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オスロ合意から30年 
「土地なき民」になったパレスチナ人

小田切拓・ジャーナリスト|2023年11月30日5:49PM

9月13日でオスロ合意から30年を迎える。パレスチナを定点観測している筆者が7月、4年ぶりに現地を訪れた。

農作業をする長男。東西の幅が数十メートルしかないファエズの畑の目の前に、監視塔と監視カメラが設置されたコンクリート壁が存在する。壁の建設時は立ち入り禁止を命じられたが、兵士の目を盗んで農作業を続けた。壁完成後も、何度も立ち退きを迫られている。(撮影/小田切拓)


「民なき土地に、土地なき民を」という謳い文句で国家を立ち上げたイスラエルは、パレスチナ人という新たな「土地なき民」を作り出している。今年7月、国連人権理事会で「(ガザ地区だけでなく占領地全体が)天井のない刑務所になった」という表題の報告がなされた【注1】。そこではパレスチナ人が、イスラエルによって、無数の小さな居住地区に追いやられ、監視と圧力に晒されていると国際社会に訴えた。

 1993年9月13日、クリントン米国大統領(当時)立ち会いの下、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)は相互の存在を承認し、併せてパレスチナ国家独立の工程を定めた。オスロ合意だ。イスラエルは軍事占領しているヨルダン川西岸地区とガザ地区から暫定的に撤退し、パレスチナ人はそこで5年間の自治を認められた。両者がこの5年間で協議をまとめる取り決めだった。同合意締結から30年が経つが、パレスチナの独立はいまだ果たされないばかりか、人々はさらなる苦境に追い込まれた。その実情を、一人の農民の半生から綴る。

農業が続けられない

 7月16日、4年ぶりにヨルダン川西岸地区北西部の都市、トルカレム在住の知人を訪ねた。畑に彼の姿はなく、数百メートル離れた場所で始めたプレハブの売店にいるという。畑裏にあるイスラエル企業の工場(入植地)で働くパレスチナ人労働者に向けて、早朝から菓子や飲料を売っているのだ。

 ファエズ・タニブ(63歳)との付き合いは20年になる。イスラエルによる隔離壁の建設に反対する活動家であり同時に農家でもあったファエズとその家族は、農業を続けることでイスラエルに抵抗しようとしてきた。

 1年前から、畑は60歳を超えた妻が維持している。この日は失業中の長男とアルバイトの高校生が手伝っていたが、主だった仕事は一人で行なってきた。

 ファエズの一族は、約8・2ヘクタールの土地を持つ農家だった。それが48年にイスラエルが建国されたことで、その全てを失った。農地が境界線のイスラエル側にあったためにイスラエル領になったのだ。その後、52年に新たに3・2ヘクタールの土地を買い、農業を再開した。

 父親は84年に亡くなり、ファエズは結婚を契機に86年、農家を継いだ。耕作面積は小さかったが、トマト、キュウリ、モロヘイヤなどの彼の野菜は高品質のために評判になり、イスラエル人もやってきて直接購入するようになった。

 その後も野菜のオーガニック化を進め、バイオガスの利用も。2018年にはフルオーガニックの農場と認定され、「オーガニック抵抗運動」というタイトルで海外でも紹介された。だが、ファエズの子どもたちは農家を継がない。

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