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命を左右する改正入管法が成立 送還される人たちの運命は

樫田 秀樹・ジャーナリスト|2023年6月7日11:19AM

強制送還後の悲劇



 もし非正規滞在者が本国に送還されたらどうなるのだろう。

 一つの例を挙げる。私は2018年夏から、トルコ国籍のクルド人男性のHさんを取材していた。Hさんは、トルコ人やトルコ政府からクルド人が日常的に受ける差別や弾圧を幼いころから見ていた。

 最も衝撃的だったのは、肉親が無数の事務書類を提出して認可をとり、苦労して建設したチーズ工場が易々とトルコ人の手に奪われたことだった。

 また、抗議の声を上げただけで、大人たちが逮捕され、拷問されていた。その日常に自分の未来が見えず、Hさんは1999年に来日。だが難民認定されず、収容と仮放免とを繰り返した。

 私と会ったとき、Hさんは妻と2人の息子と暮らしていた。ところが、Hさんは19年4月に突然収容される。
 面会に行くと、Hさんはすでに諦めていた。

 その前日、家族が面会に来た。2歳の息子が、目の前のアクリル板のどこかにあるはずの「取っ手」を探し、「パパ、抱っこ」と必死に訴えた。「あれがつらかった」とHさんは振り返る。

 当時、入管では2~3年もの長期収容が常態化していて、Hさんはそんなに長く家族と離れるのならと、入管の「帰れ」の要請に従い、泣く泣く、そしておそるおそる帰国を決意したのだ。

 当初は当局から身を隠すため、都会に紛れて生きていた。だが20年、ついに居場所を突き止められ、警察の対テロ対策課に逮捕された。現在、在宅起訴され監視下に置かれるが、有罪が確定すれば懲役10年以上が確実視されている。

 Hさんには日本の長期収容よりもつらい現実が待っている。Hさんが問われた罪は、東京での集会で、反政府組織の支援ともとれる演説をしたことだ。SNSにアップされたその映像が逮捕の証拠となったのだ。クルド人はこういうことだけでも逮捕される。

 こういう事例があるから、何度難民認定申請が不許可となっても、2、3年に及ぶ長期収容を強いられ心身がボロボロになっても、非正規滞在者は申請を繰り返すのだ。

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