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消えた民進党の「2030年原発ゼロ」(高橋伸彰)

報道によれば、2月27日に民進党の蓮舫代表は今春の党大会における「2030年原発ゼロ」方針の表明を断念した。背景には同党の支持母体である連合の猛反発があったという。

実際、連合の神津里季生会長は本誌2月24日号のインタビューで〈最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく必要がある〉と述べたうえで、〈そこに至る道筋で雇用や国民生活に与える影響を最小化していく努力は不可欠で、その間の再稼働はありうる〉という。原発ゼロの具体的時期には触れず、旧民主党時代に定めた2030年代(2030年ではない!)でさえ連合の方針よりも「踏み込んで」いると評するのだ。

民進党のエネルギー・環境調査会が、党大会に向け策定中の「原発ゼロ基本法案(仮称)」に「2030年ゼロ」を明記する考えを示したのは2月2日。そこから連合傘下の産業別労組へ理解を求める蓮舫代表の説明行脚が始まる。だが結局、合意は得られなかった。これに対し冒頭の断念が報じられた2月28日付『朝日新聞』(名古屋本社版)には「国民や労働者の生命、健康を守らずして何が労働組合か。労組のナショナルセンターとして失格と言わざるを得ない」という読者の声が掲載された。

この声を聞き改めて思うのは、かつての公害闘争で被害住民よりも企業側に立ち、公害の実態を隠そうとした大企業労組の姿勢だ。 公害研究者の宮本憲一は、公害が発生しても企業擁護にまわった労組を批判したうえで「水俣病の初期にチッソの労働組合が患者と対立し、四日市公害裁判を四日市労働組合評議会が提起すると三菱系企業労働組合が脱退したことなどは典型である」(『戦後日本公害史論』)と述べている。

前出の神津会長が原発再稼働の理由に挙げる「雇用や国民生活への影響」も、その主語は誰かと問えば、今回の福島第一原発事故で生業や生活を奪われた被災者よりも、傘下の電力総連を中心とする大企業労組を優先しているのは明らかではないか。

確かに、経営者と一体になって生産性を高め、そこで得られた付加価値の分配と組合員の雇用確保に専念してきた大企業労組にとっては、公害や原発事故の被災者、下請けや未組織労働者、地域住民は自分たちの雇用や生活に無関係な外部者かもしれない。しかし、そうした排除の思想が市民との間に分断を生み、労働組合の組織率や発言力の低下につながってきたことを忘れてはならない。

福島第一原発事故後も再稼働を容認する連合の方針が、いかに時代遅れかは先の新潟知事選挙や世論調査の結果を見れば一目瞭然である。そんな連合の方針に抗せない民進党に政権復帰の資格はないし、また、ともに働き、ともに生きるすべての労働者と市民のために企業や職域を超えて「身体を張り身銭を切った」(熊沢誠『労働組合運動とはなにか』)運動を展開できない連合にも明日があるとは思えない。

市民の生命と健康を危険に晒してまで考慮すべきような「雇用や国民生活への影響」など、私たちが暮らす社会には存在しない。そう考えれば、原発ゼロは2030年でも遅すぎるのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。3月3日号)

森友学園の異様さに(雨宮処凛)

国会では安倍晋三首相への追及が続き、「第二の森友学園」疑惑が浮上するなど「アッキード事件」は広がっていくばかりだ。

そんな森友学園が運営する塚本幼稚園の映像が連日テレビに映し出されている。

教育勅語の暗唱、運動会で「安倍首相、頑張れ!」「安保法制国会通過、良かったです」などと言わされる園児たち。

塚本幼稚園の映像を見て思い出したのは、今まで5回訪れた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)だ。

初めて北朝鮮に行った時、連れて行かれたのは幼稚園だった。

そこには、幼稚園なのになぜかファンデーションをがっちり塗り、唇を真っ赤に塗るなどしたフルメイクの子どもたちがきらびやかなチョゴリに身を包まれていた。

私たち外国人が教室を訪れると、「うちのお父さんは主席から勲章をもらった」という歌を朗々と歌い上げたり、集団で一糸乱れぬダンスを披露してくれたりしたのだった。

また、幼稚園の先生が「この日はなんの日ですか?」と聞くと、「大元帥様のお生まれになった日です!」と全員が大きな声で唱和。子どもたちは可愛かったものの、歌ったり踊ったりするときの子どもらしさのまったくない作り込まれた表情に、なんとも言えない違和感が残った。

