考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

参院選直前!緊急対談 中村文則×雨宮処凛 「リベラル」はなぜ嫌われるのか

2025年7月2日5:20PM

男の呪いを解くことで

中村 今回のテーマとの関連で、雨宮さんの『「女子」という呪い』も面白く読ませていただきました。女性であるだけで社会の中で辛い思いをする、女子という呪いはずっと深刻な問題。一方、男子という呪いもあるじゃないですか。でも男側でそう主張するのはミソジニー系(女性嫌悪・女性蔑視)の人たちなんですよね。リベラルの人が、男子の生きづらさも語るといいと思います。

 僕は小説で男性の性的な存在としての苦しみをよく書きます。分析して説明するというより、実体感のある言葉が必要というか。

雨宮 そういう意味ではリベラルの中には人間らしさを出さない人が多い気がします。特に男性だと自分を語る言葉すらなく天下国家を語る言葉しか持ってない。「正しいこと」しか言わない人の話はなかなか届かない。これはちょっと恐ろしいことかもしれない。

中村 結局、女子という呪いがなくなると、男子も楽になる。逆もそう言えると思うんです。

 男子という呪い、いろいろありますが、まず稼がないとダメという社会からの圧力。ルッキズムもあって、女性は男性からのルッキズムに晒されますが、男性も女性からのルッキズムに晒される。中高生の時は、運動部に入らないと終わりだったりもする(笑)。

雨宮 時代的に非ヤンキーと運動部じゃない人は終わり(笑)。

中村 学生時代は、男子内の階層は、ほぼ女子からの人気で決まる。好きな人が小学校の時にバスケ部だったから、運動嫌いだったけど僕も中学でバスケ部に入ったら、その子は剣道部に行っていた(笑)。バスケ部はヤンキーがいっぱいいて、ああ、終わったと(笑)。表現規制の問題も、女性を性的に描くな、という主張があって、あれもリベラル嫌いな人からは評判が悪いんですよね。男性からすると、男性もイケメンや高身長や筋肉質に描かれてるやん、と感じるんだと思う。女性の方が大変ですが、男性もなかなか大変で。リベラル側も男性の苦しみ、弱さを語った方が親しみも湧くと思う。

雨宮 私たちより上の世代のリベラル男性からそういう等身大の苦しみって聞いたことがないですね。そこには男の沽券やメンツ問題と通底する何かがありそう。リベラル男性は自分の恥や黒歴史を開示すると一気に親しみを持ってもらえるかも。人を動かすのは正しさより共感ですから。

「社会がやばいから」

雨宮 中村さんはいつからリベラルなんですか?

中村 多分高校1年の時からです、本を読んでたので……。小説は個人の内面を見るじゃないですか。だから人を外側から判断して、あいつは何々人だから、みたいに思わなくなる。それにもともと集団が苦手です。お国のために団結とか、居心地が悪い。小説で、人間の集団心理の怖さなども知れますので、自然とリベラルな感覚になったんですよね。

雨宮 私は小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言』が初政治体験で、その流れで『戦争論』も読んで一時は右翼にいました。中村さんは高校生から一貫して基本、リベラル系のものには賛成ですか。

中村 そうですね。でも厳し過ぎるものに対しては、人間はそこまで強くない、と思います。あと政治家は基本信用できないと思っていたので、実は選挙には行ってませんでした。行くようになったのは、小泉純一郎氏が首相になってからです。僕はあの人が信用できなくて、日本がまずい方向に行くと感じたんですね。本格的に政治的発言をするようになったのは、第1次安倍政権から。でも政権批判をすると、ろくなことがない(笑)。損することしかない。

雨宮 それなのにどうして?

中村 社会がやばいからですよ。雨宮さんは……。

雨宮 私も同じです。

中村 雨宮さんは偉そうな感じがないです。机上の話ではなくフィールドワークから構築されたもので、地面に明確に立つ活動ですからね。

雨宮 貧困問題の現場は右も左も関係ないですからね。あと、もともと「自分が正しい」と思ったことがないというか、「自分が正しい」と思ってる人を警戒してる。私の周りにはリベラル嫌いの人が多いのですが、リベラルに「高学歴エリート」や「不寛容でなんでも取り締まるPTA」、あるいはクレーマーみたいなイメージを持っている。ちなみに私は元右翼ですが、時々右翼に比べてリベラルの人たちに「冷たさ」を感じます。たとえば最近はSNSでリベラルの人同士が揉めてたりしますが、私がいた右翼だったらまずは誰かが両者のもとに一升瓶を持って駆けつけて仲直りさせる。でもリベラルにはそういう人はあまり見当たらない。自立した個人であることに対してすごく自己責任的というか、人間関係より思想の「正しさ」が重要視される感じがします。一方、私がいた界隈の右翼は思想云々よりもまず人間関係というスタンスでした。そういう意味では、失敗や間違いに寛容というか。リベラルは、一度のあやまちで一生糾弾されそう。

