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玉城デニー沖縄県知事単独インタビュー 「沖縄を二度と戦場にしないために、ミサイル配備を許すことはできません」

渡瀬夏彦・ノンフィクションライター|2024年4月25日6:23PM

県庁内部で方針転換

 2月初旬、南風原町の自宅へ押しかけた筆者に、仲里氏はこう教えてくれた。

「わたしが知事や副知事に会った9月30日の時点では、県庁の方針はもう『承認』で決定しているかのような雰囲気でしたよ。でも、わたしが相当強く言った言葉を、知事はしっかり受け止めてくれましたね」

 つまりその瞬間、沖縄県庁内部で大きな方針転換が起きた。沖縄の戦後史に残る大きな節目の瞬間だったと言っても決して大袈裟ではないだろう。

 この人が、玉城デニー知事の後援会長でいてくれて本当によかった。それが筆者の偽らざる感想である。知事はこう話す。

「沖縄県知事というのは、なろうと思って誰でもなれるものではないし、誰でも簡単にできる仕事でもありません。選挙で選ばれた知事として、お前は本当はどうしたいんだ、と自分自身へ問いかけたとき、政治家としての責任を果たすことを選ぼうと思ったのです。仲里会長は、かなり強い言葉で、ガンガンやれ(政府と戦え)、という意味のことをおっしゃいましたが、わたしとしては、問題を対話で解決するという姿勢を大事にしたい。その姿勢こそ知事として貫きたい、と思いました」

ブレない基本方針

 玉城知事はその基本的な方針において、少しもブレることがない。じつは4年前に筆者が担当した、本誌のデニー知事インタビュー記事のタイトルも、「問題はあくまで対話で解決したい」だった(20年2月21日号)。当時明確に示した姿勢はそのまま変わることがなく、むしろ政府の側が知事との対話をこの何年も拒否し続けてきたのである。それどころか、玉城知事が不承認の姿勢を変えないと見るや、政府は非常に迅速に、知事の権限を奪う代執行のための裁判を起こした。

 そして玉城知事は昨年10月30日、この裁判において口頭弁論(意見陳述)に臨むことになる。福岡高裁那覇支部前の公園での玉城知事を励ます事前集会に集まった人びとから大きな拍手や声援を受けて法廷に送り出された玉城知事は、じつに格調高い意見陳述を行なった。これは、沖縄県のホームページ(https://www.pref.okinawa.lg.jp/heiwakichi/futenma/1017409/1027449.html)や地元紙のウェブサイトでも読めるようになっている。決して長い文章ではないので(A4用紙で8ページ分)、ぜひとも全文をじっくり読んでいただきたい。政府の間違いを指摘し、沖縄県側の主張の正しさがはっきりと伝わる説得力ある陳述文である。

 言うまでもなく、「対話の必要性」を口頭弁論の柱として据えたことがわかる。

安保三文書の閣議決定

 筆者は今回のインタビューであえてこう水を向けた。

──全国の人びとの沖縄の窮状に対する無関心さには「お前らいい加減にしろ」と叫びたくなったり、対話を拒絶する政府に対しても怒鳴りつけたくなったりしても不思議はないけれど、デニーさんは本当に我慢強い姿勢を保ち続けていますね。

「政府だけでなく、全国の人に対して、皆さんは沖縄に基地を押し付け続けてきた加害者の側面があるのだから、責任を取りなさい、と言ってしまえばそれまでの話なんですが、しかし、本当に物事の本質を知ってもらって、ではどうするか、と考えていただかないといけないんですよね。不条理な状況を実感していただけましたね、さぁ、それでは皆さんはどうしますか、と問いただすようにしないといけません」

 知事はさらにこう続ける。

「基地について、沖縄にいらないものは日本のどこにもいらない、という考え方もあるかもしれません。日本から海兵隊は完全撤退せよ、という声もあがっています。しかし、それだけではイデオロギー闘争になってしまって、問題の解決にはつながらないんです。一方、基地引き取り論を訴える方々は、『われわれは沖縄に甘え続けてはいけない』という考え方をされていて、それは十分にありがたいことですが、せっかくですから、そうした考えをお持ちの方が自分の地域の皆さんと一緒に国の将来について考え、議論を広げていってほしいと思います」

──じつは今回のインタビューの機会に、ぜひ直接確認させていただきたいことがありました。辺野古新基地建設阻止や米軍基地の閉鎖返還・負担軽減を訴えるだけでなく、最近のデニー知事は与那国島、宮古島、石垣島、沖縄島の勝連半島など、県内の自衛隊配備についても、厳しいお考えを明確に示されるようになりましたね。ここ数年のあまりに急速かつ強引な基地建設やミサイル配備等の実態をご覧になって、地域住民の皆さんと同じように危機感を抱かれるようになったのでしょうか。

「自衛隊については、もともと専守防衛のための最低限の自衛力の保持は容認する立場ですが、それを進める際には地域住民の皆さんへの丁寧な説明を経ずに基地建設を強行するような真似は駄目だと申し上げてきました。しかし、一昨年暮れの安保三文書の閣議決定以降、明確に異議を唱えざるを得ないと思う事態になりました。反撃能力を有するミサイル配備は大きな問題です。与那国島においても、当初は監視レーダーを置く計画のみであったはずです。そもそも日本は、二度と戦争をしないと誓った国であるはずです。それが、国の根幹の方針を、国民から負託を受けた議員による国会での論議も経ずに、国民への説明責任も果たさず、閣議決定だけで変えていく。こんなことはあってはならない、とはっきり声をあげなければならなくなりました。沖縄県としても、政府が専守防衛を逸脱した敵基地攻撃能力を持つミサイルを沖縄県の島々に配備することはまかりならん、沖縄を二度と戦場にさせるわけにはいかない、と明確に言わねばならないと思っています」

2023年12月、那覇市で行なった基地問題に関する若い世代とのワークショップ。(撮影/渡瀬夏彦)

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