それから数年後、また北朝鮮を訪れた際、今度は小学生が芸術活動をする場所に連れていかれた。

やっぱり綺麗にメイクをして、琴のような楽器を弾いたりバレエをする子どもたちの表情は作り込まれていて、演奏やダンスはもちろん完璧だった。

そんな子どもたちを次々と見せられているうちに、一緒に行った男性の1人が突然泣き出した。混乱して、動揺して、とにかく何もかもが異様で、耐えられなかったのだという。彼が泣く姿を見て、「ああ、やっぱりこれって泣くくらいのことなんだよな」と、妙に冷静に思った。が、北朝鮮のガイドは、終始「わが国の子どもはこんなに素晴らしい教育を受けている」と自慢げだった。

そんな北朝鮮を彷彿とさせる森友学園が新設する「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長に、首相の妻である安倍昭恵氏が就任していたのだ(現在は辞任)。しかも、教育方針に感銘を受けたことを語っている。

森友学園の問題が発覚する数日前、あるヴィジュアル系バンドのコンサート会場で昭恵氏を見た。終演後、出口に向かう昭恵氏は満面の笑顔だった。布袋寅泰氏もそうだが、彼女は随分とミュージシャンが好きなようである。彼女には公費で5人の秘書がついているというが、あの時、秘書は同行していたのだろうか。

なんだかとても、気になる。

(あまみや かりん・『週刊金曜日』編集委員。3月10日号)

国家予算が姿を消す日(浜矩子)

日本から国の予算が消えてなくなる。そんな日がひょっとすると近いかもしれない。

こう思えてしまうのは、近頃、妙な理論が巷ではやっているからだ。火付け役は、内閣官房参与の浜田宏一先生だ。彼が「シムズ理論」なるものに心酔したと宣言した。以来、何かにつけてメディアにこのシムズ理論が取り上げられるようになった。

シムズはクリストファー・シムズ氏の名字である。シムズ先生は2011年のノーベル経済学賞受賞者だ。シムズ理論は、またの名を「物価水準の財政理論」だ。これを言いかえれば、要は「意図的無責任財政の薦め」にほかならない。デフレから脱却したいなら、政府は財政赤字の解消を追求しないと宣言しなさい。赤字垂れ流し大作戦を展開することでインフレ経済化を促進しなさい。そうすれば公的債務の返済など屁の河童。簡単に返せてしまえるようになる。

政府が無責任財政宣言を行なえば、国民も増税など行なわれないと安心しますから、財布の紐も緩くなります。それどころか、将来の物価上昇を見込んで買い急ぎ行動に走るでしょう。一気にデフレ解消です。なまじ財政再建などにこだわるから、デフレ脱却の埒があかないのです。

ざっくり言えば、こういうことである。これだけでも、かなりの際物論法だ。だが、これで驚いていてはいけない。なぜなら、この無責任財政大作戦が功を奏するためには、一つ、条件がある。それは、財政と金融の一体運営である。要は、中央銀行による国債の直接引き受けを解禁するということだ。これをやらないと、いくら政府が赤字垂れ流しを敢行し続けようとしても、国債に買い手がつかなくなる恐れがある。

今の日本国政府がすでにその状態に限りなく接近しつつある。日本銀行も、市場からの国債の買い取りは何とか減らしていきたがっている。日銀の国債大量購入のおかげで、金利形成にせよ何にせよ、金融市場において一事が万事、まともに機能しなくなっているからだ。

だが、直接引き受けを解禁してしまえば、世界が変わる。金融市場から、政府も日銀も姿を消す。内々の相対取り引きで、政府は日銀からいくらでもおカネを借りることができるようになる。無責任財政の薦めを首尾よく実践するには、どうしてもこれが必要になる。

もしも金融と財政のどんぶり勘定化が実現すれば、その時をもって国の予算はわれわれの前から姿を消すだろう。中央銀行がいくらでもお小遣いをくれるなら、そのような国の政府はいちいち国家予算などと言うものを編成して国会審議にかける必要はなくなる。

