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ハンセン病回復者と地域で住まう選択(下) 「隠さなければ生きられない」社会の壁は今も

大月えり奈・ルポライター、カメラマン、社会福祉士|2025年12月16日4:23PM

「病歴を隠し続ける苦しみ」が限界に達し、地域で暮らすハンセン病回復者が療養所に戻るケースが後を絶たない。その根底にあるのは強制隔離政策が及ぼした差別の記憶と社会的孤立だ。今求められる支援は――。

二つの療養所(長島愛生園・邑久光明園)がある長島と本州を結ぶ「邑久長島大橋」。隔離が必要でなくなった証しとして人間回復の橋と呼ばれている。入所者の運動により1988年に開通。(撮影/大月えり奈)
邑久長島大橋、長島愛生園、邑久光明園の地図。

「私たち全員に〝心の被害〟がある。病歴を隠さなければ生きられず、病院であっても自分から言えないほどだ。こんな世の中になったのは私たちのせいではない。一般の市民と同じ生活ができる社会にしてほしい」――平良仁雄さん(沖縄ハンセン病回復者の会共同代表)は訴える。

 国の誤った隔離政策で、強制的に地域社会から切り離されたハンセン病回復者たち。負の歴史がもたらした被害は尾を引き、いまだに自由に生活を選び取れない現実がある。

 ハンセン病とは「らい菌」という感染力の極めて弱い菌による病気で、遺伝病ではない。主に皮膚や末梢神経が影響を受け、顔や手足など見た目に分かる部分が変形する後遺症が生じる場合もあった。現在の日本では感染や発病はほぼない。

 日本では1931年の「癩予防法」で徹底した強制隔離政策が始まり、同法を継ぐ「らい予防法」が96年まで続けられた。2001年、熊本地裁が隔離政策を違憲とする判決を下し、国は控訴を断念した。だがそれから20年以上が経っても、差別の記憶が残ったままの人が多い。

 昨年、厚生労働省がハンセン病問題について市民を対象に実施した意識調査(18歳以上79歳以下の市民3000人が対象。有効回答数1211人)では、「ホテルなどで同じ浴場を利用すること」「(回復者)の家族とあなたの家族が結婚すること」に抵抗を感じると回答した人がそれぞれ2割弱いた。差別が払拭されていない実態が浮かび上がる。

邑久光明園の青木美憲園長。地域社会で暮らす回復者を取り巻く問題と、療養所を社会から孤立させない取り組みに力を注ぐ。(撮影/大月えり奈)

再入所の背景に社会での生きづらさ

 療養所の外で暮らす回復者には「退所者給与金」と「非入所者給与金」(合わせて「給与金」)が支給される制度がある。25年5月1日時点での全国の受給者は、退所者給与金が772人、非入所者給与金が75人だ。

 ただ各地の療養所や支援機関に話を聞くと、実際に地域で暮らす回復者はこの人数より多いことが推測される。給与金を受給する際の郵便物で周囲に病歴が発覚するのを恐れ、申請できない人もいるという。

 こうした中、地域での生活をやめ、療養所に再入所をする人が相当数に上ることが分かっている。厚労省の調査では、1996年から2021年までの間に治療などの一時的な入所を除いた「長期生活のための入所者」は254人(再入所244人、新規入所10人)だった。理由について約7割が「体が不自由になった」ことを挙げ、「頼る人がいない」「病歴を隠しながらの医療や介護サービスに不安」が続いた。

 邑久光明園(岡山県)の青木美憲園長は、こうした背景には隔離政策による社会での生きづらさがあると見ている。「体が不自由になったからというのは表面的な理由にすぎず、それだけであれば一般社会でも生活はできるはずだ。家族関係が壊され、孤独な環境にいる人が多いのだろう。理由を聞き取り、記録として残し、不本意な再入所をせずにすむ方策が必要だ」

 同園にこれまで治療目的以外で再入所をした人たちは、「病歴を隠し通す生活に疲れ果てた」「家族や地域の人に病歴を隠しており、療養所に入ることも秘密にしたままだ」「再入所に当たり初めて家族に打ち明けた」などの事情を抱えていた。

「再入所をすると皆〝ホッとした〟と話すが、住み慣れた場所を離れて失うものもあるだろう。この問題は社会が変われば全然違ってくるはずだ」(青木園長)

支援にみられる地域格差

「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」には、回復者が地域社会で孤立せずに生活できる基盤整備が喫緊の課題だとし、国や地方公共団体の責務が記されている。しかし専門の相談機関を備えているのは大阪や熊本など一部にとどまる。

 このうち大阪府が委託する「ハンセン病回復者支援センター」(支援センター)は全国的にも手厚いサポートを行なっている。療養所の入所者が社会復帰を希望する際、丁寧な面談を重ねてその人の状況に沿った地域移行と定着を支援する。また地域で暮らす回復者を訪問して生活全般の困り事を把握し、通院に同行したり親族との話し合いに同席するほか、身寄りのない人の葬儀の手配や納骨をすることもある。

 ここにはどのような人が相談を寄せるのか。ある90代の退所者は、自宅で何度倒れても「病歴を明かしたくない」と病院に行けず、高齢者支援の窓口である地域包括支援センターも利用できなかった。また強制堕胎の経験がある80代の退所者は、夫は断種手術を受けており子どもがいない。これ以上多くの人に病歴を知らせたくないと、地域の高齢者施設ではなく療養所に戻った。ほかにも、結婚している息子が離婚に至ることを懸念し、自らの病歴を伝えていない人もいるという。

 支援センターの24年度の相談件数は対面が延べ253件(回復者15人、家族5人)、電話相談が延べ239件(回復者30人、家族27人)に上った。人手が限られ、嘱託職員5人で対応している。予算の事情で正規職員の雇用は難しいという。コーディネーターの加藤めぐみさんは、「ハンセン病問題を解決したいという熱意のある人が入っても、給与面で続けられない実情がある」という。

 また、府外からの相談を他の自治体にスムーズにつなげられないこともあるという。

「各都道府県が回復者支援の重要性を自覚し、主体的に取り組むことが求められる。互いに連携して継続的なサポートに結びつけることが必要」

 国の補助などで各相談機関を支援しつつ、点を線にするネットワークの構築が急がれる。

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