中村 ああ、確かに……。そういえば悪い例ですけど、安倍晋三さんの周りって、安倍さんを支持する限り助けられますもんね。

国民民主も使うあの手

中村 最初に雨宮さんがおっしゃったように、フェーズは変わってる。スマホなどの光る画面は、テレビとかゲームもそうなんですが、前頭葉の活動を抑制的にするといわれてる。だから人々は煽動されやすくなるんですよね。ナチスも集会で光を多用していた。いまは光る画面のYouTubeなどで映像をガンガン流す。影響を受けないほうが難しい。

 でもたとえばNHK党の立花孝志氏などに煽られる形で、たくさんの人が元県議(後に自殺)を誹謗中傷したじゃないですか。ああいう恐ろしい現象を映像で報道するのは、逆に意味があるかもしれない。今、社会がどんな酷い状態にあるか知ることができる。

雨宮 そうですね。これ以上の死者が出てほしくないと危機感を持ってる人は多いですよね。

中村 危機感を覚えた人たちを掘り起こすのが、参院選では大事ですね。この流れやばくない?って。

雨宮 同感です。ただ、光る画面でいうと、私もTik Tokにハマってるので、もう長い動画やテンポの悪い動画は見られない。先に結論を言わない動画も0・1秒でスワイプです。見るのはひたすら目に楽しくて脳から快楽物質が出るK-POPとか美容モノばかり。そういう動画ばかり見ている私のTik Tokには既成政党が出てくることはないけれど、石丸伸二さんや齋藤元彦兵庫県知事は出てくる。そうやって無関心層に広まっている背景には、動画で収益を得る人たちの存在があるのでしょう。石丸、齋藤陣営の選挙と既成の政党の選挙とは、やってることが端からは同じに見えても全く違います。かたやスマホの向こうに膨大な人々がいて脳汁競争をしてる。

中村 しかも候補者同士の戦いじゃないですよね。たとえば既得権益vs.改革派。vs.(ヴァーサス=対)という社会的動物としての情念を刺激するものに、人々が熱狂すると小泉政権あたりから気づいたんでしょうね。国民民主も齋藤さんも石丸さんも、そこの部分は共通しています。

 政権交代があった時、自民党は、批判票が全部民主党に行くとまずい、保守系批判票の受け皿があれば、自分らの分も減るけど票が割れて政権交代は避けられる、と気づいたんでしょうね。その受け皿としか思えない日本維新の会が低迷したので、誰かが今度は国民民主党に「知恵」をつけたんじゃないでしょうか。高齢者vs.若者、と敵対関係をつくれば盛り上がると。

雨宮 何かと現役世代のルサンチマンに働きかけますよね。

中村 かりに立憲民主が票を伸ばしても、トップが野田佳彦さんなので自民党と変わらない。立憲から野田さんたちを追い出して、共産やれいわ新選組、社会民主と組む流れになれば希望はありますけど。

雨宮 それはいいですね。立憲の若手に期待したいです。一方で選挙前の今不安なのは、誹謗中傷やデマによる死者がまた出るのではということ。

中村 立花さんは次の攻撃対象も口にしています。

雨宮 もう地獄ですよね……。

中村 参院選、どうしたらいいとか展望ありますか。

雨宮 私は本誌で以前、選挙に使える技が満載の本としてゴールデンボンバーの鬼龍院翔氏が書いた『超!簡単なステージ論』(リットーミュージック)を紹介しました。彼はこの本で「いい曲を作ったら売れるほど甘い世界じゃない」と強調し、売れるには「共感」と「愛着」が大切だと書いています。また、「愛嬌」と「清潔感」も不可欠だと。私が取材した時にはそれにプラスして「滑舌」とも。自己紹介が重要だとか、ここに至るまでのストーリーをエモく語る重要性とかにも触れています。これをリベラルに当てはめると、「良い政策だから(票を)入れろ」じゃ全然足りない。

中村 政策は当然として、プラスアルファですね。

雨宮 話を聞いてもらうためには、まず足を止めさせる、スマホ画面でスワイプさせないような仕掛けが必要。

中村 齋藤氏や石丸氏は、外見にもかなり気をつかってる。

雨宮 すべては見せ方の時代になっている。それに石丸さん、政策の話はなかったですよね。

中村 恐ろしい時代です。

中村文則・1977年、愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年『銃』でデビュー、『土の中の子供』で芥川賞など。『掏摸』の英訳は米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』で年間ベスト10小説に選ばれる。昨年『列』で野間文芸賞。その他の著書に『教団X』(集英社文庫)、『R帝国』(中公文庫)、エッセイ集『自由思考』(河出文庫)など。(撮影/井上治)

雨宮処凛・1975年、北海道生まれ。作家。本誌編集委員。『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。貧困問題に取り組み、2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)で社会に衝撃を与えた。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)。(撮影/井上治)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