時あたかも1月20日に行なわれた安倍首相の国会冒頭施政方針演説は、財政健全化に一切言及しなかった。20年度をめどに基礎的財政収支(借金返済分を除外した収支)の黒字化を目指すという文言も、施政方針の中から消えた。安倍政権下の施政方針演説において、いずれも初めてのことだ。

国家予算を雲隠れさせるための準備は、すでに始まっている。どうも、そういうことらしい。シムズ先生は、こんなことに加担させられていることをご存じか。油断も隙もあったものではない。

(はま のりこ・エコノミスト。3月3日号)

オスプレイは“空飛ぶ恥”(黒島美奈子)

つぶの一つ一つにさわれそうなゴーヤーや、花びら1枚1枚がピンと張ったアザミ。植物をモチーフにした繊細な水彩画の作者は、沖縄で暮らして20年になるという奥西眞澄さん(77歳)だ。航空自衛隊の元パイロットで、約30年間、民間航空会社のパイロットをも務めた経歴を持つ。今年1月に「オスプレイを斬る」の題名で紙芝居を披露し話題を呼んだ。

「みなさん、飛行機が羽ばたくことを知ってますか?」。航空力学の知識を駆使し、オスプレイの構造をコウモリや竹とんぼになぞらえて解説する。「分かりやすい」と評判で講演の依頼が舞い込んでいる。2月中旬に初めて会った日にも、その携帯電話に、紙芝居を譲ってほしいとの依頼が寄せられていた。

奥西さんは広島県呉市出身。商船大学への進学が決まっていたが「模擬試験代わりに」と友人に誘われ空自を受験したのが入隊のきっかけだ。一緒に受けた7人のうち合格したのは奥西さん含め2人だけ。入隊後は、戦闘機の操縦に必要な数学・物理・英語の履修を徹底させられた。テストの出来が悪いと除隊もあったといい、当初180人余の同期は2年目が終わるころは70人余に。奥西さんは、同期で数人というテストパイロットになるほどの優秀さだった。

「戦闘機はスポーツカーのようなもの」と言う。夢中になるのに時間はかからなかった。特にテストパイロットの仕事はやりがいがあった。操縦にたけたテストパイロットが「安全」と判断して初めて、他のパイロットが操縦できるようになる。危険な仕事だが手当は当時1日200円だった。「命を懸けてこの額か」と皮肉ったこともある。それでも操縦できる喜びが勝った。34歳で空自を後にしたのは、地上勤務に配属されたことが理由だった。空の仕事を求めて民間航空会社に入社した。

温暖な気候にひかれ沖縄で暮らすようになったのは55歳のころ。61歳でパイロットを退職。8年前に脳梗塞から失語症を発症した。当初は、病室で医師の問いかけに答えようとしても声が出ず、絶望感を味わった。リハビリに始めたのが描くことだった。

日常を取り戻し始めたころ、米軍普天間飛行場へのオスプレイ配備を知った。戦闘機のパイロットだった経験から、構造上の問題には早くから気づいた。「オスプレイは、パイロット仲間には“空飛ぶ恥”と呼ばれている。買うのは世界中探しても日本ぐらい」。

昨年、いつも参加する模合(沖縄での頼母子講)でオスプレイの話をしたら「危険性がよく理解できた」と好評だった。得意な絵と一緒に説明すればさらに分かりやすくなるのではないかと、切り絵の紙芝居を作成した。

失語症の影響で以前のようにはしゃべれない。早口でのやりとりは苦手なので、あらかじめ台本を作成して臨む。披露する前日は何度も練習を重ねるという。「そこまでしてなぜ訴えるのか」という問いへの答えが印象的だった。

「沖縄風に言えば『ワジワジー』(怒り心頭に発)している。自衛官の安全と命を政府は何だと思っているのか」

危険なオスプレイの導入、「戦闘」のある海外への派遣……。「国を守ると言いながら、国民を危険に晒す行為だ」。元自衛官の奥西さんの言葉が重い。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。3月3日号)

達成しても「GDP600兆円」はまやかし(佐々木実)

