【タグ】ひろゆき|リベラル|中村文則|小林よしのり|都知事選|雨宮処凛
参院選直前!緊急対談 中村文則×雨宮処凛 「リベラル」はなぜ嫌われるのか
2025年7月2日5:20PM

このところ、国内外を問わず、大きな選挙で負けが込んでいるリベラル。社会は格差が拡大し、多くの人たちにとってより住みにくい世の中になっているのは事実だ。それにもかかわらず、個人の権利や幸福を重視し、弱い立場に置かれた人たちを支援する「リベラル」が、なぜ低調なのか。2人の作家が語り合った。
雨宮 昨年の東京都知事選挙以降、リベラルな女性候補が負けるということが続いています。兵庫県知事選もそうだし、米国大統領選でもカマラ・ハリス氏がトランプ氏に敗れました。私は昨年頃から、選挙において、あらゆるフェーズ(位相)が変わったと思っています。たとえば動画が主戦場となり、それで荒稼ぎできる場になってしまった。また、SNSの普及によって、リベラルへの反感が強まっているとも思います。よくわからないけどとにかく攻撃的で不寛容な人たちというイメージが拡散されている。そんな中、リベラルの側は選挙をはじめとして活動のやり方をアップデートする必要に迫られている。今のままだとAI(人工知能)の戦争に竹槍で向かっているような状態になりそうです。そんな中で中村さんの寄稿(『朝日新聞』1月10日付)を読み、リベラルはもっと優しく丁寧に、ユーモアも持ってほしいという指摘に「まさに!」と思いました。もちろん、差別などには毅然とした抗議が必要ですが。
中村 ドイツの映画監督と以前に話した時、その方は〝われわれヨーロッパのリベラルは急ぎすぎた。われわれの価値観を早く押し付けてしまったことで逆に反感を呼び、右派の台頭を招いてしまった〟と言ってました。最近の空気でも、知り合いが米国であるアート作品のエージェントを始めたのですが、取引先から女性の作品を扱っていないと指摘されたそうです。何しろ始めたばかりで、友人の作品を扱っていただけなので、今後はもちろん女性とも契約すると伝えたそうですが〝男性ばかりは感心しない、見たくもない、女性の作品と契約したら来てくれ〟と言われたそうです。別のところでも似たことを言われて。友人はリベラルな人ですが「一体なんなんだ」と怒っていました。それを見ながら僕は、今度の米大統領選はトランプ氏が勝つんじゃないかと思ったんですよね。そして嫌な予感は当たり……。以前の「トランプ現象」は、もう一過性のものではなくなってしまった。
そこで僕はあのエッセイで、僕も含めてリベラルは言い方を変えたり、リベラルを嫌う人の気持ちも考えつつ話した方がいい、みたいに書いたんですよね。
「偉そうで上から目線」
中村 これを言うと、なんでリベラル側がそんな気を使わなきゃいけないのか、となるのですが、仕方ない面もあって。
『列』を書いた時に調べて知ったことですが、たとえば共感は人間特有の感情ではなくて、実は動物的な感情なんです。人間は社会的動物なので、他集団との争い/強者崇拝/集団内で誰かを排除する、という方向に煽動するのは容易いんですよね。でもリベラルの、異なる集団との交流とか、集団内排除をやめろというのは、理性に働きかけなきゃいけないので、社会的動物としての情念が邪魔して難しいんです。多くの生物学者は、もともと動物は保守的だと言います。そして人間の脳の仕組みは、1万年前と変わっていないそうです。
「リベラルはなぜ負けるのか」とよく言われますが、人間がそもそも保守的にできてるから、残念だけど負けるのは当たり前で。そういう中でリベラルが社会的動物としての情念を超えて伝えるには、工夫せざるを得ない。そうしないといけないぐらい、今の状況もまずい。雨宮さん、リベラルの嫌われる理由って何だと思いますか。
