテキストに基づいて稼働するので、とりわけ固有名詞の変換には強い。『週間金曜日』といったミスタイプはまず起きない。使いようによっては市販のソフトよりも便利である。ただし、プライバシーを代償として。

 自衛するにはけっこうな知識が要る。と考えるより、個人情報を収集してまわるソフトを、善意を装って、こっそりと導入させるのが社会的公正に照らしてどうなのか、と考えるほうが筋だろう。「バイドゥ」が問題になったように、無償ソフトと広告のあり方の社会的合意が求められているのではないか。

(たにむら ともやす・マーケティングプランナー、2014年4月4日号)

新・買ってはいけない(195)――効きそうで効かない。かえって毒になる「花粉症予防グッズ」

花粉症の季節となって、つらい思いをしている人が多いと思いますが、そんな人たちを対象にした花粉症予防グッズが、ドラッグストアなどで売られています。鼻の中や外側に塗って花粉の侵入を防ぐもの、マスクにスプレーして花粉を寄せつけないものなどが主です。しかしいずれも効果はほとんど期待できず、成分が鼻粘膜などにおよぼす悪影響が心配されるのです。(渡辺雄二)

薬事法違反スレスレの宣伝文句

 アース製薬「花粉ハウスダスト ガードEX」には、いくつもの問題があります。パッケージには「効きめを実感!」「鼻の中にぬるから効く!」「マスクがいらない」など、マスクを付けなくても花粉の侵入を防いで花粉症を防ぐかのような表現がありますが、薬事法に違反している可能性があります。

 同法の第68条では、医薬品の承認を受けていない製品について、効能や効果を表示することを禁止しています。この製品は単なる雑貨であり、医薬品の承認を受けていません。したがって、「効きめを実感!」「鼻の中にぬるから効く!」などの効果を表す言葉は、この条文に違反している可能性が高いのです。

 もし「花粉症に効く」という表現であれば、明らかに違反となり、指導や製品回収の対象になるでしょう。「花粉症」という言葉がないので、行政もそうした措置をとっていないと考えられますが、「花粉ハウスダスト」という大きな文字があるので、実質的には「花粉症に効く」とうたっているのと同じです。このように薬事法に違反している可能性が高く、消費者に誤解を与えるような製品に対しては、行政はもっと厳しい態度で臨むべきでしょう。

 次に成分の「精製長鎖炭化水素」ですが、これは類別名であり、具体名ではありません。ですから、どんな物質なのかわからず、安全なのかもわかりません。炭化水素は、炭素と水素が結合した化合物で、「長鎖」ということなので、それが鎖状に長く連なった化学物質ということですが、炭化水素の中には毒性の強いものもあります。 

 この製品は、成分の精製長鎖炭化水素を鼻腔の粘膜に塗るというものです。したがって、それが粘膜を刺激することがないのか、また、呼吸によって肺の中に入った場合、悪影響をおよぼすことはないのか、懸念されます。

むしろ有害成分を取り込んでしまう

 さらに、もう一つ問題があります。それは、本当に効果があるのか、という点です。使い方は、中身を綿棒か指先にとり、鼻の穴(入口から1㎝くらいまで)に塗るというものです。すると、成分が保護被膜を作り、花粉の侵入を防ぐといいます。

 しかし、保護被膜ができたとしても、鼻の入り口から1㎝くらいにすぎません。花粉は呼吸とともに、鼻腔の奥にまで入って粘膜に付着します。ですから、花粉の侵入を防げたとしても、ごく一部にすぎないのです。この製品は1080円ですが、効果がほとんどなければ、お金をどぶに捨てるようなものです。

 フマキラーの「アレルシャット花粉 鼻でブロック」も、「花粉ハウスダスト ガードEX」と同様に鼻の穴に塗る製品で、成分も同じく精製長鎖炭化水素です。表示も、「マスクがいらない」「効きめが違う!」「鼻の中に塗るから効く!」「高純度成分が花粉をしっかりブロック!」など、花粉症を防ぐことをうたっており、同じ問題があります。

「ロートアルガード 花粉侵入防止ジェル」(ロート製薬)は、鼻の穴の中にではなく、鼻のまわりに薄く塗り広げるというものです。すると、成分の水溶性陰電荷ポリマーが、「イオンバリア」を作って花粉の侵入を防止し、また、キトサン誘導体が接近した花粉を取り囲んで、鼻腔内の粘膜に接触するのを抑制するといいます。 

 しかし、これでは花粉の侵入を防ぐことはほとんど不可能です。前述のように花粉は呼吸とともに鼻の穴から入ってきます。ですから、いくら鼻の周囲に成分を塗っても、ほとんど効果はないと考えられます。価格は1180円です。

 最後に「クリスタルヴェール マスク防菌24」(エーザイ)ですが、テレビCMが流れている製品なので、知っている方も多いと思います。しかし、まったく意味のない製品です。マスクの内側と外側に成分をスプレーすると、花粉などの付着を防ぐといいますが、現在の不織布でできたマスクは、花粉を通しません。ですから、付着しても何も問題はないのです。むしろ、成分のエトキシシラン系化合物は、咳やめまい、頭痛、咽頭痛などを起こすことがあるので、要注意です。

 結局、いずれの製品も効果はほとんど期待できません。こんな製品は断固拒否しましょう。

(わたなべ ゆうじ・科学ジャーナリスト、2014年3月28日号)

※この連載は、小社刊『買ってはいけない』シリーズとして随時発刊しています。