「GDP600兆円の達成を明確な目標として掲げたい」。安倍晋三首相がそう宣言したのは、自民党総裁に再任された2015年9月だった。期限についてはその後、東京オリンピックの頃としたので、「2020年度に名目GDP(国内総生産)600兆円の達成」が国是となった。

当初ほとんどのエコノミストが首をかしげた。というのも、14年度のGDPは約490兆円なので毎年3%台の経済成長率が必要となる。長らくGDPが低迷する日本ではこの20年ほど年率3%を達成したことなどない。誰がみても600兆円は無謀な目標設定に映った。

ところが、昨年12月に異変が起きた。突然、GDPがグッと増えたのである。16年12月8日に内閣府が発表した15年度の名目GDPの確報値は532兆2000億円。14年度は前年度比の伸びが5兆円程度なので、「急伸」と表現しても大袈裟ではない。だが、この「急伸」には特殊な事情があった。GDPの算出基準そのものを大幅に変更したのである。

従来の基準だと、15年度のGDPは約500兆円にすぎない。「基準改定」だけで31兆6000億円も跳ね上がった計算になる。この金額がいかに大きいか、「GDP600兆円の達成」のために産業競争力会議が描いた青写真を参照すればわかる。

青写真は、人工知能やロボットなどの第4次産業革命にかかわる分野で20年までに30兆円の市場創出を謳った。安倍政権はこれに匹敵する「経済成長」を「基準改定」だけですでに成し遂げてしまったわけだ。

国民経済計算は約5年に一度、基準が見直される。今回が大きな改定になったのは国際基準に対応するためで、研究開発費などがGDPに算入されることになった。こうした見直し作業は当然、「GDP600兆円」の実現性に影響を及ぼす。『日本経済新聞』は「見えた?GDP600兆円」(1月9日付)という記事で内閣府幹部の本音を「恨み節」として紹介している。

〈改善は大事だがGDPを押し上げるために統計の仕事をしているわけではない〉

安倍首相が「600兆円」を宣言した時とGDPの算出方法が違うのだから、旧基準のもとでの「600兆円」を新基準にそのままあてはめて議論するのはまやかしだ。だが、「基準改定」という奇手による600兆円の達成は現実味を帯びてきた。現在、安倍政権はさらなる大規模な統計の見直しに着手しているからだ。

昨年12月の経済財政諮問会議では、山本幸三行政改革担当大臣が関係閣僚をメンバーとする「統計改革推進会議(仮称)」の設置を提案、「政治主導により改革を推進する必要がある」と断言した。「政治主導」なら安倍首相が国是として掲げる600兆円を達成するためにGDPを跳ね上げることができるかもしれないが、それはゴールラインをこっそり手前に移動するようなものだ。

GDPの算出基準をいくらいじりまわしても、現実の経済実態が変わるわけではない。「ポスト・トゥルース(脱真実)」の時代にあっては、客観的データとされる国民経済計算を読む際も警戒を怠ることはできない。

(ささき みのる・ジャーナリスト、2月24日号)

稲田防衛相がすべきは制服組トップの処罰(佐藤甲一)

安倍晋三首相が任命した閣僚の適格性が問われている。いわゆる「共謀罪」をめぐる金田勝年法相のお粗末な国会対応の問題、さらに南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣に関わる稲田朋美防衛相の一連の対応である。

両大臣の答弁をめぐってたびたび国会審議が中断する事態に及び、野党4党は2人の辞任を求めているが、今の国会の勢力図からみるとそこまで追い込むのは容易ではない。だが、ここに安倍政権にとっての構造的な問題が深層にあることに気がつかねばならない。

問題の本質は安倍政権という「一強多弱」政治が生み出した官僚機構の増長と、それを本来制御すべき「政治的抑止力」の劣化なのである。ならば単に担当大臣の資質が欠け、安倍首相の任命責任を問うという、俗人的な責任論を展開する民進党などの野党の追及は歴史的な視座からの問題意識に欠ける。