雨宮 偉そうで上から目線(笑)。私、もともと高学歴じゃないし、高卒の元バンギャル(ヴィジュアル系バンドが好きな女性の総称)なのでリベラルの世界線じゃないんですが、エリートの高学歴な〝持つ者〟たちは、上から目線で無知な人を批判する印象です。
たとえば小泉純一郎氏が郵政選挙で勝った時、リベラルの年配の人たちは、自民党を支持した当時20代、30代だったフリーター層を〝無知でバカな若者は選挙に行くな〟ぐらいの勢いで批判しました。「イミダス」の原稿(「なぜリベラルは『負ける』のかについて考えてみた」)でも書いたのですが、今は多くの人が社会学者(メディア研究)の伊藤昌亮さんの言うところの〝曖昧な弱者〟です。「病気も障害もないのであれば一生自己責任で勝ち抜きなさい」と大勢が放置されている一方で、リベラルは「明白な弱者」だけを守ろうとしているように見えるという指摘には納得です。これは日本全体の地盤沈下に起因する問題なのでしょうが、貧しさとか先行きの不透明さが深刻になればなるほど、「曖昧な弱者」にはリベラルの主張が自分たちを置き去りにしているように見えるのではないでしょうか。
「民衆に立ち返る」とは
中村 雨宮さんが伊藤さんとそのお話をしたネット番組「デモクラシータイムス」(「雨宮処凛のせんべろ酒場」)を見ましたが、裕福ではないのに経営者目線で話す人が増えてるのは、確かに投資をしてるからでもあるでしょうね。
雨宮 貧困層に近いのに経営者目線、投資家目線という人は増えていますね。
中村 株は能力というよりコツのイメージがあるから「仕事はうまくいかないけど、俺はこっちならいける」と思いやすいツールでもある。ギャンブル性も高くて動物的情念も刺激するので、中毒性もあり──と今の僕みたいにリベラルは分析で終わる時が多いと思うんですが、その人の気持ちになって話すのが大事ですね。リベラルの偉そう問題でもあります。
僕の好きな作家ドストエフスキーは「民衆に立ち返れ」と言うんですよね。彼の政治思想は真偽が混ざってややこしいので一旦脇に置きますが、彼の『カラマーゾフの兄弟』で主人公のアリョーシャが悲嘆から復活するシーンがある。後押しになったのが『聖書』の場面で、でもそれは学識高い深淵な部分じゃなくて、イエスが貧しい人たちの結婚式で葡萄酒を奇跡で出すシーンなんです。小難しいことじゃなくて、人々と共にあるキリストの姿にアリョーシャは感動する。では、人々と共にあるリベラルとは何か。寄り添う、ということと思うんですけども。
雨宮 結果的に弱者に寄り添っているのは、リベラルではなく〝優しいネオリベ〟と言われるひろゆきさん(西村博之氏=2ちゃんねる開設者)だったりホリエモン(堀江貴文氏=元ライブドア代表取締役)だったりしませんか。投資などの知識もある上、彼らは「こんなトリッキーなやり方で成功できるぞ!」みたいなライフハック(生活の知恵)を授けたりする。努力しても報われない社会では「労働者が団結して何かを変える」より、「自分が投資で成功する」方がリアルに思えるんでしょうね。
中村 でも、実際株に投資するとしたら、少ない元手だと大変なリスクじゃないですか。
雨宮 確かに危ないと思います。でも今の不安定層が一発逆転するにはそういうトリッキーな方法しかない現実もある。
中村 なるほど……。そして人々は、苦言は聞きたくない。若い人たちの中には「社会保障はいらない」とまでいう人が少なくないけど、投資で失敗して経済的に困窮すれば、いま否定してる社会保障は必要になる。でもこれを言うと「お前に何がわかる」「俺はそうはならない」となる。
雨宮 実際、ほんの一部だけど成功する人もいるから。
中村 格差是正には、株で莫大な利益を得るファンドなどにもっと課税した方がいいですが、それを言うと一般投資家からも反感がくる。取引額年間何億円、みたいな線をひいて税政策を作るとか、莫大な利益を得る存在と一般の人を分けないといけないですね。