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賃下げ社会の崖を示す 二つの関生事件判決

竹信 三恵子|2023年3月24日2:52PM

3月6日の無罪判決をうけて。(提供/関生支部)

連載 「働く」からいまを見つめる(11)

 日本は、先進国の中で唯一賃金が上がらない「賃下げ社会」になった。その解決を考えるヒントとなる二つの対照的な判決が、3月上旬、相次いで出された。詳しくは本誌30~31ページ掲載のTansaによる記事を参照していただきたいが、二つはいずれも生コン業界の産業別労組「全日建関西地区生コン支部」(関生支部)への大規模な弾圧事件の裁判での判決だ。

法令違反の指摘が実刑に

 このうち、2日の「滋賀コンプライアンス事件」をめぐる大津地裁判決は衝撃だった。

 コンプライアンス(法令遵守)活動とは、労働環境改善のため労組が現場を回って監視する国際的な労組活動だ。関生支部の組合員らは滋賀県内の工事現場などに出向き、建設資材を吊り上げて移動するクレーンが転倒しかねない安全の手抜き、ダンプカーのタイヤが摩耗していて重大な交通事故を招きかねない状況など法令違反の是正を求め、違法行為を批判するビラも街頭で配布した。

 これらについて、全員が「威力業務妨害」「恐喝」などで有罪とされ、委員長は労働事件として異例の「懲役4年の実刑」となった。

 懲役3年以上の罪といえば、通貨偽造、身の代金誘拐などだ。4年となるとよほど悪質な暴行・傷害でも引き起こしたのかと疑いたくなる。だが、判決文では「声を荒げることこそなかった」「行政職員を呼んで確認させる」と、その平穏ぶりを認めている。それでは何が問題だったのか。

「威力業務妨害」とされたのは、組合員らが会社の法令違反を追及して現場責任者の「対応を余儀なく」させ、業務を中断した行為などについてだ。会社側の法令違反は「軽微」として不問に付され、組合側が行政職員や警察を呼んで指導を求めたことまでが、中断を長引かせる作戦とされた。

 また、「要求に応じなければ更なる攻撃を示唆」して怖がらせたことが「恐喝」にあたるとされた。「示唆」しているかどうかは相手の主観が大きい。どれも、会社の違法行為を多少でもとがめた経験がある人には恐怖の判断だ。

「実刑」となった委員長は、現場にも行っていない。だが、事件当時コンプライアンス活動を進める労組の副委員長として「主導的な立場」にあり、「具体的に指示」していたことが「共謀」とされた。

 労組幹部が活動を指示することが共謀とされては、労組は成り立たない。しかも労働組合法は、ストが「営業妨害」などとされることを防ぐため、目的が正当な労組の活動は刑事罰に問わないと規定している。「労働三権の保障」だ。それならなぜ、有罪なのか。

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