本稿ではより重大な自衛隊のPKO「日報」問題に絞りたい。この件では三つの問題が明らかになっている。(1)南スーダンでの活動を記録した「日報」の存在を隠していた、(2)「日報」に書かれていた「戦闘」という表現を憲法上の問題にかかわるとの判断から大臣答弁では「武力衝突」と言い換えた、(3)自衛隊当局が稲田氏に、「日報」に「戦闘」と書かれていたことを1カ月にわたり報告しなかった、の3点。いずれも極めて重大な問題である。

(1)は自衛隊組織の「隠蔽体質」が明らかになっており、(2)では、南スーダンへの派遣は憲法違反の疑いがあることを自ら語っているのに等しく、直ちに派遣を取りやめるかどうかの判断を下さなければならないはずである。そしてなにより不可解なのは(3)だろう。

稲田大臣は(1)が明らかになった段階で、自衛隊トップに公開を指示していた。調査に手間がかかるとの理由で自衛隊幹部が公開せず、大臣に1カ月も報告もしていなかったことは明らかに「抗命」といえまいか。自衛隊内部の「抗命罪」であれば、内規によって相応の処分で済ませることであろうが、事は文民の大臣と制服の自衛隊組織トップの間での「抗命」である。旧帝国陸海軍の暴走という戦前の反省に立ち、戦後日本が武力組織である自衛隊を創設するにあたって定めた根本原則である「文民統制=シビリアンコントロール」に明らかに抵触する。

そのことに気づかないのなら、稲田大臣はまさに資質に欠ける。本来なら制服組トップを処罰したうえで、統制力欠如の責任をとって辞任すべきだろう。国会での野党の追及を逃れれば済むという次元ではない。その点では、世論がこの問題に注ぐ関心の薄さもまた、深刻である。

安倍政権の下では菅義偉官房長官らが霞ヶ関の高級人事を動かすことで、官僚機構を把握しているともいわれている。だが水面下では、力不足の大臣の眼を掠め、官僚組織の勝手な「自己保全」が行なわれていると思わざるを得ない。文部科学省の「天下り問題」しかりである。圧倒的多数を占めているとはいえ自民党に量に見合った質の伴った政治家が揃っているか、といえば疑わしい限りである。盤石に見える安倍政権も一握りの練達な政治家に支えられているにすぎず、一歩誤れば、「砂上の楼閣」になりかねない。

(さとう こういち・ジャーナリスト、2月24日号)

都議選の争点に「共謀罪」が浮上  「右腕」若狭勝衆院議員が反対しても小池都知事は沈黙

千代田区長選で応援演説をする若狭議員(右)と小池都知事(左)。2月4日。(撮影/横田一)

民進・共産・自由・社民の4野党が、「法案提出後に議論をすべきだ」とする報道機関向け文書を作成した金田勝年法務大臣の辞任要求で一致する中、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)が東京都議選(7月2日投開票)の大きな争点になる可能性が出てきた。安倍晋三首相が「東京五輪開催にはテロ等準備罪(いわゆる共謀罪)の創設が不可欠」(2月3日の衆院予算委員会)と答弁したのに対し、野党は「五輪を口実に成立させようとするやり方は姑息だ」(民進党の逢坂誠二衆院議員)などと反論した。

都知事選で小池百合子都知事を除名覚悟で応援した自民党の若狭勝衆院議員(東京10区)も本誌2月10日号で既報の通り、1月7日のブログ「専門家としてこのままでは政府の考えに断固反対!!」で、刑事法・テロ対策の専門家などの立場から、次のような反対論を述べていた。「名称にいくら『テロ』の言葉を盛り込んでも、(中略)国民の多くの命をテロから守るためには効果が乏しい。(中略)いかにもテロ防止に資するような名称を付け、これでテロ対策の法律としてまずはひと安心という誤った意識を国民と政治家に抱かせる(ミスリーディングする)こと自体極めて危険です」「国民の命を守り抜くという政治信念を強く抱く私には到底容認できません」。

若狭氏は、安倍首相にほとんど異論を唱えない“子羊集団”のような自民党の中で、持論を訴える稀有な存在。去年10月の東京10区補選でも、原発テロ対策が不十分(航空機テロへの対策がなされないままの原発再稼働を疑問視)とホームページに掲載、囲み取材でも同じ主張を繰り返した(拙著『新潟県知事選では、どうして大逆転がおこったのか』で紹介)。

