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『冬ソナ』は人生の分岐点 映画アンケートで見えた韓流と女性たちの20年

室田 康子・ジャーナリスト|2026年5月15日7:55PM

進化し続ける女性たち


 ただ、今回の映画が呼び起こすのは作品そのものへの評価だけではない。アンケートの回答からは、20余年前に冬ソナと出合った人々がどれほど韓国への関心を強め、繰り返し訪れ、韓国ドラマや音楽を楽しんできたか、「推し活」という言葉がなかった時代から俳優や歌手を夢中で応援し、韓国語や歴史、文化へと関心を広げてきたかが伝わってくる。

「韓国語の勉強を始めたり、韓国に旅行したり、K―POP好きになったりと韓国尽くしの毎日になりました」(60代)、「地理的に近い国なのに知らないことばかり。韓国の習慣や歴史などの書籍を読み漁りました」(50代)、「韓国文化への関心から、歴史からみる日韓関係、韓国語、食文化など、どんどん関心が広がり続けている」(50代)……。「嫌韓だったが考えが変わった」「韓国に親しみ、尊敬の気持ちを持った」など、韓国に対する意識が変わった人もいた。「(冬ソナは)日韓の距離を縮め、文化交流が人の垣根を越えるということをやってのけた」「このドラマによって多くの女性たちの考えが変わった。その影響の大きさは政治でもなしえないほど」という記述もあった。

 ドラマをきっかけに行動範囲が広がり、ライフスタイルも変わった。「韓国料理やお酒も好きになり、(韓国の店が集まる)新大久保へ行くことも多くなった」「何度も渡韓。1人で海外に出かけることが当たり前になり、青春を取り戻し、人生を楽しんでいる」「行動を共にするヨン友ができたことが最高の財産」「パソコンも上達」(いずれも70代)、「冬ソナに出合わなければ、その後どのように過ごしていたか想像ができないほど」(60代)……。

 なかには人生が大きく変わった人もいる。40代の女性は高校時代にドラマを観て、「少女漫画のような男性主人公の振る舞いに感動。(物語の展開で)心はジェットコースター状態」だったという。進路を決める時期に、一緒に観ていた母親が亡くなった。悩んだ末、女性主人公のようなキャリアウーマンになりたい、語学をきわめて日韓の懸け橋になりたいと韓国に留学。「苦戦しましたが韓国企業で勤務し、韓国に日本のコンテンツを広める機会を得ました。冬ソナは人生の分岐点」という。

今も続く大きな影響力


 50代の女性は、少し色あせた『韓国日報』を大事に保管している。05年に冬ソナツアーに参加したときの大きな記事。楽しそうに笑う30代の彼女がいる。ドラマに出合ったころは仕事に行き詰まりストレスをためていた。映像を観ながら久しぶりに涙が流れた。とても癒やされた。その後、音楽や小説へと関心は広がり、韓国語能力試験で最上級の6級に合格。将来は韓国語を学び始める日本人に教えられたらという。「冬ソナがなかったら今の私はいません」

 女性たちはなぜ、あれほど夢中になったのだろう。美しい景色、俳優たち、音楽、当時の日本のテレビドラマではあまり描かれなくなっていた純愛……。さまざまな要素がパズルのようにはまって、2000年代初めの日本の女性たちを大きく動かした。韓国への視野を広げた文化現象でもあった。それは今も彼女たちの中で続いている。20余年後の映画は、その影響の大きさを改めて浮かび上がらせている。

『韓国日報』の冬ソナツアーの記事を掲げる女性。韓国語能力試験の成績証明書などは20年の確かな軌跡だ。3月9日、東京都新宿区で。(撮影/室田康子)

◇アンケートは2026年2月下旬~3月中旬、ドラマや映画を観た人を対象に、韓流ファンや先行上映会、映画館を訪れた人に協力を求め、オンライン(一部は紙)で実施。214人から回答を得た。主な質問は「ドラマを観た当時の感想」「ドラマをきっかけに気持ちや行動に変化はあったか」「映画を観てどう感じたか」など。結果は以下のQRコードから見ることができる。

【コラム】時代遅れの日本女性観 山下英愛・文教大学教授

 映画は、日本の観客だけを意識した特別版という点では、半分成功し、半分は物足りなさも感じました。ドラマの「冬のソナタ」は、韓国に対する日本人の見方を大きく変えるほどの力を持っていました。恋心をくすぐる描写や懐かしい学校風景、記憶喪失などのドラマチックな展開、そして感情を率直に表現する男性主人公の魅力に、中高年女性たちは胸をときめかせました。恋愛物語として見れば映画も楽しめますが、核心的な部分が抜けていると感じます。

 私は『女たちの韓流』(岩波新書)でこのドラマを「未婚の母」と「私生児」の物語として読み解きました。男性主人公の母親は若い頃に恋人だった女性主人公の父親に捨てられ、父親の親友と関係を持って息子を生みます。主人公たちが育った1970〜90年代の韓国には戸主制があり、子どもは基本的に父親の家に属する存在でした。「未婚の母」と子に対する視線も冷たかった。母親が「父は死んだ」と言い続けた理由を語るところはドラマの重要な場面ですが、映画では描かれていません。恋愛物語として再編集するにしても、「出生の秘密」は重要な鍵だったと思います。

 映画の反応をみると、観る側が変わったと感じます。かつてドラマを熱烈に支持した女性たちは、その後さまざまな知識を得て韓国社会への理解も深めてきました。制作側が日本の中高年女性を昔のイメージのまま捉えているのだとすれば、少し時代遅れかもしれません。制作側に韓国の家父長制問題に関心のある人がいれば、違った内容になったのではないでしょうか。

 韓国では2005年に戸主制が廃止され、家族関係登録制度は家単位から個人単位へと変わりました。「冬のソナタ」は放送が終わっても人々に影響を与え続けてきた稀有なドラマです。今回の映画公開が、韓流ブームを改めて考えるきっかけになればよいと思います。

(『週刊金曜日』2026年4月3日号)

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