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オスロ合意から30年 
「土地なき民」になったパレスチナ人

小田切拓・ジャーナリスト|2023年11月30日5:49PM

「土地なき民」の行く先は

 占領地だけで500万人を超える人口が存在する。イスラエルだけでなく、湾岸諸国もパレスチナ人を自国民として引き受けない。とすれば、イスラエルが作り出したこの「土地なき民」はどうなるのだろう。

入植地を結ぶ新規道路建設現場(西岸地区北中部)。占領地で、イスラエル人用のインフラが次々に整備される。8月末には、実質的にイスラエルの併合下にある東エルサレムで、住宅、道路、交通網の整備事業等が決まった。規模は120億円で、目的は「都市の統合」だ。(撮影/小田切拓)

 現在、イスラエル右派政権による入植地拡張などの圧力の強化から、イスラエルとパレスチナの緊張状態が高まっている。しかしジェニン難民キャンプでの軍事力の行使などを強行する一方で、イスラエル政府は、パレスチナ人の抵抗心が一定レベルを超えることには危機感を抱いている。

 7月にイスラエルは、アッバース・パレスチナ大統領とパレスチナ自治政府(PA)を経済面を含め支える姿勢を表明した【注11】。国際社会からの援助で約20万人の職員を雇用しているPAが破綻すれば、イスラエルは直接、西岸地区の全てのパレスチナ人に対処しなければならなくなる。PA職員の40%以上が警察官を含む治安部隊であり、反イスラエル色の強い組織を取り締まっている。いわばイスラエルの「下請け」だ。

 7月下旬、再度ファエズを訪ねると、三男が入院していたという。工場で働いている時に、漏電した金属に触れて気絶した。現在も体調不良で仕事には行けていない。

 母を手伝っている長男は、妻と娘との将来を案じ始めている。

 ファエズは農業をやめれば、自分の人生を全否定する形になる。かといって農業にもはや可能性を見出しにくい。それでも最近、思い直したかのように「化学工場と裁判で争う」とメッセージがきた。

 ファエズの妻は元々難民だ。炎天下、畑で黙々と働いていた。

 今年もまた、思い出したかのように外国人の難民支援団体が大挙して訪れ、フランス人10人がファエズの家に泊まっていった。

【注1】ohchr.org 2023年7月10日付発表
【注2】ohchr.org 2023年3月28日付発表
【注3】詳細は以下を参照。AGRICULTURE IN AREA C(国連開発計画/2017年3月/undp.org)
【注4】unsco.unmission.org 中東和平に関する2022年9月16日付発表内の数字。
【注5】一般的な認識であるが、以下の専門家による分析がある。「Israel Was Built on The Backs of Palestinian Laborers/2019年4月19日/thenation.com」
【注6】イスラエル、パレスチナの最低賃金や現地での聞き取り調査から。パレスチナ中央統計局(pcbs.gov.ps)も推計を発表している。
【注7】以下で、イスラエル人労働法学者が現状を整理している。「How Israel witholds labour rights from the West Bank’s Palestinian workers/2015年8月20日/theconversation.com」
【注8】「The Palestinian Diaspora of the Gulf/1982年6月15-17日」の要約版。merip.org
【注9】CIAの調査書による推計では約55万人。各国における状況も分析。「Palestinian Presence in the Persian Gulf/1983年7月8日/cia.gov」
【注10】イスラエルの人権団体による調査で詳しく紹介されている。「Residents without Status/2013年7月21日/btselem.org」
【注11】ネタニヤフ首相は6月にも同様の発言をし、さらにパレスチナ人の独立しようという願望は「押さえつけねばならない」と述べたと報じられている。(6月26日/The Jewish Chronicle)

(『週刊金曜日』2023年9月8日号)

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