さらに、「国際組織犯罪防止条約締結に必要」という政府の説明も次のように一刀両断。「この条約のターゲットは、そもそも、不正な『金銭的利益』等に絡む国際組織犯罪の防止です。ですから、それをテロに絡ませるというのは、法律の作り方としては姑息です」。

14日の衆院予算委員会でも民進党の今井雅人衆院議員(元維新幹事長)が問題視。「条約が求めていない政治的、宗教的な目的のテロは(テロ等準備罪の)法案の対象になるのか」と質問すると、金田大臣は「(共謀罪は)条約に必要な法整備として設けるので、条約の担保という目的を離れて立案することは考えていない。これには入らない」と答弁。当然、今井氏は「テロをカバーしないなら『テロ等』という名前を付けることは粉飾で、印象操作だ」と批判した。

【五輪開催に必要なのか】

若狭氏も先のブログで東京五輪時のテロ阻止に必要なのは「これまで我が国に一切なかった(一部テロ資金の封じ込めに係る法律を除き)『テロ未然防止法律』の整備」と強調。国会を通過しやすいのなら、「時限立法でも良い」と述べた。

注目されるのが、東京五輪開催地の小池百合子都知事の対応だ。

4日の政治塾「希望の塾」での囲み取材では「共謀罪は国政の課題」と都政と切り分ける考えを示したが、小池知事が“盟友”の若狭氏に同調する可能性は十分にある。

永田町ウォッチャーはこう話す。「豊洲移転問題と同様、共謀罪は都議選で自民党との違いを示すことができる政策課題。共謀罪反対の都民の民意を背景に『都民ファーストの会』や公明党や民進党などの野党が都議選で『五輪開催に共謀罪が必要なのか』を問えば、安倍首相に同調する自民党を過半数割れに追い込む可能性はさらに高まる。逆に“小池チルドレン”が共謀罪必要論に賛同すれば、『安倍首相ファースト』と批判を受ける恐れがあります」。

五輪開催地の都議選で「共謀罪はノー」の民意が示されれば、法案の立法事実(必要性)が崩れ去るのは言うまでもない。それでも安倍政権が強行採決をすれば、今秋とも言われている総選挙で「共謀罪廃止法成立」で一致する野党が統一候補を擁立、安倍政権に挑む展開になるのは間違いない。

都議選で小池新党の擁立候補は共謀罪に対しどんな立場を取るのか。小池知事の判断が注目される。

(横田一・ジャーナリスト、2月24日号)

「残業月100時間」で上限規制という図々しさ――安倍政権が用意する怖い「抜け穴」

長時間労働の是正に向けた安倍政権の本気度が問われている。政府は2月14日の働き方改革実現会議で残業時間の上限規制を強化する案を示した。ただ経済界が受け入れられる「抜け穴」も用意する構えだ。また、国会で2年間棚晒しの「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を創設する法案も同時に進めようとする政府に対し、労働側は「過労死を招きかねず、残業規制と矛盾している」と反発している。3月末に予定する実行計画とりまとめは依然、見通せない。

1日夕、首相官邸であった同実現会議。6回目のこの日は「長時間労働の是正」が議題だった。議長の安倍晋三首相は「罰則つきで残業の限度を何時間とするかを定める必要がある。法改正が不可欠だ」と締めくくり、次回14日に具体案を示すことを明かした。

今の労働基準法は、労働時間を原則1日8時間、週40時間と定める。ただし、労使が同法36条に基づく「36協定」を結んで特別条項を設ければ、従業員を年6カ月まで上限なしに残業させることが可能。同法36条は、労働時間規制を骨抜きにする道具と化している。

従来、経営側は労働時間規制の強化に慎重だった。それが人口減少下、今や労働力確保のため労働時間の短縮は避けられなくなってきている。そこへ電通の女性新入社員の過労自殺が問題化し、企業も対応を迫られるようになった。

【法律で「過労死」にお墨付き?】

そんな空気を読んだ厚生労働省は、36協定の特別条項に「月平均60時間、年720時間」という残業時間の上限を設定する原案をつくった。標準的な会社員なら1日3時間の残業が限度となる。ただ、経営側の「繁忙期には残業が必要」(榊原定征経団連会長)との意向もくみ、年720時間の枠内で一時的な超過は認める意向だ。その一案が、「月100時間または2カ月連続なら平均で月80時間」だ。

