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命を左右する改正入管法が成立 送還される人たちの運命は

樫田 秀樹・ジャーナリスト|2023年6月7日11:19AM

家族を引き裂く

ナビーンさんとなおみさん。2022年1月。筆者が初めて取材した時の写真。(撮影/樫田秀樹)


 そして、この法案成立で実現するのは、親子や夫妻が引き裂かれることだ。

 私が特に留意するのが、日本人配偶者を妻にもつ仮放免者だ。そのなかでも、夫妻ともに顔出しで取材に応じてくれるのが、スリランカ国籍のナビーンさん(42歳)と妻のなおみさん(50歳)だ。ナビーンさんは「スリランカに送り返されたら殺される。なおみとも会えなくなる。私は帰らないのではない。『帰れない』のです」と訴える。

 ナビーンさんの父はスリランカで反体制派の政治運動をしていた。03年4月、政府側と思われる10人ほどの男に突然襲われ、そのとき受けた暴行により腎機能が悪化。その後、死亡した。

 この襲撃で自身も腕を骨折したナビーンさんは、「いつか自分も殺される」と恐れ、まだ存命中だった父の勧めもあり、ビザ発給が早い日本への逃避を決め、同年12月、留学ビザを携え日本語学校の留学生として来日した。

 だが、04年夏に日本語学校が倒産。校長と経営者は雲隠れし、転校先へのあっせんもなく、ナビーンさんは学生寮も出ることになる。

 05年12月に留学生ビザが失効し在留資格を失うが、スリランカへの帰国だけは避けるため、そのままオーバーステイを選んだ。それが13年3月に発覚すると、東京出入国在留管理局(以下、東京入管。東京都港区)に収容された。なおみさんとは16年に結婚した。

 ナビーンさんはこれまで難民認定申請をしていたことで、入管がいかに退去強制令書を発付しようとも、強制送還されることはなかった。だが、2回目の申請は昨年不認定となったことで、もし入管法改正案が成立すれば、強制送還の対象となりうるのだ。

 ナビーンさんは今、あまりの不安から家に引きこもっている。「もう生きたくない」と包丁で首を切ろうとしたこともあり、精神科で「うつ病」と診断された。

 夫の人生が奪われようとしている。なおみさんは今、各地の集会に参加しては改正案の廃案を訴えている。
「夫がスリランカに戻れば投獄や拷問が待っています。私は夫をスリランカに帰すわけにはいかないのです」

 2人は今、難民不認定の取り消しを求める裁判で闘っている。

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