『冬ソナ』は人生の分岐点 映画アンケートで見えた韓流と女性たちの20年
室田 康子・ジャーナリスト|2026年5月15日7:55PM
20余年前、日本の中高年女性を中心に大ブームを巻き起こした韓国ドラマ「冬のソナタ」が映画になって帰ってきた。純愛を軸に再編集された映画版はどう受け止められたのか。そして、あのブームは何を残したのか。200人を超えるアンケートの回答から見えてきたのは、「冬ソナ」をきっかけに韓国と濃密に関わり、視野を広げ、人生を変えてきた女性たちのたくましい姿だ。

「主題歌が流れた瞬間に当時の気持ちがよみがえってワクワクドキドキ」「何度も涙が出て目がショボショボ」。上映初日の3月6日、東京・新宿ピカデリーではこんな声があちこちで聞かれた。観客の大半は中高年の女性たち。エンドロールが終わっても余韻に浸る人や、近くの人と熱く感想を語り合う姿もあった。
都内に住む石原秀子さん(76歳)は、病気治療での入院を数日後に控えて1人で見に来た。シングルマザーで仕事と子育てに忙しかった時期、ドラマの冬ソナは「生きる力」だったという。意を決して参加した韓国・済州島でのイベントでできた仲間とは今も交流が続く。「音も映像もDVDとは全然違う。訪れたロケ地を思い出しながら観ました。がんばって治療して、退院したらまた来ます」
中西梅子さん(70歳)は双子の娘、あすかさん(47歳)、かおりさん(47歳)と静岡県から駆けつけた。3人で何度も韓国のロケ地を訪れたり、チマ・チョゴリでイベントに参加したりしてきた。娘たちは「母は冬ソナの話になるとフワーっと若くなるんです。こんなに夢中になれるものがあるのはすてきなこと」。上映の直後は興奮気味に話していた3人だが、後でアンケートに答えてくれた梅子さんは冷静だった。「当時ほどは心に響かなかった」「カットされていた部分が多く、内容がわかりづらい」。もちろん、と言葉を添えた。
「愛があるからこその評価です」

「純愛」に絞った映画版
ドラマ「冬のソナタ」は韓国KBSで2002年に放映され、日本ではNHKで03年から衛星放送や地上波で放送された。全20話。高校時代の初恋の相手を事故で失った女性が10年後、記憶をなくしたその人と出会う。記憶が戻り、ようやく結ばれるかというとき、父親が同じ兄妹ではないかという「出生の秘密」が立ちはだかる――。地上波最終回の視聴率は20%を超え、男性主人公を演じたペ・ヨンジュンさんは「ヨン様」と呼ばれて人気沸騰。ロケ地ツアーなど経済波及効果は2300億円(第一生命経済研究所)といわれ、その後の韓流ブームの原点となった。
今回の映画は、ドラマと同じユン・ソクホ監督が関わり、20話約23時間分の映像を再編集して2時間にした。韓国での公開予定はなく、日本の観客だけに向けた「特別版」だ。主人公2人の恋愛物語が中心で、初恋の場面が繰り返し現れ、ヨン様のアップも多い。ドラマにはあった恋愛のもつれや「未婚の母」と息子の苦悩、家族の反対などドロドロした描写はあまり出てこない。そこには、20余年前の大ヒットの要因を「日本の中高年女性たちに、少女の心、かつてのときめきを取り戻させたから」(ユン監督)ととらえ、「純愛」「ヨン様」を前面に出した編集の意図がうかがえる。

アンケートでは56・7%の人が「20年前と変わらず感動した」と答えており、その狙いはある程度当たったといえる。一方で、「当時とは違う見え方がした」(16・6%) 、「当時ほどは心に響かなかった」(10・2%)と答えた中の何人もが疑問に挙げていたのが、2人は兄妹ではなかったと説明されないまま、キスシーンでハッピーエンドになるところだ。「終わり方が微妙」「兄妹疑惑晴れないままでみんな泣いているけど、それでいいのですか?」と手厳しい。
茨城県桜川市で2月にあった特別試写会に登場したユン監督に質すと、「短くするにあたり父親が誰かということをはっきりさせてしまうと、ストーリーの流れからインパクトが大きすぎると考えた。ドラマを観た人には最後のキスシーンで2人は兄妹ではなかったとわかってもらえると思った」という答えだった。映画だけ観た人は消化不良になりかねず、ドラマを繰り返し観てきた人には物足りなさが残った可能性がある。