とはいえ、「100時間」や「80時間」は過労死の認定基準に使われる水準でもあり、14日の会議では示さなかった。2015年度に脳・心疾患で死亡し、労災認定された人は96人。うち、49人は残業時間が「月80時間以上、100時間未満」だった。民進党の蓮舫代表は「法律で過労死ラインまで働かせてもいいとお墨付きを与える」と切り込み、連合の神津里季生会長も「到底ありえない数字」と批判する。このほか、退社から次の出社までに一定時間の休息を設ける「インターバル規制」を義務化するかどうかでも労使は対立している。

国会で2年にわたって継続審議となっている高度プロフェッショナル制度の動向も、働き方改革の先行きを不透明にしている。専門性が高い職種の年収1075万円以上の人は、働く時間に関係なく成果のみで賃金を決める仕組みで、「自ら働く時間の配分を決められ、効率よく働くことができる」というのが売り。だが、「成果が出るまで際限なく働かされる、残業代ゼロ法案だ」との批判も絶えない。

「長時間労働を増やそうというのか、なくそうというのか、全く不明で支離滅裂だ」

1月23日の衆院本会議で民進党の大串博志政調会長は、残業規制と高プロを両立させようという政府を「矛盾している」と追及した。しかし首相は今国会で「両制度には整合性がある」との答弁を繰り返し、「両方必要」と強調している。

それでも、自民党内ですら「残業規制と高プロの矛盾は明らか」との指摘が出ている。同党や官邸も本音では「同時に進めるのは無理」(自民党厚生族)と考えているという。そうした中、ひとり高プロにこだわっているのが構造改革派の塩崎恭久厚労相だ。

昨年末も、自ら自民党国対筋を回り、成立の必要性を説いたほど。野党から「矛盾」を突かれても、「高プロは健康確保措置を義務づけており、長時間労働にはならない」とはねつけている。

「聞く耳を持たない」とは、塩崎氏の定評。「暴走したら、残業規制に影響するぞ」。自民党幹部はそう言って、顔をしかめた。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2月17日号)

2017年度予算案は綻びだらけ(鷲尾香一)

今国会の重要テーマの一つ、2017年度予算案には、大きな綻びがある。

一般会計の歳出額は97兆4547億円と5年連続で過去最大を更新。原資となる歳入は、税収を16年度当初予算よりも1080億円多い57兆7120億円と見込んでいる。

問題は税収見込み額だ。実は、16年度予算では円高要因から法人税収が伸び悩み、税収不足に陥った。このため、政府は16年度第3次補正予算で、税収を1兆7440億円減額修正、税収不足分は1兆7512億円の赤字国債の追加発行を決めた。

16年度予算で税収不足に陥ったにもかかわらず、17年度予算案は税収増加を前提とした。これでいいのだろうか。

金利低下と円安ドル高効果で企業収益に貢献した「アベノミクス」が、税収を見る限り“曲がり角”を迎えていることは明らかだ。そこに、日本の金融政策を「通貨安誘導」だと批判し、米国企業保護のためドル高をやり玉にあげるトランプ大統領が、文字通り、暴れはじめている。日本企業の収益力は低下するだろう。17年度の税収が16年度を上回るなどというのは「とらぬ狸の皮算用」なのだ。

綻びはまだある。国債関係だ。新規国債発行額は34兆3698億円と16年度を622億円下回り、当初予算では7年連続減少した。また、歳入に占める国債の割合を示す国債依存度は16年度の35.6%から35.3%へ低下する見込みで、財政健全化の建前は何とか取り繕った恰好だ。国債費は16年度より800億円超少ない23兆5285億円に抑制した。

だが、新規国債発行額の減少と国債費の抑制には“カラクリ”がある。

新規国債発行額の減少は、外国為替資金特別会計(以下、外為特会)の運用益を全額、一般会計の歳入に繰り入れたことで実現した。結果、歳入の「その他収入」は16年度を6871億円上回る5兆3729億円が計上されている。

