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非暴力による防衛は可能か ジーン・シャープを現代に生かす
想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2025年10月16日2:47PM
3・5%の運動の力
僕は想像する。
他国が日本に侵略してきたときに、武力で応戦しなければ、日本の国土や政府機関、国会などは易々と占領されるだろう。国境線を守ることはできない。
しかしそのとき日本の総理大臣が全日本国民に「市民的防衛」を呼びかけ、政治家、官僚、軍隊、警察、企業、労働者も含めたすべての人々が一致団結して、侵略者に対して不服従と非協力を徹底したらどうなるだろうか? そしてシャープが非暴力の武器として掲げる198の方法を戦略的・計画的に実行したらどうなるだろうか?
総理大臣が積極的にこの方法を採用し、協力と団結を呼びかけるなら、日本政府はそのまま並行政府として機能するだろう。侵略者は効果的に日本を占領・統治するために、日本にある既存の立法機関や司法機関、警察、官僚組織などを利用しようとするだろうが、その利用を集団的に拒むのだ。それは非常に効果的な戦略なのではないか?
侵略者がなぜ他国を侵略するのかといえば、政治的・経済的・軍事的な果実を期待するからである。しかし国民総出の非暴力抵抗により、コストばかりが膨らんで果実を得られないとなれば、撤退を余儀なくされるはずだ。
もちろん、非暴力抵抗を行なえば、占領者に投獄されたり処刑されたりする人も出るだろう。しかしシャープが指摘するように、暴力で対抗するよりも、はるかに犠牲を低く抑えられることは間違いない。
重要なのは、冒頭にも書いた通り、一般的なイメージに反して、実は武力による抵抗よりも、非暴力抵抗の方が成功の確率が高いということだ。
米国の政治学者エリカ・チェノウェスとマリア・ステファンは、1900年から2006年までに起きた323件の革命・抵抗運動の事例を分析した。その結果、非暴力抵抗の成功率が53%に及んだのに対して、暴力抵抗の成功率は26%にすぎなかった(チェノウェス&ステファン著『Why Civil Resistance Works』、未邦訳)。
また、膨大な事例を分析した結果、チェノウェスは「3・5パーセント・ルール」というものも発見した。「運動の観察可能な出来事の絶頂期に全人口の3・5%が積極的に参加している場合、革命運動は失敗しない」(『市民的抵抗』(エリカ・チェノウェス著、小林綾子訳、白水社)という、驚くべき仮説である。
日本の人口を1億2000万人とすると、その3・5%は420万人である。つまり420万人が非暴力抵抗運動に積極的に参加するならば、過去の事例に照らしたときに、おそらく成功するだろうというわけだ。
この420万人という数字を、皆さんはどう考えるだろうか? 「そんなに少数でも成功?」と驚くだろうか? それとも「権力や権威に従順な人が多い日本で、そんなにも大勢の人々を動員するのは到底無理だ」と失笑するだろうか?
いずれにせよ、非暴力抵抗運動の成功率は、暴力による抵抗運動の成功率よりも、2倍も高い。その事実に鑑みれば、内閣府の世論調査に「侵略した外国に対して、武力によらない抵抗をする」と答えた17%の人々は、自衛隊による武力抵抗を支持・支援する人よりも、合理的な思考をしていると言えるのではないか。
戦後の日本が採用してきた外交・安全保障戦略の要諦は、「米国に従うこと」と要約できる。従ってさえいれば、在日米軍と核の傘に守られる。それが日本の生存戦略であり、方程式だった。
しかし、第2次トランプ政権の成立で、それはもはや通用しなくなったと言える。そのため、米国に頼らずとも自力で国が守れるように軍備を増強し、ついでに核を持つべきだ、などという声が大きくなりつつある。
だが、力だけが支配する世界では、力が強い方が勝つ。日本がそういう競争に乗り出しても勝てるとは思えないし、一時的に勝てたとしても、いつかは負けるのが物事の道理である。それに軍事力には軍事力、では戦争は決してなくならない。
僕は非暴力抵抗と市民的防衛にこそ可能性と希望を感じる。成功率が武力抵抗よりも2倍も高いのであれば、それを選ばぬ合理的な理由とは、いったい何であろうか?
平和主義を国是とする私たちは、応戦でも、屈服でもない、第三の道こそを研究し訓練すべきであろう。
(『週刊金曜日』2025年8月22日号)
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