一方、国債費の抑制は、日本銀行が長期金利をゼロ%程度に誘導する金融緩和を実施していることで、財務省が16年度に1.6%と想定していた国債の金利を17年度は1.1%に引き下げたことがある。つまり、金利は上昇せず、国債の利払い費が減少するという「皮算用」が働いているのだ。

しかし従来、財務省は金利の急上昇により国債の利払い財源に不足が発生しないように保守的な金利設定を行ない、国債費に余裕を持たせて予算を計上してきた。

その結果、多額の国債費の余剰が毎年度発生し、これが補正予算の財源に充当されていた。だが、17年度予算案では想定金利を引き下げたことで、国債費の余剰は望めなくなった。むしろ、金利が急上昇した場合には国債の利払い財源が不足する可能性すらある。補正予算に使えるだけの国債費の余剰が発生する可能性は潰えた。

さらに、外為特会の剰余金(いわゆる埋蔵金)も当初予算に吐き出してしまったため、補正予算には使えない。もし、年度途中に補正予算を組まなければならないような不測の事態に陥った場合、またぞろ「赤字国債」で資金調達するしかなくなったわけだ。17年度予算案は綻びだらけだ。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト、2月17日号)

原発事故避難者を路頭に迷わせるな(宇都宮健児)

東日本大震災・福島原発事故から6年が経とうとしている。復興庁によれば、2017年1月16日現在、全国の避難者数は12万6943人に上り、そのうち福島県・宮城県・岩手県外への避難者数は4万6645人に上っているということである。また、福島県内外への避難者数は8万846人で、うち県外への避難者数は3万9818人に上る。

ところで、原発事故避難者のうち、国が決めた避難指示区域からの避難者に対しては、東京電力から不動産賠償や精神的慰謝料の支払いなどが行なわれてきたが、避難指示区域外からの避難者、いわゆる「自主避難者」に対しては、災害救助法に基づく「みなし仮設住宅」の無償提供が唯一の支援であった。ところが、自主避難者にとって唯一の支援である住宅の無償提供が、今年の3月いっぱいで打ち切られようとしている。

福島県の発表によると、自主避難者は16年10月現在、1万524世帯、2万6601人(うち県外避難5230世帯、1万3844人)に上っており、自主避難者の約7割が4月以降の住居が決まっていないということである。

『読売新聞』の調べでは、自主避難者が生活している46都道府県では、24都道府県が何らかの独自支援を行なうことを決める一方で、19県が独自支援を見送ることを決めており、3県が検討中ということである。

ところで、東京都内の自主避難者数は16年9月現在、717世帯、約2000人といわれている。東京都は独自支援策として都営住宅の優先入居枠を300戸提供することにしているが、収入要件・世帯条件が厳しいため大半の避難者が応募資格に満たず、現段階での斡旋世帯数は196世帯にとどまっている。

自主避難者の多くは、子どもを被ばくから守るために避難をしている人たちである。自主避難者の中には、夫を福島に残し、母子で避難している人も多く、そのため、二重の生活費の負担で経済的に困窮している人が多い。また、都内であっても住宅を転居することになれば、子どもの通う学校を転校せざるを得なくなり、いじめを受けることを再び心配する自主避難者も多い。避難者の中には、このままでは4月以降、ホームレスとなるしかない、路頭に迷ってしまうと訴える人も少なくない。4月以降も現在の住宅に無償で住まわせてもらいたい、というのが多くの自主避難者の切実な願いである。

自主避難者に対する住宅の無償提供の打ち切りは、自主避難者に対し、事実上強制的な帰還による「被ばく」か、避難を継続することによる「貧困」かの究極の選択を強いるものであり、政治の責任を放棄する冷酷・無慈悲な政策と言わねばならない。

自主避難者は、原発事故さえなければ、子どもの被ばくを心配して避難することもなかったのである。その意味では福島原発事故に責任のある国と東京電力は、責任をもって自主避難者に対する住宅の無償提供を継続すべきであるし、避難先の都道府県も最大限支援の手をさしのべるべきである。

震災からの復興は、何よりも「被災者自身の復興」「人間の復興」でなければならないからである。

(うつのみや けんじ・弁護士、2月17日号)